IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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疑惑どころじゃないですけど


ブラコン疑惑

 その日の内に、クラス代表対抗戦の延期が発表され、千冬たちはくたくたになりながら食堂で夕食を摂っていた。

 

「せっかく訓練していたというのに、結局ゴールデンウィークを挟む事になるとは……」

 

「まぁ、その分ゆっくり出来ると考えればいいだけだろ」

 

「そうねー。そういえばIS学園って長期休暇の時でも外出する際には許可が必要なのよね?」

 

「そうらしいが、何処か出かけるあてでもあるのか?」

 

「久しぶりに馬鹿二人を交えて遊びましょうよ。既に二人の予定は聞いてあるから」

 

「相変わらずの行動力だな……」

 

 

 食事しながらの会話だが、口に物を入れたまま話すという行儀の悪いことは、千冬や箒はもちろんの事、鈴もしない。友人の五反田弾の実家が食堂を営んでおり、そこの名物爺さんが食事中のマナーに厳しい事で有名なのだ。口に物を入れたまま喋れば、こちらも食堂名物空飛ぶお玉の餌食になりかねない。

 

「しかし、遊ぶと言っても毎回学園に許可を取るのは面倒だな」

 

「一夏さんに頼んで、織斑家を貸してもらえば良いじゃない」

 

「ウチ? 今電気もガスも水道も止まってるはずだが」

 

「だから、数日だけ動かしてもらえないか相談するのよ。そうすれば、あたしたちは織斑家に泊まればいいわけだし」

 

「食事は? 毎回弾の家に厄介になるのは、さすがに忍びないぞ」

 

「作ればいいんでしょ。あたしだってそれなりに料理出来るし、千冬や箒だって最低限は出来るんでしょ」

 

「まぁ、人が食べれるものは作れるが」

 

「てかあんた、一夏さんがいない間は一人暮らしだったんでしょ? 多少なりとも上達したりしなかったわけ?」

 

「自分しか食べないからな……最低限の味付けがしてあれば良かったし」

 

 

 千冬の一人暮らしを想像した二人は、彼女が自分の為に何か本気になるわけがないと納得して、それと同時に憐憫の眼差しを向けた。

 

「な、なんだ?」

 

「お前がそんなだから、一夏さんが何時までも苦労するんだなと思って」

 

「何回かしか食べたこと無いけど、一夏さんの料理はどれも美味しかったのにな、って思っただけよ」

 

「仕方ないだろ! 一夏兄は私が物心つく頃から料理をしていたんだし、篠ノ之家でお世話になっていた時だって、一夏兄は手伝っていたんだぞ! 料理を初めて数年の私が一夏兄と同レベルのものを作れるわけないだろうが」

 

「少しは努力しなさいよ」

 

 

 鈴の言葉に、千冬は反論の言葉を失った。確かに努力はしてきていないと自覚しているだけに、そこを突かれると何も言えないのだ。

 

「まぁ、最悪弾と数馬に実験台になってもらえば良いか」

 

「どういう意味だ?」

 

「今度の休みの内一日は、千冬の料理上達を目指す料理教室を開催します」

 

「お前、今決めただろうが!」

 

「何時決めようが関係ないわよ。そんなことより、あんたもしっかりと覚悟しておきなさいよ」

 

「覚悟って何だ」

 

「下手に料理してキッチンを爆破したりしたら、一夏さんに怒られるかもしれないでしょ」

 

 

 鈴は千冬の料理の腕がそれほどひどいと思っているようで、箒は鈴の顔を見て苦笑いを浮かべていた。

 

「鈴、それは千冬を甘く見過ぎだ。こいつは本当に最低限は家事が出来るんだ」

 

「そうなの? それじゃあ一夏さんも許可してくれるかもね」

 

「というか鈴、お前ただ単に一夏兄と話したいだけなんじゃないだろうな?」

 

「そんなわけ無いじゃない。確かに一夏さんはかっこいい男性ではあるけど、あたしにとってあの人は兄みたいな感じだからね。千冬や箒と遊んでた時に、たまに見かけるお兄さんって感じよ」

 

「まぁ、私も鈴を義姉と呼びたくないからな」

 

「あんた本当にブラコンね」

 

 

 鈴の指摘に、千冬は立ち上がって鈴に噛みつく。

 

「私はブラコンじゃない! ちょっと他の家庭と違うから一夏兄と親しくなるのは仕方ないだろ!」

 

「確かにあんたの家の事情は知ってるけど、それを差し引いてもちょっとブラコン過ぎると思うんだけど……箒はどう思ってるの?」

 

「確かに千冬の一夏さんへの依存は行き過ぎだとは思うが、仕方ない部分もあるというのは知っているからな。親の愛情がもらえなかった分、千冬が知っている肉親の愛情は一夏さんからのものだけだからな」

 

「家族の愛ね……」

 

 

 両親がいない千冬の事を可哀想だと周りの大人は決めつけ、千冬に必要以上に干渉しようとしていたのを知っている鈴は、それ以上何も言えなくなった。

 

「とにかく、私はブラコンじゃないからな!」

 

「分かった、分かったから大声を出さないでよ! 周りから注目されちゃってるわよ」

 

「どれだけ注目されようが関係ない! とにかく私は絶対にブラコンじゃないからな!」

 

「はいはい、あたしが悪かったわよ」

 

 

 激昂した千冬を落ち着かせるため、とりあえず頭を下げた鈴だったが、彼女の中ではまだ千冬のブラコン疑惑は晴れていないのだった。




誰がどう見てもブラコンだろ……

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