一夏の指示のお陰で、素早い避難誘導が出来た真耶は、生徒の安全を確保できたと確認してすぐモニター室に戻った。
「山田先生!」
「更識さん? 早く安全な場所に――」
「私も手伝います!」
簪も避難したとばかり思っていたので声をかけられたことに驚いていた真耶だったが、簪のやる気にみなぎっている視線を受けて、自分が折れることにした。
「お願いします。私は解析をしてみますから、更識さんは他に問題がないか確認してください」
「分かりました」
普段頼りないと思っていた真耶が的確に指示を出してくれたことに驚いた簪だったが、すぐにモニターに視線を戻して周辺を確認していた。
「(特に問題は無さそうだね……それにしても、千冬や箒は一生懸命戦っているというのに、私はここで山田先生のお手伝いしか出来ない……候補生なのに後方支援しか出来ない私は、やっぱり代表になるべきじゃないのかな)」
ネガティブな考えを繰り広げていた簪だったが、モニターに不審な動きをする技術者を見つけて、それどころではなくなった。
「山田先生! みんなが避難してる場所に近づこうとしてる技術者がいます」
「やはり一夏さんの心配が的中してしまいましたか……」
そう言って真耶は携帯を取り出してどこかに電話を掛けた。簪は一夏に掛けたものだと思っていたが、真耶の口から出た名前は、一夏ではなかった。
「更識さんですか? 一夏さんの想像通りになりましたので、対処をお願いします」
「お姉ちゃん?」
楯無は今授業中じゃないかと思ったが、生徒会長であり暗部の頭領でもある楯無がこういう場面に動くのは当然かと思い直し、再びモニターに集中する事にした。
「更識さん、他には問題は無さそうですか?」
「今のところは無いですね。織斑先生があえて逃がしたんですよね?」
「やはり更識さんにも分かりましたか。こうして怪しい人間を捕まえて見せしめにすれば、これ以降学園に干渉しようとしないだろうって」
「それでお姉ちゃんが駆り出されたんですか?」
「一夏さん曰く『どうせ授業を抜け出して簪の試合を見に来るだろうから、万が一の時に動いてもらう』との事です」
「まったく、お姉ちゃんは……」
行動理由が恥ずかしいのもあるが、一夏にお見通しなのに行動を起こした事にも恥ずかしさを感じていた。
「(お姉ちゃんが私の事を思ってくれているのは嬉しいけど、さすがにやり過ぎだよ……)」
一夏の想像通りに動いていた楯無を恥ずかしく感じた簪は、顔を赤くしながらモニターで周辺を警戒し続けたのだった。
千冬と箒が時間を稼いでくれたお陰で、鈴とセシリアの体力とSEは十分回復し、すぐさま二人と合流した。
「お疲れ! 後はあたしたちがやるから、二人はフォローと周辺の警戒をお願い」
「任せろ!」
「千冬さん。私は射撃に集中しますので、お願いしますわね」
「おぅ!」
機体の性能を考えれば、箒が前衛で鈴がそのフォロー、千冬とセシリアが後方支援なのだが、相手のISが動いているものを標的とする傾向があるので、箒が囮になり鈴がその隙に砲撃を叩き込み、セシリアが精密狙撃で敵の動きを止める作戦に出た。千冬はセシリアに攻撃が飛んできた際のフォローを担当する。
「さっきから気になってるんだが、あのIS……やたらと機械的な動きをしてないか?」
「ISは機械なんだから当然なんじゃない?」
「いや、そういう事じゃなくてだな……あのIS、人が乗ってないんじゃないか?」
「無人機、ということですの? ですが、そんな技術何処の国も開発出来ていないはずですが……」
「あれは姉さんが送り込んできたISだろうから、姉さんが開発したんだろう」
「さすがは篠ノ之博士という事ですか……」
技術力の違いを感じながらも、セシリアは敵ISの腹部に狙いを定め、箒はセシリアが狙いやすいよう機体が正面を向けるように動き回る。
「今だ!」
敵の攻撃が箒に集中したのを見てすぐ、鈴が砲撃を放ち敵の体勢を崩す。砲撃が的中し、敵の動きが止まったのを見て、セシリアが腹部にレーザーを放つが、敵ISが回避行動を試みようと動き出そうとして――
「させるか!」
――千冬が敵ISが動こうとした側から砲撃し動きを止めた。そのお陰で敵腹部にセシリアの一撃が的中し、見事に敵ISを撃退した。
「か、勝ちましたの?」
「敵ISの停止を確認。あたしたちの勝ちね」
『四人ともお疲れ様。後は山田先生が引き継ぐって』
「簪? 分かったわ。それじゃああたしたちは引っ込むわね」
アリーナ入口に真耶がいるのを見た鈴が三人に指示を出し、それぞれピットに戻る。
「そういえば対抗戦はどうなるのでしょうか?」
「中止じゃない? さすがに再戦はしないと思うし」
「また議員たちが見学するとか言い出したら、今度こそ一夏兄が怒るだろうし、中止になるだろうな」
ここまで延期して結局中止かと、鈴はやれやれとため息を吐いたのだった。
五人はそれぞれ頑張った