何とか課題を終わらせ、一夏に怒られること無く連休を終わらせた千冬と箒は、簪の専用機がどうなったのか確認しにいった。
「――あとちょっとなんだけど、今度の対抗戦には間に合わないかな」
簪からそう聞かされ、二人はなんと声をかけたらいいのかに悩んだが、簪本人があまり重く受け止めていないように感じられ、そこに引っ掛かった。
「お前、連休中になんかあったのか?」
「何で?」
「いや……うまく言えないんだが、連休前と雰囲気が違うような気が……」
「織斑先生や篠ノ之博士が助言してくれたのと、お姉ちゃんと少しは話せるようになったからかな」
「一夏さんと姉さんが? 一夏さんは兎も角、姉さんが簪に助言するとは思えないんだが……」
「助言というか、私が苦労していたところを簡単にやってのけただけだよ。そのお陰で完成に近づけたんだけど」
実に束らしい行動だと、千冬と箒は顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。恐らく簪本人には興味は無かったのだろうが、ISの組み立ては束にとって遊びのようなものだから、気まぐれで組み立ててみせたのだろうと分かったからである。
「でもまぁ、学年トーナメントまでには完成させてみせるよ」
「そうなると強敵が増える事になるな。訓練機でも簪は十分強いんだろうが、やはり専用機となると別格になるのだろうし」
「二人は参加するの?」
「ここで得点を稼いでおかないと、試験だけで合格出来るとは思えないからな」
参加するだけでは得点にはならないだろうが、それなりに進めば十分評価の対象になるだろうと考えての発言だが、一夏がそんなことで酷い点数を見逃してくれるとは考えにくい。それは二人にも分かっているのだが、稼げるものは稼ごうという考えが勝っているのだ。
「そんなに酷いの? 何だったら試験前に勉強教えてあげるけど」
「本当かっ!?」
「う、うん……私に分かる範囲でだけど」
「それでも十分だ! 私や箒、鈴ではどうも心許ないからな」
「まぁ本音の面倒を見るついでになると思うけど、それでもいいなら力になるよ」
「ありがたい」
本気でありがたいと思っているような反応を見て、簪はそれほど自信が無いのだろうと二人の学力をなんとなく把握した。
「二人はクラス対抗戦、誰を応援するの? クラスメイトのオルコットさん? それとも友達の凰さん?」
「まぁ、クラスメイトとしてはセシリアを応援するべきなんだろうが、気持ち的には鈴や簪も応援したい」
「私も?」
「当然だろ。友達なんだから」
「う、うん……ありがとう」
面と向かって友達だと言われ恥ずかしくなった簪は、顔を赤くしながら二人から視線を逸らした。
「とにかく、明日は簪の事も応援するから頑張ってくれよな」
「訓練機だから、専用機持ちの二人には勝てないかもしれないけど、応援してもらった分くらいは頑張るよ」
「本音も簪の事を応援するだろうし、その分は頑張らないとな」
「分かってる。それに、専用機が無くても候補生は強いって思ってもらえるような戦いをしなきゃ、お姉ちゃんに笑われちゃうもんね」
「会った事ないから分からないが、そんなことで笑ったりはしないと思うぞ」
「兄や姉は自分の妹の事をそんな風に思わないだろうしな」
「二人がそう言ってくれるなら、そう思えるよ」
優秀な兄や姉を持つ二人がそう言ってくれたお陰で、簪の中でもそう思えるようになったようで、不安そうな表情が明るく変わる。
「やっぱり姉と比べられるのは簪にとって重荷なんだな」
「二人と違って、お姉ちゃんと年が近いからね」
「歳が近いというのも考え物なんだな」
「歳が離れているのも大変ではあるんだがな」
「でも、離れてればそこまで比べられる事もないんじゃない?」
「そうでもないぞ? ただ、離れてるからなのかは分からないが、素直に凄い人だって認められる」
「お姉ちゃんが凄いって、私も分かってはいるよ……でも、歳が近い分私もって思っちゃうのかもしれない」
「本音のお姉さんも歳が近いらしいが、あそこは上手く行ってるんだろ?」
「あれは虚さんがちゃんとしてるからだよ。本音も虚さんの事を認めてるし、張り合うだけ無駄だって思ってるから」
本音の性格を考えれば、姉に対抗心を燃やすようなタイプではないと、付き合いの浅い二人でも理解出来る。そしてその姉がしっかりしたタイプならば尚更だろうと考え、布仏姉妹の関係は理想形なのかもしれないと感じていた。
「そういえば弾のところも、蘭が弾の事を貶したりしてるし、まともな関係って本音のところだけじゃないか?」
「だがあそこは普通の家庭だからあれが普通なんじゃないか?」
「思春期の妹が兄を貶すのが普通なのか?」
「お前がブラコン過ぎるだけだろ」
「だから私はブラコンじゃない!」
急に大声を出した千冬に、簪はびっくりしたが、箒は特に驚くことなく冷めた目を千冬に向けるのだった。
更識姉妹が一番まとも……か? 布仏姉妹は、虚は兎も角本音がな……