朝からクラス中が騒がしいのが気になり、千冬は箒に理由を尋ねた。
「何かあるのか?」
「私が知るわけないだろ。そもそも殆ど一緒に行動している私が知っているなら、お前が知らないわけないだろうが」
「……それもそうだな。私とお前とでは、交友関係に違いなど無いわけだし、私が知らない情報網を持っているわけないか」
「今日から転校生が来るんだよ~」
箒が知らないと納得していた横から、本音が無邪気に千冬に飛びついて騒がしい理由を明らかにした。
「本音か……重くはないが邪魔だ。降りろ」
「む~! もう少し驚いてくれても良いじゃないか~」
「気配で人が近づいてるのには気づいていたからな。跳び付かれるとは思っていなかったが、その程度では驚いたりしない」
「おりむ~もなかなかに人外だよね~。普通気配なんて分からないって」
「この程度剣術を習えば誰でも会得できるだろう」
「まぁ、私も出来るしな」
「だから、おりむ~とシノノンの常識は、世間では常識外れなんだってば」
基準が一夏や束になっているので、千冬や箒はこれくらい出来て当たり前、出来ない方がおかしいと考えている事が多々あるのだ。それを本音に指摘されても、二人は考えを改めようとはしない。
「まぁ私たちの常識云々は兎も角として、この間鈴が転校してきたばかりだというのに、また転校生なのか? この学園では、これが普通なのか?」
「うーん……そもそもIS学園というのは特殊な学校だから、そう簡単に転校なんて出来ないはずなんだけど、今年はちょっと異常だよね~」
「またお姉さんから聞いたのか?」
「おね~ちゃんが織斑先生と話してるのを偶々聞いただけだけどね~」
「一夏兄と?」
何処で話していたのか気になった千冬ではあったが、廊下に一夏の気配を感じ取って本音に詰め寄るのは止め、クラスメイト達に着席を促す。クラスメイト達も、千冬に促されれば大人しく席に着くので、HRの開始が遅れる事は無くなっていた。
「皆さん、おはようございます。今日は転校生を紹介しますね。しかも二人」
教壇に立った真耶がそういうと、教室のドアが開かれ二人の少女が入ってくる。
「では初めにデュノアさん、自己紹介をお願いします」
「シャルロット・デュノアです。わけあってこんな時期に転校してきましたが、よろしくお願いします」
「はい、次はボーデヴィッヒさん」
「はっ! ラウラ・ボーデヴィッヒであります!」
「え、えーと……私にではなく皆さんに自己紹介をして欲しいのですが……」
「失礼しました! ドイツ軍所属、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。過去に織斑教官に指導してもらった経験を生かし、この学園でも精進していきたいと思っています」
ラウラの自己紹介に、真耶はどうすればいいのかと一夏に視線を向けたが、一夏は頭を抑えるような仕種をしていた。
「織斑、篠ノ之、この二人の世話をお前たちに任せる」
「私たちに?」
「いち――織斑先生、何故私たちなのでしょうか?」
油断して「一夏さん」と呼びそうになった箒ではあったが、何とか踏みとどまった。とりあえずはセーフと判定されたようで、一夏からの鉄拳指導は入らなかった。
「二人ともいろいろと事情があってこの時期の転校という運びになっているからな。噂話などに興味がないお前たちが相手をした方が、二人も落ち着いて学園生活を送れるだろう」
「そういう事情でしたら」
「よろしくお願いします」
「ではHRはこれで終わります。この後は実習ですから、皆さん遅れないでくださいね」
一夏と真耶が退出すると、千冬と箒はシャルロットとラウラに近づき、改めて挨拶を交わした。
「私は織斑千冬だ。苗字で分かるように、一夏兄の妹だ。だが、あまり一夏兄と比べないでもらいたい」
「篠ノ之箒だ。私も千冬同様にあまり姉と比べないでもらいたい」
「転校してさっそく凄い人と知り合いになっちゃった、ボク」
「「ボク?」」
「あっ……織斑先生に直せって言われてたんだけど、一日じゃ無理だよ」
「教官の妹というと、誘拐された少女というのはお前か」
「あぁ、そうだが?」
「お前のせいで織斑教官は引退しなければいけなくなったが、お前のお陰で我が軍で織斑教官が指導してくれた。だから、文句とお礼を言わせてもらいたい」
「素直に受け取りがたいが……」
とりあえず言いたい事が言えてスッキリしたのか、ラウラは「休め」の体勢で千冬と箒を眺めている。
「とりあえず次は実習だから着替えないとな。遅刻すると一夏さんのありがたい鉄拳制裁が入るからな」
「鉄拳制裁って?」
「出席簿で頭を叩かれるんだ……痛いぞ」
「うむ! あれはとてつもなく痛かったな」
「経験者だったのか……」
「とにかく、急いで着替えてアリーナまで案内しよう」
ラウラとシャルロットに着替えるよう言い、自分たちも着替えて四人はアリーナを目指すのだった。
最初からいい子だとやり難いな……