IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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恐ろしい程速い……


仕事の速さ

 シャルロットの一人称問題が解決したところで、ラウラが本来の目的を思い出して簪に話しかける。

 

「貴女は個人で専用機を造っていると聞きましたが、元々は何処かの企業が造っていたのを引き取って個人で造っているのですか? それとも一から個人で造っているのですか?」

 

「最初から一人で造ってたんだけど、最近はちょっと手伝ってもらって漸く完成しそうかな」

 

「そうなのか? それなら今度の学年トーナメントは簪も強敵になるな」

 

「今日の放課後に試運転をして、何処も動作不良が無ければ完成。後は政府に届け出をすれば、晴れて私も専用機持ちという事になるんだ」

 

「ほぇ~随分と捗ってたんだね~。当初の予定では、今年中に完成するかどうかって見込みだったのに」

 

 

 本音のセリフに、簪は苦笑いを浮かべながら頷く。

 

「そうだね。私一人だったらたぶんそれくらいかかってた……ううん、おそらくそれでも完成してなかったと思う」

 

「なら何故完成させることが出来たんだ?」

 

「いろいろと問題が解決したのと、意地を張らずにアドバイスを貰ったからかな」

 

「問題というと、噂のお姉さんか?」

 

「うん……変に意地を張らないで一度お姉ちゃんと話したら、今まで感じていた劣等感が薄まったんだ。お姉ちゃんも織斑先生に助けてもらってたって分かったら、なんだか親近感すら覚えたくらいに」

 

「まぁ一夏さんは基本的には人に干渉しない人だが、信頼できると思った人には干渉もするし、アドバイスもしたりするからな」

 

「一夏教官ならそれくらい当然だな!」

 

「お前、なかなか分かってるな。一夏兄なら、大抵の事は解決できるだろうな!」

 

 

 妙な結束が生まれた千冬とラウラを無視して、箒は簪の話の続きを聞くことにした。

 

「お姉さんとの問題が解決したのは一夏さんのお陰だという事は分かった。だがそれだけで滞っていた作業がスムーズになるとは思えん」

 

「うん。だから織斑先生や虚さんに相談して、何処が駄目なのかを指摘してもらったり、どうすればいいのかアドバイスを貰ったりしたんだ。まさか篠ノ之博士にまでアドバイスしてもらえるなんて思ってなかったけど」

 

「姉さんが?」

 

「織斑先生曰く、ただの気まぐれだったらしいけど」

 

 

 束がアドバイスをしたという事に驚いた箒ではあったが、続く簪の言葉で納得した。あの人が善意から手伝ったのではなく、単純に退屈だったからたまたまあった簪の専用機の部品を弄って遊んだのだろうと。

 

「ん? 放課後試運転するといったか?」

 

「うん」

 

「アリーナの使用許可は私たちが貰ってるんだが」

 

「それ第一アリーナでしょ? 私が使うのは第五アリーナで、それほど大きくないところだから。調整後の試運転などを目的に使われる事が多いアリーナで、一年生の間ではそれほど知ってる人はいないところ」

 

「そんなところがあるのか……」

 

「関係者以外立ち入り禁止区域にあるから、特別な許可が無きゃ入れないところだって。お姉ちゃんが教えてくれたんだ」

 

「ん? 関係者以外立ち入り禁止区域……?」

 

 

 その場所にアリーナ以外に何があるか知っている箒は、まさかそこの側ではないだろうなと千冬に相談しようとしたが、彼女は未だにラウラと一夏の凄さを語り合っていた。

 

「簪、その関係者以外立ち入り禁止区域って、学園のどこら辺なんだ?」

 

「詳しい事はまだ聞いてない。放課後、山田先生が付き添ってくれるらしいんだけど」

 

「山田先生が?」

 

「本当は織斑先生が付き添ってくれる予定だったんだけど、専用機完成の手続きに必要な書類とかを手配してくれることになったらしくて、その代役で山田先生が私の付き添いになったんだ」

 

「……どちらかというと、山田先生が一夏さんの方の仕事を担当した方が良いんじゃないか?」

 

「私もそう思ったけど、どうもこの間の一件が尾を引いてるらしいんだよね……織斑先生が引導を渡すんじゃないかってお姉ちゃんが言ってたけど」

 

「一夏さんが、引導を……そりゃ、ご愁傷様だな」

 

 

 箒が見たことも無い議員に同情したタイミングで、何処かに行っていた本音が簪の許に戻ってきた。

 

「あっ、そういえばかんちゃん。織斑先生から預かってたものを渡すの忘れてた」

 

 

 そう言って本音は簪に紙の束を手渡す。その束に目を通した簪は、今まさに話題にしていたものだったので驚いてしまった。

 

「これって専用機完成の手続きに必要な書類じゃない……織斑先生、仕事早すぎだよ」

 

「なんでも『一喝したらすぐにもらえた』んだって。それから、放課後も織斑先生が案内してくれるってさ」

 

「さすが一夏さん……」

 

 

 箒の中では、一夏ならこの程度は当然だろうという事で片づけられたが、簪の中ではちょっと処理するのに時間がかかる。

 

「ところで本音、何時の間に一夏さんからこの書類の束を貰ったんだ?」

 

「ん~? さっき、廊下で会った時に」

 

「会ったっけ?」

 

「お手洗いに行った帰りにね~」

 

「それで途中、いなかったのか」

 

 

 話の途中から入ってきた理由はそういう事かと、箒はうんうんと頷いて納得するのだった。




一夏に一喝されたら出すよな、そりゃ……

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