セシリアと鈴が真耶と闘う事になった事に少し驚いたが、千冬と箒は真耶の実力を知るいい機会だと思っていた。実のところ、千冬と箒は真耶の事を「それほど強くないのではないか」と疑っていた。
そもそもセシリアとは違い、二人は剣術で真耶を倒しているのだから、その強さを疑っても不思議ではないし、一夏があそこまで信用しているのなら、それなりに実力があるのだろう思うのも当然なのだ。
「織斑さんと篠ノ之さんは、山田先生の事を疑ってるの?」
「何故そう思うんだ?」
「だって、さっきから山田先生の事をジッと見てるし」
シャルロットに指摘されて、漸く千冬と箒は真耶の事を睨みつけていた事を自覚し、とりあえず真耶からシャルロットに視線を移した。
「あの一夏さんが、実力のない人を側に置くとは思えないからな。それなりに実力はあるのではないかと思っているのだが、何せ入学試験で私と千冬に負けているからな……」
「そうなの? それってさっき織斑先生が言っていた、壁に突っ込んで――って感じじゃなくて?」
「あぁ。私と箒は、あの先生の事を真正面から斬り捨てた」
「斬り捨てって……ISで剣道でもやったの?」
「剣道ではなく剣術だ。私の実家が道場をやっていて、私と千冬、更に一夏さんも剣術を会得している。まぁ、私たちと一夏さんとでは、実力に差があり過ぎて『会得している』なんていうのは恥ずかしいがな」
「なるほど。それで教官に棒状のものを持たせると無類の強さを発揮していたのか……」
「ボーデヴィッヒ? 何だか震えてないか?」
「いや……初対面の時に我々全員で束になって襲いかかったというのに、一夏教官は落ちていた箒一本で我々を瞬殺したんだ……それ以降、我々は一夏教官に逆らおうなどと考えなくなった」
「実力を計るにしても、もう少し方法があっただろ……一夏兄を相手に正面衝突とは、自殺行為だぞ」
一夏の実力を十二分に知っている千冬と箒からすれば、ラウラたちが取った行為は、まさしく「自殺行為」だった。
「まぁ、そのお陰で我が隊は統率が取れた優秀な隊に進化し、一夏教官指導の下、ドイツ軍最強の地位まで上り詰めたのだ」
「まぁ、一夏兄の実力からすれば、それくらい簡単にしてのけるだろうな。っと、話が逸れたな。そんな一夏兄だから、無能な後輩を重宝するとは思えないんだ」
「なるほど……さっき織斑先生が言っていたように、オルコットさんと凰さんと闘わせることで、山田先生の実力を計ろうって事だね」
「そうだな。一夏さんが五分もいらないと言った以上、本当に五分かからないかもしれないぞ」
自分が知らないところでプレッシャーをかけられているなんて、恐らく真耶は思っていないだろう。実際先ほどまでおたおたしていたはずの真耶は、既に覚悟を決めた表情になっている。
「あれが山田先生か……」
「凄い闘気だな……」
「さっきまでの雰囲気から一変したな」
「えっ、何?」
この中で唯一、闘気や雰囲気に敏くないシャルロットは、三人が真耶を見て驚いている事が理解出来ずに、一人首を傾げた。
「普段の山田先生からは考えられない程の闘気が発せられている」
「これなら本当に五分かからずセシリアと鈴を負かすかもしれないな」
「私が今まで会って来た候補生の中でも、これほどの闘気を発するヤツはいなかった……日本の元代表候補生、さすがは一夏教官の後輩にあたる人だ」
「えっと……つまり、山田先生は本気になってるって事?」
「簡単に説明するなら、それで構わないだろうな。だが、そんな簡単な事ではないのだが」
「まぁ、武術の心得が無い人間に、闘気や殺気を理解しろという方が無理な話だから、その説明で良いだろ」
「そんな心掛けでは、いざ戦場に赴いた時に真っ先に死ぬぞ!」
「いや……ボクは戦場に行かないから」
ズレたツッコミを入れてきたラウラに、至極まっとうな返しをして、シャルロットは真耶に視線を固定し、三人が言う「闘気」を見ようと目を細める。
「うーん……駄目だ。ボクには分からないや」
「恐らくここにいる殆どの連中が分かってないと思うから、そう落ち込む必要はない」
「いや、あそこにいるのほほんとしたヤツ……山田先生の闘気に気付いている。アイツもなかなかだな」
「まぁ、本音だしな……」
「アイツは私たちも分からない……だが、一夏兄が一目置いているのは確かだ」
「教官の目は確かだから、かなりの実力者という事か……今度手合わせ願いたいものだ」
「おっ、そろそろ始まりそうだ。一夏さんがこっちに来るから、雑談はこれで終わりだな」
結局真耶の実力がどの程度なのか分からなかったシャルロットは、この闘いをしっかりと見ておこうと決意して思考を切り替えた。一方のラウラは、真耶の実力よりも本音の実力が気になっていたのだった。
ラウラもですが、千冬も箒も人じゃないな……それ以上が一夏ですが……