クラス代表対抗戦当日、IS学園には大物議員やその子飼いのIS企業の人間などが出入りしていた。学園側としては議員のみを受け入れる予定だったので、このおまけは一夏の機嫌を大いに損ねていた。
「お、織斑先生?」
「なんでしょうか、山田先生」
「あ、あの……そんなに睨まれると怖いんですが」
「別に睨んではいませんが」
「す、すみません!」
一夏が本気で怒ればどうなるか、それは真耶も十分理解している。普段の物静かな雰囲気とは打って変わって、鬼神の如く相手を叩きのめす一面が一夏にはあるのだ。
「たかが新入生の対抗戦で、何故ここまでやつらが見たがるのか理解出来ん」
「今年の新入生には代表候補生が三名いますし、日本の候補生である更識さんがいるからではないでしょうか?」
「更識の専用機は完成していないんですが?」
「うぅ……一夏さん、私を苛めて憂さ晴らししてません?」
どことなく苛められている感じがした真耶は、涙目で一夏に抗議するが、一夏はそんな事実はないと言わんばかりに真耶の訴えを無視した。
「一応女子高だからな。あのクソ爺共に必要以上に近づかないように通達しておいてください」
「それはあちら側の人にですか? それとも生徒にですか?」
「生徒に言っておいてください。向こうが近づいてきたら、全力で蹴り飛ばしても構わないと」
「……さすがに問題になりませんかね?」
「セクハラは立派な犯罪ですから、正当防衛ですよ」
ただ近づいただけでセクハラと言い切るのは無理なんじゃないかと真耶は思ったが、今日ここに来ている議員の顔を見れば、一夏がそう思っても仕方ないのかもしれないと考えを改めた。
「さっきから生徒名簿を見てニタニタしてますね……」
「あんな奴が国を動かしているかと思うと、この国を捨てて他所の国で代表になった更識姉の気持ちが分かるな」
「……そんな理由じゃないですよね、更識さんが自由国籍を使ってロシア代表になったのは」
楯無が日本の代表にならなかった理由を知っている真耶としては、一夏が言った理由は一夏自身の気持ちなんだろうなと正確に理解する。
「そういえば山田先生」
「はい、何でしょうか?」
「どっかの阿呆ウサギが余計な事をしでかすかもしれないので、生徒の安全を確保しておいてください。もしかしたらシステムをハッキングしてシェルターをこちらで制御できなくする、なんてことをするかもしれないので」
「ちょっと待ってください!? なんですかそれ!?」
「ん? 先日ちょっと知り合いの阿呆がそんなことを言っていたので」
束が言っていたのは千冬と箒の実力を知らしめる為に、無人機を一機IS学園に向かわせるという事なのだが、束の事だから一夏が言った事くらい平気でやりかねないと一夏は思っているのだ。
「アイツが組んだシステムなど五秒で解除出来るが、アイツに付き合ってやる義理もないしな」
「一夏さんが相手してあげた方が、篠ノ之博士は喜ぶんじゃないですか?」
「アイツを喜ばせて何の意味がある? とにかく、生徒の安全は山田先生にお任せします」
「……織斑先生はその間、何をしてるんですか?」
「どうせアイツの事ですから、政府要人の一人や二人屠ろうとか考えているでしょうから、不本意ながら要人警護を務めると思いますよ。本当に不本意ですが」
一夏としては、ここにいる政府要人の一人や二人、死んでもいいとは思っているのだが、IS学園に迷惑が掛かる形はなんとしても阻止したいのである。
「エンターテインメントにしても、さすがに人が死ぬのを女子高生が見て平然とはしてられないでしょうし」
「あっ、そっちの心配なんですね……」
「? 当然でしょ。将来有望な学生と、老い先短いくそ議員なんて、比べる必要もありません」
「一夏さんの議員嫌いは知っていますが、さすがに殺しちゃ駄目ですからね? 一夏さんはこれからもIS業界に必要な人なんですから」
「後進の指導など俺の仕事じゃないと思うんだが……それこそ、政府の人間がする事だろ。これ以上安月給の俺をこき使おうとするなら、どっかの国で指導する」
「引く手あまたでしょうけども、私を置いていくのは止めてくださいよ……一夏さんがいなくなったら、どうやって問題を処理すればいいのか分からないじゃないですか」
本気で泣き出しそうになった真耶を見て、一夏は険しい表情を崩し、苦笑いを浮かべた。学生時代から真耶の事を知っているが、この辺りは一向に成長しないなと感じているのだろう。
「何時までも泣き言いってないで、さっさと準備しろ。HRは俺がやっておくから」
「うぅ……一夏さんが不安を煽るような事言わなければ、泣き言なんて言いませんよ」
涙目で訴える真耶をまた無視して、一夏はHRの為に教室へと向かう。無視された真耶は、本気で泣きそうになるのを堪えて、一夏に言われたようにプログラムの強化を始めるのだった。
真耶で憂さ晴らししてる……