IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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既定路線ですが


問題発生

 組み合わせが発表され、第一試合は一組対二組、すなわちセシリア対鈴だった。

 

「ありゃ、いきなり試合か」

 

「負けませんわよ」

 

「あたしだって負けるつもりは無いわよ」

 

 

 互いに宣戦布告をしながらも、表情は笑顔。試合になれば手加減はしないが、場外から敵対するつもりは無いという事なんだろうと、他の代表たちは思っていた。

 

「それじゃあ、あたしはあっちだから」

 

「正々堂々戦いましょう」

 

「当り前よ。他国の候補生と闘えるんだから、この機会を無駄にしないようにしましょう」

 

 

 セシリアと鈴が去った控室で、簪は今の光景を思い返していた。

 

「(あんなふうに、誰かをライバルだと思える日が来るんだろうか……私はただ、お姉ちゃんに負けたくないって気持ちだけでここまで来たから……)」

 

 

 楯無をライバル視していた所為で、簪は他に目を向けてこなかった。その楯無とも和解が出来、ライバル視する必要もなくなってきているので、簪は何処にモチベーションを向ければいいのかに悩んでいるのだ。

 

「(国家代表にもそれほど興味があるわけじゃないし……織斑先生の後釜ってだけでプレッシャーだしな……お姉ちゃんもそれだから国籍を代えたのかな?)」

 

 

 無敗で大会連覇を果たした一夏の後釜ということは、当然優勝を期待される。何処の国でも代表には優勝を期待するのだろうが、日本ではその期待はけた違いなのだ。

 

「(IS発祥の国にしてモンド・グロッソ連覇を成し遂げている国の代表だもんね……そのプレッシャーは計り知れないだろうし……想像しただけで気持ち悪くなってきたかも)」

 

 

 現状として、自分が一番代表に近いと考え、簪は吐き気を催した。すぐにその考えを頭から追いやり、歓声が上がったアリーナに視線を向ける。

 

「あっ、鈴とセシリアの試合、もう始まってたんだ」

 

 

 考えに集中していた所為か、開始のカウントを聞き逃していたらしいと、簪は自分がそれだけ思考に集中していたのかという事に気が付いた。

 

「セシリアは遠距離主体、鈴は中距離から近距離って感じか……間合いを保てるかどうかが勝負の分かれ目」

 

 

 二人の闘い方を冷静に分析しながら、自分ならこの相手ににどう動くかを考え始める。このように冷静に自分ならどうするかと分析できる能力があるから、簪は次期代表筆頭なのだ。

 

「あれ? モニターの故障……」

 

 

 急にノイズだらけになった映像に違和感を覚えた簪は、咄嗟に一夏がいるであろう方向に目を向ける。ISがあれば視認出来ただろうが、さすがに距離があって一夏の表情は捉えられなかったが、何か緊急事態だという事は理解出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 客席で観戦していた千冬と箒は、突如アリーナの天井を突き破って現れたISを見て、すぐに犯人に心当たった。

 

「またあの人は……」

 

「一夏さんが苛々していた原因の一端は、間違いなくコレだろうな……」

 

「一夏兄が黙って見逃すとは思えないが、注意したところで束さんが大人しくするとも思えないな……」

 

「千冬、一夏さんに電話してみたらどうだ?」

 

「そうだな」

 

 

 恐らく出てはくれないだろうと思いつつ、千冬は携帯を取り出し一夏の番号にかける。意外な事に二コール目で一夏は電話に出てくれた。

 

『何か用か?』

 

「一夏兄、あれは束さんのですよね?」

 

『そうだ。お前たちにはアレを止める為に出動してもらう。無論、凰とオルコットの回復が済むまでの間の時間稼ぎだ。勝とうとは思うな』

 

「お前たちということは、私と箒ですか」

 

『手の内は見せるな。時間稼ぎだけを考えろ』

 

「……束さんが何を考えたのか、私にも分かった気がします」

 

 

 一夏が時間稼ぎという言葉を強調した事で、千冬にも束の思惑が感じ取れた。要するに政府の人間に自分たちの実力を認めさせようとしたのだろうと。

 

『俺は一応この爺共に被害が及ばないようにしなければいけないからな。そっちの対応はお前たちに任せる』

 

「分かりました。ちなみに、セシリアと鈴が回復するのに、どのくらいの時間がかかるんですか?」

 

『おおよそ十分だろう。もちろん、誤差はあるだろうが』

 

 

 視線で箒に確認を取り、二人は急いでピットからアリーナに飛び出した。一夏が真耶に注意を促しておいたお陰で、システムを乗っ取られる事は無かったようで、二人はすぐにセシリアと鈴と合流した。

 

「二人とも、私たちが時間を稼ぐから、体力とSEの回復を急げ!」

 

「千冬!? そっか、一夏さんの指示ね」

 

「そういう事だ。我が姉の不祥事は私が何とかする」

 

「我が姉って、このISを送り込んできたのは篠ノ之博士なのですの!?」

 

「どういうわけか知らないが、たぶんそういう事らしい」

 

 

 事情を説明しても理解してもらえないだろうと分かっているので、あえて事情を伏せ二人を避難させた箒に、千冬は苦笑した。

 

「お前も大変だな」

 

「そんなこと言ってる場合ではなさそうだぞ」

 

「そうだな……あのIS、何故私たちが喋っている間に攻撃してこなかったんだ?」

 

「姉さんが考えることなど、私には分からん」

 

「それもそうか」

 

 

 停止させて一夏に調べてもらえば分かる事だと頭を切り替え、二人は侵入してきたISと対峙するのだった。




問題の原因は大抵束……

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