IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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一夏が尻拭いしていた……


知らなかった過去

 クラス対抗戦に向けて、簪は今日も専用機を完成させるべく整備室に早朝から籠っていた。

 

「誰かと思えばお前か」

 

「お、織斑先生……おはようございます」

 

「根を詰めても完成するとは限らないんじゃないか?」

 

「でも、のんびりしてても完成しませんし」

 

「どれどれ~? こんなの簡単だよ~。ここをこうしてあそこをああすれば完成するのに、そんなことも分からないなんて、やっぱり凡人は凡人だね~」

 

「し、篠ノ之束博士っ!?」

 

 

 束が指摘したように組み立てると、あっという間に完成に近づいた。簪は自分の無能さを噛みしめながらも、束の凄さを感じていた。

 

「お前が指摘するなんて珍しいな。というか、まだいたのかお前」

 

「いっくんの朝ごはんを食べてないからね~。アドバイスは気まぐれだよ。いっくんの教え子だから」

 

「まぁ、ここまでくれば後は簪一人でも完成させられるだろう。対抗戦に間に合うかは微妙だが、これなら楯無に負い目を感じる事も少なくなるだろうな」

 

「べ、別にそう言う事じゃ……」

 

「優秀な姉に対抗心を懐いたところで、何も好転しないのにね~」

 

「お前は黙ってろ」

 

「あだっ!? いっくん、拳骨は酷くないかな~?」

 

 

 力技で束を黙らせて、一夏は束の首根っこを掴んで部屋に向かう。残された簪が一連の流れをポカンと口を開けてみていたが、一夏は簪に何も言わなかった。

 

「お前が比べられる側の気持ちが分かるとは思えん」

 

「それはいっくんだって同じでしょ~? 優秀な兄なんだから~」

 

「だから俺はあの二人の関係に口を出さないんだ。簪には簪の、楯無には楯無の考えがあるだろうしな」

 

「そう言えばいっくん。この前は『刀奈』って呼んでなかったっけ?」

 

「また盗聴してたのか……」

 

「まぁまぁ。細かいことは置いておくとして、何で呼び方を変えたのかな~?」

 

「盗聴していたんなら知ってるだろ」

 

「まぁね~。あの雌猫がいっくんには本当の名前で呼んでほしいって言ってたのは聞いたけど、本当の名前って何さ? 偽名でも使ってるの?」

 

 

 そこまでは盗聴していなかったのかと、一夏は内心ホッとしたような雰囲気を醸し出した。もちろん立ち入った事なので束に話す事は出来ないが、とりあえずの説明だけはしておくことにした。

 

「偽名ではない。楯無は本当の名前だ。だが、刀奈もまた、アイツの名前なんだ」

 

「よく分からないけど、私にはどうでも良い話だね~。それじゃあいっくん! 私たちの愛の巣に――」

 

「あ?」

 

「怖い!? いっくん、その顔は怖いから!」

 

「何時からお前の住処になったんだ、あそこは?」

 

「ごめんってば~!」

 

 

 割かし本気で怒っている一夏に、束はただただ謝ることしか出来なかった。昔もふざけて一夏の部屋で生活すると言い出し、本気で怒られた記憶がある束としては、この流れはなんとしても回避しなければならないのである。

 

「束さんはたまにいっくんの部屋に現れるだけでいいの! だからね? いっくん、落ちついて落ち着いて」

 

「……くだらんことで怒らせるな。お前がどうなろうが俺の知った事ではないが、始末するのが面倒だからな」

 

「いっくん、目が本気だよ……」

 

「お前なんていつでも始末出来るのは本当だからな」

 

「束さんが死んだら、世界の損失だよ! 世界中の人間がいっくんを恨むよ!」

 

「お前、自分が世界に貢献してると思ってるのか? むしろ引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、後は慌てる奴らを高みの見物してるとしか思われてないだろ」

 

「酷いっ!? でもまぁ、だいたいいっくんが言ってる通りなんだけどね~」

 

 

 本人も自覚しているようで、束はあっさりと一夏の言い分を肯定した。他人がどう思おうが関係ないが、一夏にそう思われているのならそうなのだろうと、束は一夏の考えが世界の全てだと思っているのだ。

 

「とにかく、今後あの二人の関係に口を挿もうとするなよ」

 

「しないよ~。だってもう、どんな奴だったか忘れたし~」

 

「時々お前はバカなんじゃないかと思う事がある」

 

「束さんがおバカなら、世界中のゴミ共は無能だね~」

 

「どうでも良い。さっさと飯食って帰れ」

 

「え~! せっかくだしちーちゃんたちが帰ってくるまでいっくんの部屋でのんびりしたいな~」

 

「お前の相手をする俺の事を考えろ。なんで学校が休みなのに問題児の相手をしなければいけないんだ」

 

「問題児って束さんの事~? 束さんは優等生だったでしょ~?」

 

「成績の面だけはな。生活態度や学習態度は問題児だっただろうが」

 

「でも呼び出された事はないよ?」

 

「呼び出しても無駄だと分かっていたんだろ。俺が何とかするように注意を受けていたからな」

 

「あらら、それは大変だったね~」

 

 

 自分の知らない所で一夏に迷惑をかけていたと知った束だったが、全く反省している様子ではない。そんな束の態度を見て、一夏は盛大にため息を吐いたのだった。




保護者呼び出すより早いしな……

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