鈴たちが食堂で盛り上がっている時、職員室では教員たちが頭を抱えていた。理由は突如変更された一年二組のクラス代表。既に組み合わせも決まっていたのに、いきなり変更されては組み合わせを変えるしかないのだ。
「凰さんが専用機持ちだからですかね？」
「それしかないだろ。元々ならオルコットと更識妹をぶつける予定だったのが、新たに代表候補生、しかも専用機持ちが現れたんだから変えざるを得ない、という事だろ」
「それだったら、オルコットさんと凰さんをぶつければそれで解決なのでは？」
「更識妹の相手を誰にするか、でまたもめてるんだろう」
興味なさげに呟く一夏とは対照的に、真耶は興味津々に組み合わせが決まるのを待っている様子だった。
「お前が気にする必要は無いと思うんだが」
「だって、候補生同士の闘いなんて滅多に見れませんよ。しかも他国の候補生となればなおさらです！」
「代表候補生時代に腐るほど見てきたんじゃないのか？」
「自分がその立場の時は何とも思いませんが、こうして一見学者として見るのは別ですよ」
「そんなものか」
興奮気味に語る真耶に気圧されたわけではないが、一夏はとりあえず真耶の言葉に頷いた。実際他国の代表や代表候補生と何百、何千と試合をしてきた一夏にとって、今更興奮する事ではないのだ。
「当日はかなり盛り上がる事間違いなしですよ！」
「どうやら政府要人も来るようだしな。警備が面倒だ。そもそもＩＳ学園は何処の国にも属していないのだから、何故日本の政府要人を招き入れなければいけないのか」
「学園長が決めたことですし、私には何とも言えませんよ」
「警備員を増員する、なんて話は出てないし、俺たちで対応しろ、という事なんだろ？ 今度のボーナスの査定、相当上げてもらわないと割に合わないぞ」
「一夏さんの寝床云々を差し引いても、確かにオーバーワークですね」
一夏が敷地内で生活している理由を知っている真耶から見ても、今回の件は明らかなオーバーワークだと思える。確かに一夏一人に任せた方が確実で安上がりだが、給料の範囲内かと問われれば否と答えるしかないだろう。
「そう言えば凰さんですが、一夏さんの知り合いのようですね」
「千冬や箒の友人で、何度か顔を合わせたことがあるというだけだ。アイツも相当な問題児だから、覚悟しておいた方が良いぞ」
「凰さんは二組ですし、私には直接害は無いと思うんですが……」
「合同授業などでは顔を合わせるだろ。その時は覚悟しておいた方が、後で胃の痛い思いをしなくて済むぞ」
「脅かさないでくださいよ……」
泣きそうな真耶に、人の悪い笑みを見せて一夏は話し合いが行われている方に意識を向けた。まだ結論には至っていないようだが、開催日を延期する方向で話が進んでいるようだ。
「延期か……そうなると更識妹にも可能性が出てくる、という可能性を完全に除外しているな」
「可能性、ですか？」
「延期するとゴールデンウィークを挟む事になる。そうなると更識妹の専用機が完成する可能性が高くなるだろ」
「……そうなるとまた組み合わせで揉めることになる、という事ですか？」
「いっそのこと中止にした方が楽だと思うがな……政府要人を招き入れると決まってしまった以上、中止には出来ないだろうが」
「延期は問題ないのですか？」
「どうせ暇な役人が『仕事してます』アピールをするために来るだけだ。何時開催しようが問題にはならないだろうさ」
「……一夏さん、本当に役人やマスコミの事嫌いですよね」
「まともに活動してる人より、堕落した連中の方が目立つからな。そして、その堕落した連中に対しては嫌悪感しか懐かない」
バッサリと斬り捨てる一夏に、真耶はすがすがしさすら感じていた。一夏が彼らを嫌う理由は他にもあるのだが、今の理由だけで他の人なら納得させられるだろうと感じていたからである。
「ところで、その政府要人を誰がもてなすんですか？」
「噂に聞く限り、その要人というのは変態爺のようだから、お前が相手すれば喜ぶんじゃないか？」
「一夏さんは、私がその要人の餌食になってもいいと仰るのですか？」
「向こうが手を出して来たらお前の勝ちだろ。相手を捻り倒して警察にでも突き出せば終わりだ」
「私はそれほどまでに合気道を嗜んではいないんですけど……」
「くたばりぞこないのエロ爺など、お前程度の合気道で十分だろ」
「一夏さぁん……」
泣きそうな目で訴えてくる真耶を完全に無視して、一夏は残っていたお茶を一気に飲み干して席を立つ。
「そろそろ授業だ。お前もいつまでも泣きそうな顔をしてると、また生徒にからかわれるぞ」
「……一夏さんが苛めなければ、こうして泣きそうにはならないんですけどね」
「人聞きの悪いことを言うな。何時俺がお前を泣かせたと言うんだ」
完全にからかわれているのが分かっているので、真耶は必要以上に追及せず、一夏に倣って授業の準備を始めるのだった。
エロ爺なら、真耶相手なら喜ぶだろうな……