IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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実力は確かですから


一夏の信頼

 落下してくる真耶を眺めていた一夏だったが、数歩歩いて落下地点に移動した。生身で受け止められるはずもないと声を上げようとしたシャルロットを、千冬が肩を抑えて止める。

 

「見ていればわかる」

 

「でもっ! いくら織斑先生とはいても、上空からあのスピードで落ちてくるISを受け止める事なんて――」

 

「まぁ、普通はそう思うだろうな」

 

 

 落ちつきはらっている千冬の隣では、箒も無言で頷いていた。シャルロットは二人が何か知っているのだと理解したが、それでも一夏の身を案じる気持ちに変わりはなかった。

 

『来るわよ』

 

「分かっている」

 

 

 誰もいない空間に言葉を発したかと思った次の瞬間、アリーナに衝撃が走った。砂埃が舞う中、その中心ではISを展開して真耶を御姫様抱っこする一夏が、一歩も動くことなく立っていた――周囲に一切の爪痕を残さずに。

 

「お前は昔っからそそっかしいな」

 

「ご、ゴメンなさい……久しぶりにISを纏ったら、ちょっと緊張してしまいまして」

 

「確かオルコットとの入学試験の時も、同じような事を言ってなかったか?」

 

「だって、引退した私が、現役の代表候補生と闘うだなんて、思ってもみなかったものですから……」

 

「おい貴様! 何時まで一夏兄にくっついているんだ!」

 

 

 一夏と真耶の接触を快く思っていなかった千冬が、白檀を展開して真耶を狙い引き金を引く。だが一夏の反射速度と、真耶の射撃の腕によって、その攻撃は真耶に当たることは無かった。

 

「織斑、誰がISを展開して良いと言った」

 

「ご、ゴメンなさい……ですが、何時までも引っ付いている山田先生も問題があると思います。というか、織斑先生にくっつきたくて、わざと操縦不能を装ったのではありませんか?」

 

「そ、そんなことはありません! というか、そんな不純な動機があったら、織斑先生には見抜かれるでしょうし」

 

「それは確かに……」

 

「織斑、後で反省文五十枚提出するように」

 

「ご、五十枚!? な、何とか半分になりませんかね?」

 

 

 一夏から無慈悲なる罰を言い渡され、千冬は白檀を解除し、しょんぼりと肩を落として列に戻った。

 

「今の織斑の攻撃を防いだのを見て分かるように、山田先生の射撃の腕はかなりのものだ」

 

「ですが織斑先生、私と鈴さんの二人で山田先生と闘うのですよね?」

 

 

 言外に、すぐにこちらが勝ってしまうのではないかと告げるセシリアに、一夏は人の悪い笑みを浮かべて答えた。

 

「安心しろ。今のお前たちなら五分ともたずに負ける」

 

「お言葉ですが、元代表候補生とはいえ、私は入学試験で山田先生に勝っているのですが」

 

「不慣れな打鉄を使った挙句、足をもつれさせて壁に突っ込んで勝手に気絶しただけだろ」

 

 

 一夏の言葉に、セシリアは反論の言葉を無くし、真耶はみるみる顔を赤く染め上げた。自分の失態を生徒の前で言われた事も恥ずかしいのだが、その事を一夏が知っていた事も恥ずかしかったのだ。

 

「どうやらお前たちは山田先生の事を軽んじているように見受けられるからな。ここらで学園の教師の実力を知っておいてもらった方が良いだろう。ましてや現役の国家代表候補生二人をまとめて相手にして勝てば、少しは見直すだろうしな」

 

「お、織斑先生……見下されてるのを前提で話を進めないでくださいよぅ」

 

「ではオルコットと凰は、作戦を立てるなりの時間が必要だろうから、五分だけ時間をやる。その間に他の諸君は危なくないよう隅に移動するように」

 

 

 真耶の抗議を完全に無視して、一夏は残りの生徒に移動を命じ、セシリアと鈴の側から離れる。一夏に相手にしてもらえなかった真耶も、不貞腐れながらも一夏と一緒に二人から離れた。

 

「というか、あんなに煽ってどうするんですか! 万が一負けたら恥ずかしいじゃすまないじゃないですか……」

 

「お前が代表になれなかった原因の一つは、そのネガティブ思考だ。たかが小娘二人に負けるような実力じゃないだろ」

 

「一夏さんが私の実力を認めてくださっているのは嬉しいですけど、一夏さんと同時期に引退した私が、現役の候補生に敵うと思ってるんですか?」

 

「個々の能力では厳しかったかもしれないが、アイツらは連携訓練など積んでないだろうからな。そもそもISの戦闘は一対一が基本で、モンド・グロッソもそうだからな。それこそがお前の活路だ」

 

「……そうやって人を煽るのが得意ですよね、一夏先輩は」

 

「真耶なら出来ると信じているからお前に任せたんだ。そうじゃなきゃ、凰が心配していたように俺が相手をしていた」

 

 

 一夏に信じられていると言われ、真耶の顔は先ほどとは比べ物にならないくらい真っ赤になった。だがすぐに真顔に戻ったのは、一夏の信頼を裏切れないと気合いを入れたからだ。

 

「その調子なら、三分でけりがつきそうだな」

 

「さすがに無理ですよ」

 

 

 一夏の冗談に笑顔で返すほどの余裕が出来た真耶は、セシリアと鈴の姿をしっかりと捉え、もう一度気合いを入れたのだった。




セシリアと鈴だけではなく、真耶も煽る一夏

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