クラス代表として集められたセシリアたちは、真耶から試合における注意事項の説明を受け、控室に案内された。
「なんで一夏さんじゃなくてあのぽやっとした人があたしたちに説明したのかしら? 一夏さんがした方が効果があると思ったんだけど」
「織斑先生、国会議員や技術者の対応を任されているみたいだよ」
「あーそれで不機嫌だったのかしら」
鈴も一夏の不機嫌オーラは感じ取っていたので、何事かと思っていたらしい。簪からの説明で納得がいった鈴は、同時に真耶が自分たちの説明を担当したことも理解した。
「あの人って確か、一組の副担任よね」
「そうですわよ」
「一夏さんに押し付けられたんだろうな。でもまぁ、一夏さんは信頼してる人にしか仕事を任せたりしないから、あの先生は一夏さんに近しい人なんだろうね」
「確か、織斑先生が代表を務めていた時の候補生で、後輩だってお姉ちゃんから聞いたことがある」
「ただの後輩にそこまで期待はしないでしょうから、何か他の理由もありそうね……恋人?」
千冬が聞けば激昂しそうなことを平然と言ってのけた鈴ではあったが、すぐに自分の考えを否定した。
「あの先生じゃ一夏さんに釣り合わないか。幼い感じだったし、どことなくどんくさそうだったし」
「鈴さん、それは山田先生に失礼ではありませんか?」
「でもさ、一夏さんの隣にあの先生が立っていたとして、恋人に見える?」
「「………」」
鈴に言われて想像してみたのか、簪とセシリアは二人同時に首を左右に振った。
「残念ですが、恋人には見えませんでしたわね」
「兄妹というか、先生と生徒みたいだった」
「でしょ? そもそも、あのブラコン千冬が一夏さんに恋人がいるなんてことに気付かないはずもないし、恋人では無いんでしょうね」
「まぁ、織斑先生が山田先生の事を信頼している事は分かりましたわ。それよりも気になるのが、些か来賓の方が多くありませんか?」
モニターに映った議員や技術者の数に疑問を懐いたセシリアではあったが、先ほどのHRで一夏が言っていたことを思い出し、鈴と簪にもその事を伝えることにした。
「織斑先生が仰られていたのですが、必要以上にあの方たちに近づかないようにとの事ですわ」
「あたしだって偉そうにしている議員や、自分たちが正義だと思い込んでいるマスコミは嫌いだから、自分から近づいたりはしないけど……一夏さんがそういうって事は、何かあるって事よね? 詳しい事は言ってなかったの」
「技術を盗もうとしているとか仰られていましたが、それ以外にも何かあると千冬さんたちが睨んでいましたわ」
「確実に何かあるんでしょうね……面倒な事にならなければ良いけど」
「鈴って結構ものぐさなの?」
「あによ? 誰だって面倒は嫌でしょ」
鈴の言葉に、簪も頷く。自分で背負いこんだ苦労ならまだしも、面倒事に巻き込まれるのは簪も嫌だと思う。それは当然の事で、特別鈴がものぐさというわけではないという証明にもなった。
「とっとと対抗戦を終わらせてあの人たちには帰ってもらった方が、あたしたちの精神衛生上いいって事よ。それに何より、一夏さんが本気で怒るような事になれば、この学園の半分は崩壊するわよ」
「織斑先生が八つ当たりをするとは思えないのですが……」
「一夏さんの怒りが高ぶれば、専用機である飛縁魔がその気持ちを汲んで行動するでしょうし」
「第二回モンド・グロッソ決勝……」
「一撃で敵を屠り、監禁場所を半壊させたのは一夏さんが限界を超えたからよ」
あの事件は今でも世界中で語られているので、セシリアも当然知っている。その光景を思い出し、鈴が冗談や大袈裟な事を言っているのではないと理解してしまった。
「まぁ、あたしたちに被害が出ないようにはするでしょうけどね」
「でも、建物が崩壊したら授業とかどうするんだろう」
「国に弁償させるんじゃないの? そもそも、こんなちっぽけな大会に大勢で押しかけて来たアイツらが悪いんでしょうし」
「鈴、なんだかお姉ちゃんみたいなこと言ってる」
「お姉ちゃん? あぁ、生徒会長でロシア代表の更識楯無さんね。あの人も議員嫌いなの?」
「全員じゃないだろうけど、偉そうにしてる人とかが嫌って言ってた気がする」
楯無の議員嫌いも一夏の影響なのだろうと鈴は思った。そもそも楯無は大人を信用していないので、その相手が議員だろうがマスコミだろうが一切信用しないのだ。
「そろそろ対戦表が発表になりますわ」
「おっ、あそこに千冬と箒がいるわね」
「本音も一緒にいる」
セシリアは対戦表の発表を待っているが、鈴と簪はモニターに映った友人の姿を見つけ盛り上がっている。なんだか自分がおかしいような感じがするとセシリアは思ったが、他のクラス代表の子たちは自分と同じように対戦表の発表を待っているのを見て、おかしいのはやはり二人の方だと思えたのだった。
偉い人と、偉そうにしてる人は違いますから