IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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生徒会長なのに悪い子……


楯無の疑問

 生徒会業務を終えた楯無は、部屋に戻ることなくとある場所を目指していた。学園内でも知る人が少ない一夏の部屋だが、生徒会長である楯無はその場所を知っているのだ。

 

「一夏先輩、いますか?」

 

「関係者以外立ち入り禁止の看板が見えなかったのか、お前は」

 

「用があったから来たんですよ。そもそも、一夏先輩がこんなところに引っ込んでなければ、わざわざ立ち入り禁止区域なんかに足を運んだりしませんよ」

 

「いろいろと事情があるんだ。お前だって知ってるだろ」

 

 

 一夏が普通に生活していれば、それだけ注目される。ただでさえモンド・グロッソ連覇の偉業を達成し世界的に顔が売れている一夏だ。それに加えて容姿端麗ともなれば、連日連夜ファンが押しかけてきても不思議ではない。一部ファンの間では、織斑家は聖地とさえ呼ばれているのだ。

 

「事情は知っていますけど、それだったら真耶さんに代わって一年の寮長をすればよかったじゃないですか。真耶さんだってそれを望んでいたんですし」

 

「女子寮で男が生活するわけにもいかないだろ。そもそも、そんな事になれば黛辺りが喜んで取材しに来るだろ」

 

「あー、薫子ちゃんならありえそうですね」

 

「それで、何の用でこんなところまで来たんだ?」

 

 

 話が脱線したので、一夏は本筋に話題を戻す。もう少しくらい無駄話に付き合ってくれてもと感じた楯無は、少し不満げな表情を浮かべたが、一夏に通用しないという事を理解しているのですぐに表情を改めた。

 

「さっき簪ちゃんが生徒会室に来たんですが、あれは先輩が仕向けたことですよね?」

 

「何のことだ? 俺は今日、更識妹に会っていない」

 

「簪ちゃんは本音から聞いたと言っていましたが、本音がそんな情報収集能力に長けているとは思えない。恐らく一夏先輩がわざと本音の耳に入るように仕向けたんですよね? そうじゃなきゃ説明がつきません」

 

「普通に布仏妹が優秀だという考えには至らないのか」

 

「やれば出来る子ですが、ここまで出来るとは思ってませんので」

 

 

 楯無の中の本音の評価はこの際どうでも良いのだが、一夏は心の中で本音に同情した。

 

「簪がお前を訪ねた理由は、今度の対抗戦を役人が見に来るということか」

 

「えぇ。今度のクラス対抗戦を見学に来る役人が増える事について気にしてました。自分は専用機を持たない代表候補生なのに、日本の要人が見に来る価値があるのだろうかって」

 

「真耶にも言った事だが、今回役人連中が見に来る意味はない。暇している役人どもがアピールの為に来るだけだから、必要以上に気負うことはしなくていいし、必要以上に敬う事もしなくていい。どうせ税金を貪っているだけの無能連中だからな」

 

「相変わらずですね、一夏先輩の役人嫌いは」

 

「で、それと更識妹とどう関係するんだ?」

 

「簪ちゃんは一夏先輩がどうして役人嫌いになったのか知りませんから」

 

 

 自分は知っていると言いたげな楯無の表情に、一夏はため息を吐いた。別に隠しているわけでもないので、知られていても不思議ではないのだが、そんなことを調べる暇があるなら少しでも訓練をしたらどうなんだと、一夏は思ったのだ。

 

「例の重要人物保護プログラム、相当酷い内容だったようですね」

 

「まぁな。それ以前から政府の奴らにはいい感情を懐いていなかったが、あれで完全に見限った。別の人間として生活させるのは兎も角、それ以降の事は自己責任だとぬかしやがったからな。呆れるのも無理はないだろ」

 

「それで篠ノ之博士と二人であの法案を却下したんですね」

 

「政府の人間が千冬と箒の身柄を守ってくれるならともかく、別人にして世間に放り出そうとするのは許せんからな。まだ自活能力も大してない小娘共にその仕打ちは、国がしていいものではない」

 

「一夏先輩が『日本』という国が嫌いなのも、その辺りが関係してるんですか?」

 

「別に嫌いというわけではない。一国に肩入れし過ぎないようにしているだけだ」

 

「さすが、教師の鑑ですね」

 

「だから必要以上に刀奈にも干渉しないし、オルコットや凰にも指導以上の事はしない。もちろん、簪や箒、千冬にも同様に接するつもりだ」

 

 

 厳格な態度を示す一夏に、楯無はさらに尊敬の念を懐く。楯無襲名の際に汚い大人の世界を見た楯無としては、信用出来る大人は一夏以外にいないのだ。

 

「まぁ、プライベートまで厳格な態度をとるつもりは無いがな」

 

「こうして私と話してくれてるのは、今がプライベートだからですか?」

 

「半分は仕事中だがな。さて、話が終わったならさっさと部屋に戻れ。そろそろ消灯時間だ」

 

「分かりました。失礼します、一夏先輩」

 

 

 一礼してから部屋を出た楯無は、寮長にバレないように気配を消して寮内に戻り、何食わぬ顔で自分の部屋に戻っていったのだった。




一夏も結構甘いんですけどね……

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