IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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他の一人称は逆にしっくりこない気が……


一人称問題

 昼休みになり、ラウラとシャルロットを連れて千冬たちは食堂にいる簪に声をかける。

 

「簪、ちょっといいか?」

 

「千冬? あぁ、その人たちが噂の?」

 

「どんな噂かは知らないが、今学内の話題をさらっている転校生二人だ」

 

「始めまして、更識簪です」

 

 

 座っていた簪は、二人に挨拶するために立ち上がり、軽く頭を下げる。それにつられるようにラウラとシャルロットも頭を下げた。

 

「ご丁寧にどうも。ボクはシャルロット・デュノアです」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒであります」

 

「うん……噂通りだね」

 

「簪、その噂というのは?」

 

 

 箒が簪に尋ねると、簪は少し答えにくそうな表情を浮かべたが、別に隠す事ではないと考えて噂の内容を話し始める。

 

「恐らくシャルロットさんの方が、少し男の子っぽい美少女で、ラウラさんの方がいかにも軍人な美少女ってウチのクラスでは話題になってる」

 

「ボクって男の子っぽいのかな?」

 

「うむ、私は軍人だからな」

 

「ラウラはまぁ気にしてないようだから良いが、シャルロットはその一人称が原因じゃないのか?」

 

「織斑先生や山田先生にも言われたけど、この一人称って日本じゃ普通だと思ってたから」

 

「何でそんな勘違いを? 普通は『私』って一人称を使うと思うんだけど」

 

 

 簪がズバリ尋ねると、シャルロットは一夏たちにした説明と同じ事を彼女たちにも伝えた。

 

「なるほど……シャルロット以外集合」

 

 

 説明を聞き終えた千冬が、残りのメンバーを集めて小声で相談を始める。

 

「どう思う? 少なくとも私の知る限りではあんなことありえないと思うんだが……」

 

「私も同じだ。女子であの一人称を使ってる知り合いはいないな」

 

「私も知らないな~。といっても、それほど交友範囲が広かったわけじゃないから知らなかっただけかもしれないけど」

 

「もしかしたら、シャルロットさんのお父さんは日本のゲームが好きなのかもしれないね」

 

「かんちゃん、どういうこと?」

 

 

 この中で唯一ゲームなどに詳しい簪は、自分の見解を彼女たちに発表する。

 

「とある作品集の中には、シャルロットさんが言っているように女子でも『ボク』という一人称を使う女子が存在するんだよね。だからもしかしたらシャルロットさんのお父さんは、その作品集のファンなのかもしれないと思っただけ」

 

「その『作品集』って何だ?」

 

「所謂『ギャルゲー』って呼ばれるゲーム。男の子になって女の子と仲良くなるゲーム」

 

「そういえば、数馬のやつがやっていたのも、その『ギャルゲー』じゃないのか?」

 

「そう言われれば……ちょっと数馬に聞いてみるか」

 

 

 そう言って千冬はポケットから携帯を取り出し、数馬の番号を呼び出し電話をかける。

 

『何かあったのか?』

 

「数馬、少し聞きたいのだが」

 

『俺に? 千冬が俺に何を聞くって言うんだよ』

 

「お前、ギャルゲーって知ってるか?」

 

『あぁ』

 

 

 あっさりと知っていると告げる数馬に、千冬は視線で問いかけてきた箒に小さく頷いて続きを尋ねる。

 

「じゃあそのゲームの中で、女子が『ボク』という一人称を使う事ってあるのか?」

 

『あぁ、所謂「ボクっ娘」か……というか千冬、そんな知識何処で仕入れたんだ? 一夏さんがそんなゲームをやってるとは思えないが……』

 

「当たり前だ! あっ、いや……転校生でそういう子がいるんだが、もしかしたらそうなのかなと思ってな」

 

『リアルボクっ娘か? 三次元ではあまりいないと思うんだが……まぁ雰囲気に合ってるなら良いんじゃないか』

 

「そうか、現実では珍しいんだな……分かった、ありがとうな」

 

『はいよ』

 

 

 数馬から聞きたい事を聞き出せた千冬は電話を切り、簪の推測が正しいと確信した。

 

「あの、ボクっておかしいのかな?」

 

「まぁ、私や箒が使ってたらおかしいかもしれないが、シャルロットには似合ってると私は思うぞ」

 

「うん。シャルロットさんは雰囲気も中性的だし、違和感はないね」

 

「その一人称で慣れてしまってるのなら、今更変えろとも言いにくいしな。私たちが気にしなければ問題ないだろ」

 

「そっか。ならこのままでも良いんだね。というか織斑さんと篠ノ之さんのお友達には、ボクのお父さんと似たような趣味の人がいるんだね」

 

「やっぱりシャルロットさんのお父さんも?」

 

「うん。良く分からないけど『現実に失望した』とか言ってたよ」

 

「えぇ……」

 

 

 愛人まで作っておいてそのセリフを吐くのかと、簪はあったことも無いシャルロットの父親に対して呆れてしまう。一方で数馬と同じセリフを吐いたのかと、千冬と箒は「そういう事はよくあるのか?」という顔をしながら首を傾げる。

 

「とにかく、シャルルンはその一人称で良いと思うよ~」

 

「しゃ、シャルルンって……」

 

「ラウラウはどう思う?」

 

「シャルロット自身が気に入っているのなら、無理に変える必要は無いと思う」

 

「だってさ~。良かったね、シャルルン」

 

「う、うん……ありがとう」

 

 

 本音のペースに乱されたシャルロットは、とりあえずお礼を言っておくことにしたのだった。




これで一応解決?

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