IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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この二人はいつも通り


早朝の織斑家

 学園にいようが家にいようが、習慣は変わることはない。千冬と箒は何時もの時間に目覚め、何時ものように身体を動かして汗を流す為にシャワーを浴びていた。

 

「まさか同じタイミングで風呂場に来るとは思ってなかったぞ」

 

「何時も通りなら、私が先だろうが」

 

「ここは私の家だぞ。どう考えても私が先だろうが」

 

「仕方ないな。さっさと済ませろ」

 

 

 千冬の言い分を受け入れて、箒は脱衣所で千冬が汗を流し終えるのを待つことにした。

 

「習慣というのは恐ろしいな。今日はこんな時間に起きるつもりも、身体を動かすつもりもなかったというのに」

 

「それは私だって同じだ。まぁ、子供の頃からの習慣だから、そう簡単に抜けるはずもないがな」

 

「お前や一夏さんがウチで暮らしていた頃からだから、もう十年以上だもんな」

 

 

 篠ノ之道場の朝は早く、この時間でも寝坊と言われるくらいなのだ。一夏はもちろんの事として、束ですら起きていたのだから、篠ノ之道場の厳しさが窺い知れる。

 

「ほら、終わったぞ」

 

「あぁ、済まないな」

 

 

 千冬が身体を拭いている間に、箒はシャワーで汗を流し始める。

 

「しかし、男が近くで寝ているというのに、そんな恰好で良いのか? 一夏さんに見られたら怒られそうだな」

 

「一夏兄がいる時にこんな恰好をするわけないだろうが。というか、脱衣所のドアは閉まってるんだから、弾や数馬が近くにいようが関係ないだろ」

 

「それもそうだな。こうしてシャワーの音だってしているんだし、脱衣所のドアを開くなんて事はしないだろうな」

 

「もししたとしても、その時がアイツらの命日になるだけだ」

 

「違いない」

 

 

 しっかりと髪も乾かしてから、千冬は服を身に着ける。ドライヤーで髪を乾かしている間に、箒もシャワーを浴び終えてしっかりと身体を拭き、千冬がドライヤーを使い終えるのを待つ。

 

「自分のを持ってこなかったのか?」

 

「ここにあるだろうと思ってたからな。私のは学園に置いてある」

 

「無かったらどうするつもりだったんだ?」

 

「お前か鈴が持ってるだろうから借りるつもりだった」

 

「相変わらず無計画な奴だな……」

 

 

 しっかりと髪が乾いたので、千冬は箒にドライヤーを貸す。千冬が普段使っているものは学園にあるのだが、これはそれほど古いものというわけでもなかった。

 

「何時も使っているのは、入学するときに買ったやつだろ?」

 

「あぁ。一夏兄が入学前にいろいろ準備した方が良いってメールで言ってくれてな。お金も振り込んでくれていたから、ドライヤーを買い替えたんだ」

 

「普通は勉強道具とか着替えとかだと思うんだが」

 

「そんなもの買い替えなくてもあったからな。どうせなら最新のドライヤーにしたかったんだ」

 

「確かに、何時も使っているやつは良いドライヤーだよな。羨ましいぞ」

 

「お前だって結構新しいものを使ってるじゃないか」

 

 

 ドライヤーの音に負けないように声を張っていた二人。だからではないが、ドアの外に人の気配が近づいてきた。

 

『さっきから五月蠅いわよ。何朝から騒いでるのよ』

 

「鈴か。ドライヤーを使っているから、その音に負けないように声を出しているだけだ」

 

『そうなんだ。ところで、あたしもお風呂使っていい?』

 

「それは構わないが、そんなに寝汗を掻いたのか?」

 

『朝シャワーが習慣なのよ。ちゃんとドライヤーも持ってきてるんだから』

 

「それなら構わないぞ。空いているから好きに使うがいい」

 

 

 既に千冬も箒も服を着ているので、同性の鈴が入ってくる分には問題はない。弾と数馬でも問題は無いのだが、気分的に受け入れられるかどうかは微妙なところだ。

 

「お邪魔します。相変わらずあんたたちは早起きよね」

 

「鈴も大概だとは思うがな。普通の女子高生はこんな時間には起きないだろ」

 

「こんな時間って、もう六時よ? 起きてても不思議はないと思うけど」

 

「平日ならな。だが今日は休日だ。普通ならゆっくりと寝ていたいと思うものじゃないのか?」

 

「さぁ? 候補生の合宿とかでは普通だったし、あたしの家もこれくらいが普通だったから」

 

「仕込みとかがあるからか? そう言えば、鈴の両親に挨拶してないな」

 

「そりゃそうでしょ。離婚して今は二人とも中国にいるんだから」

 

「離婚? あんなに仲が良かったのに?」

 

「いろいろあんのよ」

 

 

 そう言って会話を打ち切った鈴は、一気に服を脱いで浴室に向かう。なんとなく気まずくなった二人は、先に脱衣所から出ていったのだった。

 

「まさかあの二人が離婚とはな……」

 

「親の事では、私が何か言える事はないな……親の顔を知らないんだから」

 

「一夏さんに聞いたことはないのか?」

 

「物心ついた時からいなかったからな。いないのが普通だと思っていた」

 

「なるほど……」

 

 

 千冬の考え方に納得した箒は、それ以上何も尋ねようとは思わなかったのだった。




普通の女子高生じゃないからな……

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