実習が終わり、セシリアと鈴は己のふがいなさを感じていた。仮にもIS学園の教師だから、強いのではないかと思っていたが、まさか手も足も出ない結果になるとは思っていなかったのだ。
「鈴さん、放課後時間ありますか?」
「あるけど、なにをするの?」
「もちろん特訓ですわ! このままでは国家代表など夢のまた夢ですもの」
「あたしは国家代表なんて興味ないけど、確かに負けっ放しなのは性に合わないわね……いいわよ、放課後特訓しましょう!」
二人で意気込んでいるところに、千冬と箒がやってきた。もちろん、シャルロットとラウラも一緒だ。
「その特訓、私たちも手伝わせてもらおう」
「ありがたいですが、千冬さんと箒さんは補習があるのではありませんか?」
「もちろん、それが終わった後になるが、いないよりかはマシだと思うぞ」
「それじゃあお言葉に甘えて、特訓相手になってもらおうじゃない」
「それなら私も手伝わせてもらおう! ドイツ軍仕込みの特訓方法を――」
「ちょっと待って! ドイツ軍仕込みって、一夏さんが基準じゃないでしょうね?」
「何を言っている? あの人が基準などあるわけないだろうが! あの人は基準ではなく目標だ!」
冷静になって考えれば、一夏が基準なんてありえないと鈴も思えた。なのでラウラの申し出も受ける事にしたのだった。
「ボーデヴィッヒさんは部活動はよろしいのですの?」
「そっちにも興味はあるが、強くなろうとしてる者の側にいれば、おのずと自分も強くなれるからな」
「そう言うものですの? ですが、ボーデヴィッヒさんが加わってくれれば、訓練に幅が出来るのは確かですわね」
「じゃあボクも手伝おうかな。どうせまだ暇だし、ボクも一応候補生だからね」
「一応って、あんたはモンド・グロッソを目指さないの?」
シャルロットのやる気の低さに、鈴は違和感を覚えた。同じ候補生として、彼女のモチベーションの低さは少しおかしく感じたのだ。
「ボクはあくまでもデュノア社の広告塔としてISを動かしてるから、会社の方針で目指すも目指さないも変わってくるからね。今のところは目指してもいいって事になってるけど、何時変わるか分からないから、それほどモチベーションも上がらないんだ」
「そういう事なのね……まぁ、アンタの実力を見るのにもちょうどいいし、アンタが加われば六人で偶数だもの。いろいろと出来そうね」
「そういうわけだから、さっそく一夏兄のところに行って放課後のアリーナの使用許可を取ってこなくては!」
「意気込むのは良いが、まずはISスーツから制服に着替えろ。そのままの格好で座学に出るつもりなのか」
「別に構わない――いや、次は一夏兄の授業だったな」
もし着替えもせず授業に参加したとなれば、なにをしていたんだと怒られるに違いないので、千冬は急ぎ制服に着替え教室に戻ることにした。
「それじゃあ、あたしはあっちだから」
「昼休みまでには、一夏兄に許可をもらっておく」
「お願いね。許可が無いと訓練も出来ないんだから」
「恐らくだが、それほど利用者は多くないと思うぞ。この先は大したイベントも無かったはずだし」
「学年トーナメントは? 学年が変わって最初の全員が参加出来るイベントだと聞いていますが」
「何か賞品が出るわけでもないし、それほど盛り上がりそうもないだろ? 噂によれば、成績に問題があるやつが点数稼ぎで参加するのが殆どだという事だし」
「そうなんですの? それなら、気にせずアリーナを使えますわね」
もし本気でトーナメントに挑む人が多かったらさすがにアリーナを使い続ける事に罪悪感を懐いただろうが、そういう事情ならアリーナを使いたがる人もいないだろうと安心して、セシリアは訓練に向けて更に意気込む。
「というか千冬、そんな噂何処から仕入れたんだ? 私は聞いていないが」
「本音が言っているのを偶々耳にしただけだ。それが本当なのかどうか分からないが、嘘を流す必要もないだろうし、恐らく本当なんだろう」
「本音といえば、簪の専用機はそろそろ完成するのか?」
「この間聞いた時は後少しだと言っていたんだし、学年トーナメントまでには完成するんじゃないか?」
「この学校には専用機を作ってる人がいるの?」
「そういえばシャルロットとラウラは知らないんだったな。たぶん昼休みに顔を合わせるだろうから、そこで紹介しよう」
「うん、お願い」
IS企業の娘として、日本の技術力が気になったのだろうかとも思ったが、そのような裏事情は感じられなかったので、千冬も箒も警戒することなくシャルロットに簪を紹介する事を決めた。
「おっと、そろそろ一夏兄が来る。急いで席に座るぞ」
千冬の言葉を聞いて、三人も急いで着席し、チャイムが鳴るのを大人しく待つのだった。
基本的に真面目ですから、訓練も特に盛り上がりがなく終わりそうだな……