IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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ある意味簪が勝ち組に?


動作チェック

 六人が訓練を開始したころと時を同じくして、簪は関係者以外立ち入り禁止区域の前までやって来ていた。職員室で真耶にこの場所までの道のりを聞いて、そこから先は一夏が案内してくれることになっているのだが、周辺に一夏の姿はない。

 

「織斑先生? 更識簪です」

 

 

 何処かにいるのだろうと思い声をかけるが、簪の思惑とは違い一夏の姿は何処からも現れない。もしかしてと思い携帯を取り出し、虚に電話をかける。

 

『はい? 如何なされましたか、簪お嬢様』

 

「もしかしてまた、お姉ちゃんが生徒会の業務を抜け出したんじゃないかって思って」

 

『よく分かりましたね。織斑先生が捕まえてくれたお陰で未遂に終わりましたが、お嬢様のサボり癖はどうにかならないものかと……っと、簪お嬢様に愚痴っても仕方ありませんでしたね、失礼しました』

 

「それじゃあ今そこに織斑先生がいるんですよね?」

 

『いえ、用事があると言ってお嬢様を生徒会室に届けてすぐいなくなりました。といっても、つい先ほどまではいらっしゃったのですが』

 

「そっか。ありがとうございます」

 

 

 聞きたい事が聞けたので、簪はこの場で少し待つことにした。約束相手が楯無とかだったら、約束を忘れてるんじゃないかと疑うだが、一夏だったらそんな事ないだろうと思えるだけの信頼がある。

 

「すまない、遅れたな」

 

「いえ、お姉ちゃんが原因だと思って虚さんに確認を取りましたから。それに、待とうと思ってまた十秒も経ってませんから」

 

「そうか……すぐに始めるか?」

 

「はい!」

 

 

 一夏の申し出に二つ返事で答えた簪は、一夏の後に続いて第五アリーナを目指す。途中で人が生活しているような部屋が目に入ったが、余計な口は利かずに自分が完成させたISに全神経を向ける事に集中した。

 

「ここが第五アリーナだ。普段は誰も使っていないが、動作チェックくらいなら問題なく行える」

 

「一人で使うには広すぎると思いますけどね。場所を提供してくださり、ありがとうございます」

 

「お礼はチェックで不備が無かった時に言え。万が一不備が見つかったら、また整備室に逆戻りだからな」

 

「お、脅かさないでくださいよ……」

 

「なに。必要以上に肩に力が入っていたからな。冗談でも言えば解れると思っただけだ」

 

「あっ……」

 

 

 自分が緊張していた事に今更ながらに気が付き、一夏のお陰で全身に入っていた無駄な力が、今はすっかり抜けていた。

 

「さて、俺はここで見ているから、簪は思いっきりISを動かしてみろ。何かあっても何とかしてやるから、動かす事だけに集中するんだ」

 

「はい!」

 

 

 頼もしい支援を約束され、簪はそれだけで他の事に頭を悩ませる必要がないと思えた。それだけ一夏に対する信頼は高く、彼ならなんとかしてくれると思わせるだけの力があるのだろう。

 一夏から頼もしい言葉を貰いピットに移動した簪は、緊張と興奮が混ざった感情を押さえつけて専用機――打鉄弐式を展開してアリーナに飛び立つ。

 

「(展開はスムーズに出来た。飛行動作の誤差も許容範囲内……後は武装の展開やその連動に問題が無ければ、後は私が操縦技術を磨くだけ……)」

 

 

 打鉄弐式の目玉武装である山嵐を展開して的に放つが、予想着弾時間よりも大幅に遅い結果に終わり、簪は焦りを覚えていた。

 

「(連動が甘い……? それともどこかの不備でこんな結果に?)」

 

 

 もう一度確かめようと的を出現させ山嵐を放つが、結果は先ほどと同じ。また整備室で研究しなければいけないのかと落胆したそのタイミングで、危険を知らせるアラートが鳴り響いた。

 

「せ、制御不能!? 何がどうなってるの」

 

 

 つい先ほどまで快調に動いていたISが突如制御不能に陥り、簪は軽くパニックを起こしていた。冷静に対処すれば何とか出来ただろうが、そんな余裕は簪には残ってなく、無抵抗に壁に向かって落ちていく。

 

「(やっぱり私にはむいてないのかな……)」

 

「おい、受け身くらい取ったらどうだ?」

 

「はい?」

 

 

 壁にぶつかるものだと覚悟を決めていた簪の頭上から声が降ってきて、簪は間が抜けた声を上げて目を開ける。そこには打鉄弐式を纏ったままの自分を生身で受け止めた一夏の姿があった。

 

「お、織斑先生っ!? も、申し訳ございません!」

 

「いや、生徒を守るのも教師の務めだからな。冷静さを取り戻したのなら、とりあえず下りてもらえるか」

 

「は、はい! 今すぐ下ります!」

 

 

 慌てて一夏から飛び退いて自分の足で立った簪は、もう一度一夏に頭を下げる。

 

「申し訳ございませんでした、織斑先生。もう一度整備室で研究のし直しをしてきます」

 

「何処かの連動が甘かったようだな……って、ここは束が気まぐれでやって見せたところか……ということはアイツ、何か仕込んだな……」

 

「あ、あの……?」

 

 

 打鉄弐式をじっと見ていると分かっているのだが、それを纏っている自分が見られているような気がして、簪は気まずさを覚えたのだった。




この一夏なら、原作以上に上手く立ち回れても不思議ではない

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