教室で着替え始めたクラスメイト達を見て、シャルロットとラウラは素朴な疑問を懐いた。
「この学園には更衣室は無いの?」
「あるぞ」
「では何故教室で着替えるんだ? 更衣室があるならそこで着替えた方が良いだろ」
「どうせ女しかいないから問題ないんだろ。更衣室に制服を置いておいて、実習が終わったらそこでシャワーを浴びて制服に着替えるんだ」
「女しかいないって言っても、織斑先生は男性だよね? 見られるとかそういう心配はしないの?」
「一夏兄をバカにするな! 覗きなんて破廉恥な事、一夏兄がするわけないだろうが!」
何気ない質問だったのだが、どうやら千冬の逆鱗に触れてしまったようだと、シャルロットは素直に頭を下げた。
「ゴメン。そんなに怒るとは思わなかった……」
「いや、疑いが晴れたのならそれでいいが」
「何で一夏教官が覗きなんてことをすると思ったんだ? あの人は我がドイツ軍でも女子に囲まれていたが、むしろ私たちが一夏教官の裸を覗こうとしたくらいだぞ」
「一夏さんの、裸…だと……」
「おいア箒、鼻血が出てるぞ……何を想像したんだ、貴様は?」
「おっ、そろそろ急がないといけない時間だな。ボーデヴィッヒ、デュノア、気持ち急ぎ足でアリーナに向かうぞ」
「無視するな!」
千冬からの追及を完全に無視して、箒はシャルロットとラウラの二人の手を取って廊下を急ぎ足で進む。間違っても廊下を走ろうなんて気にはならないので、二人とも何とか箒の早さについて行けるのだった。
「貴女も一夏教官に特別な気持ちを懐いているのか?」
「ま、まぁ……小さいころから兄代わりみたいな感じだったからな……」
「羨ましいぞ。私も一夏教官と小さいころから一緒にいたかった!」
「それを今言っても仕方ないんじゃない?」
「むぅ……」
シャルロットのツッコミに、ラウラは頬を膨らませる。その仕草が可愛かったのか、シャルロットはラウラの頬に指を突き立てた。
「にゃっ! にゃにをする!?」
「ボーデヴィッヒさんのほっぺってぷにぷにしてて気持ちいいんだね~。何か特別なケアでもしてるの?」
「そのようなチャラついた事などしていない! 精々洗顔くらいだ」
「それでこんなにすべすべぷにぷにのお肌なんて、羨ましいを通り越してズルいよね」
「スキンケア談義もいいが、後ろから千冬が物凄い形相で追いかけてくるから、とっととアリーナに逃げ込むぞ」
既に校舎内を抜けたため、箒は全速力で走って逃げたい気持ちになっていたが、この二人が自分のスピードについてこられるのかが心配で、気持ち速度を緩めて走った。その結果全速力で追いかけてきた千冬に追いつかれたが、始業のチャイムギリギリだったという事で何とか見逃してもらえたのだった。
「何だか面白そうな事してるわね。その二人が噂の転校生?」
「何だ、鈴も知っていたのか」
「当然でしょ。転校生の話題っていうのは、あっという間に校内に知れ渡るものなのよ。後で黛先輩がインタビューしに来るかもしれないわね」
「お前、あの人の事知ってたのか?」
「あたしもインタビューされたし」
自分たちが知らないところでそんなことがあったのかと感心した二人だったが、一夏の姿が見えたのですぐに整列した。
「今日は一組と二組の合同授業だ。まずはそうだな……オルコット、凰、前に出ろ」
「はいですわ!」
「何でしょうか、織斑先生」
「入学してしばらくたったところで、お前たちの実力を他のやつらに知ってもらおうと思ってな」
「つまり、私と鈴さんで模擬戦をするのですか?」
「いや、お前たちにはペアとしてある人物と闘ってもらう」
「まさか、一夏さんと!?」
「学校では織斑先生だ、馬鹿者が」
つい素が出てしまった鈴は、一夏に怒鳴られ小さく舌を出して反省した。
「私が相手してやってもいいが、他国の候補生を再起不能にしたとか言われるのも面倒だからな。今回は別の人間を用意したから、そっちとやってもらう」
「よかった……」
鈴としても、一夏を相手にするくらいなら、誰だか分からない相手の方が何千倍もマシだと感じられた。それはセシリアも同じようで、先ほどからビクビクしていた身体が、今は大人しくなっている。
「それで織斑先生、私たちの相手というのは?」
「そろそろ来るはずなんだが……」
『あなた、上空から回転しながら何かが落ちてくるわよ』
突如響いた女性の声に、千冬と箒、本音以外の生徒は辺りを見渡し、一夏は痛みを抑えるように頭を抱えていた。
「オルコット、凰、少し下がっていろ」
「何事でしょうか……?」
「なに、すぐに分かる」
一夏が上空を指差すと、そこにはラファールを身にまとった真耶が、回転しながら落下してきていた。
「ど、どいてくださーい!」
「「なっ!?」」
学園の教師が操縦不能に陥った事にも驚いたが、落下してくる真耶を見て一切動じない一夏にも、生徒たちは驚いたのだった。
このシーンは残しておかないと