料理が完成してリビングにやってきた鈴は、既に楽しそうに盛り上がっている三人と一人でゲームしている数馬に声をかける。
「出来たわよ。さっさとこっちに来なさい!」
「鈴が自信満々ということは、かなり上手に出来たという事か」
「言っておくが私たちの査定は厳しいぞ。なにせ一夏兄が基準になっているんだからな」
「うっ……一夏さんには敵わないけど、それでも美味しいって言わせてみせるんだから」
「俺と弾は一夏さんの飯を食った事ないから、普通に判断出来るぜ」
千冬と箒が鈴に敵意を剥き出しにしている理由が分からない数馬は、鈴の料理を見て小さく頷いた。
「普通に美味そうだと思うんだが」
「俺は爺ちゃんので舌が肥えてるから、数馬ほど甘い評価は出来ないぜ?」
「お前のバカ舌なら、誰の料理でも問題なく食べれるだろ」
「何だと!?」
「ほら、馬鹿話はどうでも良いから、さっさと食べなさいよ」
鈴に注意され、弾と数馬はムッとした表情で鈴の料理に箸をつけたが、一口食べたらその表情が変わった。
「美味いな!」
「鈴、中学の頃からさらに腕を上げたな!」
「まぁね。このくらいは女子として当然よ」
「弾と数馬がこんな反応するとは……私たちも食べてみるか」
「そうだな」
弾と数馬の反応を意外なものと感じながらも、千冬と箒も鈴の料理を口に運んだ。
「うむ……確かに中学の頃より上手くなってる」
「私たちも負けてられないな、と感じる程だ」
「なんか、上から目線が気になるけど、満足してもらえたならなによりよ」
「鈴に負けてるかもしれない……私も自炊の機会を増やすか……」
「IS学園って自炊出来るのか? 確かに部屋には簡易キッチンがあるが、食材とかはどうするんだ? 食堂で分けてもらうか?」
「配達してもらえば良いだろ。一夏兄もそうしてるみたいだし」
千冬と箒の会話を聞いて、弾が意外そうな表情を浮かべた。
「一夏さんって今IS学園で生活してるのか。千冬が何処にいるか分からないって言ってたから、てっきりまたどこかの国で指導してるのかと思ってたぜ」
「私たちも入学するまで知らなかったんだ」
「あたしも、転校初日に一夏さんに会ってびっくりしたわよ。昔見た時よりもオーラが増してたけど、何が原因か分かってるの?」
「マスコミや政府の人間を相手にすることが増えたからだろ。一夏さんはどっちも嫌いだから」
「モンド・グロッソ連覇と同時に千冬が誘拐されて散々マスコミの相手をしなければいけなかったからか。あの時の一夏さんは、視線で人を殺せそうな勢いだったからな」
「あんたでも分かったんだ」
武道の心得がない数馬ですら、一夏の殺気に気付けたくらいだから、直接見たら相当な威圧感だったのだろうと、鈴はその当時一夏に会わなくて良かったと胸をなでおろした。
「そう言えば弾」
「ん?」
「あんたの妹って確か、一夏さんに惚れてるんだよね?」
「ぶっ!?」
「何だと!? あの雌餓鬼、私の一夏兄の事をそんな目で見ていたのか!」
「あれ? 千冬は知らなかったんだっけ?」
余計な事を言ったかしらと視線で箒に問い掛けた鈴だったが、その目は笑っていた。
「確信犯だろ……」
「弾! 今からお前の家に行くぞ! あの雌餓鬼が一夏兄に近寄らないように釘を刺さないと!」
「落ち着けよ。そもそも一夏さんは今、IS学園で生活してるんだろ? 蘭はISに興味なさそうだし、接点なんて出来ねぇよ」
「そうとも限らないんじゃない? 千冬も箒もISに興味なんてないって言ってたけど、こうしてIS学園に通ってるんだし、一夏さんがIS学園にいるって知れば蘭も興味持つんじゃない?」
「お前は昔から火に油を注ぐのが好きだな」
既に食べ終えた数馬が、ゲームを始めながら鈴にツッコミを入れる。周りに興味がなさそうに見えてしっかりと会話に参加している辺り、数馬もこの集まりが気に入っている証拠だと四人は思っている。
「とにかく、私の目が黒いうちは、一夏兄に余計な虫は近づかせないからな!」
「コイツがブラコンだから、一夏さんの婚期が遅れてるんじゃないのか?」
「それはあるかもしれないが、ウチの姉さんも原因の一つだと思う」
「あ~、篠ノ之博士ね。あの人も一夏さんに好意を寄せてるんだっけ?」
「というか、千冬以上に一夏さんに他の女が近寄るのを嫌うからな……昔一夏さんと喋ってた女子を本気で消そうとしたから、今も危ないんじゃないかって思ってるんだ」
「あの人は本気でそういう事が出来るから怖いわよ……」
束の為人は鈴もある程度知っているので、箒の言葉を大袈裟だとは思わない。それ何処か、束ならそれくらいあり得ると納得していた。
「一夏さんの婚期もだけど、女運も相当悪いわね……」
「問題児として怒られていた私たちが言える立場ではないと思うがな」
「まぁそうかもね」
談笑しながら食事を済ませ、鈴は洗い物をしにキッチンに引っ込む。それが終わって漸く遊べるようになると、数馬も一人でしていたゲームを止めて五人で遊ぶことにしたのだった。
ブラコンも度が過ぎると……