学年が変わり、千冬と箒は相変わらず同じクラスであることを嘆いたが、新しいクラスメイトたちを見て、とりあえず安心していた。
「まさか簪と鈴も同じクラスになるとはな」
「この学年の専用機持ちは、全員このクラスらしいからね」
「てことは、担任は一夏さんか?」
「一夏兄は学長代理としていろいろと忙しいから、担任は持たないはずだが」
「じゃあ誰が……」
千冬と箒が首を傾げたタイミングで、簪と本音にとって見知った気配が教室に近づいてきた。
「いきなり担任を持つとは、さすがとしか言えないね」
「まぁ、それだけ期待されてるんだと思うよ~」
「何の話だ?」
千冬が二人に尋ねたのと同時に、教室の扉が開かれ、担任と思われる教師が教壇に立つ。
「席に着いてください」
「の、布仏先輩っ!?」
「皆さんのクラスの担任を務める事になりました、布仏虚です。新米ですが、よろしくお願いします」
「副担任の山田真耶です。私はあくまで補佐ですので、分からない事は布仏先生に聞いてくださいね」
「せんせ~。クラスメイトのはずのラウラウとシャルルンの姿が見えませんが~?」
「ボーデヴィッヒさんとデュノアさんは生徒会として、入学式の準備をしています。というか、貴女も生徒会メンバーのはずではありませんでしたかね、布仏さん?」
「お、おね~ちゃん、目が怖いよ?」
「学校では布仏先生です」
何だか一年前の自分と一夏のやり取りを見ているようで、千冬は懐かしい思いを懐いたのだった。
二年の教室でそんなやり取りが行われている頃、新入生代表として一日早く学園にやってきた蘭は、生徒会メンバーや主要教員と顔合わせをしていた。
「入学おめでとう、五反田蘭。私がIS学園生徒会長のラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「副会長のシャルロット・デュノアです。よろしくね」
「五反田蘭です……」
ラウラの威圧感に若干引いている蘭に、背後から大人の声が掛かる。
「あんまり新入生を威圧したら駄目ですよ」
「ハッ! 失礼しました、学長」
「えっと……初めまして、五反田蘭さん。私がIS学園学長の織斑千秋です。貴女のクラスメイトの織斑マドカ、先輩になった千冬、そして教師総責任者である一夏の母親です」
「一年の学年主任を務めます、小鳥遊碧です。貴女のクラスの担任でもあるから、困った事があったら相談してちょうだいね」
「五反田蘭です! よろしくお願いします」
「ところで御母堂様、一夏教官はどちらに?」
「あぁ、一夏なら刑期を早めに終えた二人を迎えに行ったわ。実技担当として雇うから、その手続きも済ませるって」
「相変わらず織斑先生は大変そうですね」
「その苦労も、これで終わりだと思うけどね。さて、早いところ最終確認を済ませちゃいましょう。どうせ本音ちゃんは来ないでしょうしね」
「本音が一番流れを分かってるはずなんですけどね……」
シャルロットが零した愚痴に、千秋と碧は揃って苦笑いを浮かべたのだった。
特殊刑務所から出た途端に一夏に捕まったスコールとオータムは、学園に造られた特殊空間にやってきていた。
「ここは?」
「この間まで米軍から匿っていた人間が住んでいた場所だ。ここなら必要以上に生徒と接触する事も、余計な恐怖心を懐かれる事なく過ごせるだろうしな。誰も来ないから、何をしてても問題は無い」
「相変わらず抜かりのネェ野郎だな。っと、雇い主様にこんな口調はマズいか?」
「気にするな。雇ったのはあくまでもIS学園で俺個人ではない。さて、スコールは新入生の授業を、オータムは二、三年の授業を担当する事になっているから、時間割をしっかりと確認しておくように」
「オレ一人で二つの学年かよ」
「もう一人いる」
一夏が背後を振り返ると、そのタイミングでその場に気配が生まれた。
「同じく新任のナターシャ・ファイルスよ。ついこの前までここで生活してた者でもあるわ」
「ナターシャにはオータムの監視も兼ねてもらってるから、くれぐれも迷惑を掛けないように」
「分かってるっての! てか、もうあんな場所で生活するのはこりごりだからな」
「あら、人に見られながらするってのもなかなか良かったじゃない?」
「お、オレはお前と二人っきりが良いんだよ……」
「あらあら」
「……一夏、この人たちって」
「愛の形は人それぞれだ」
一夏のその言葉だけで、ナターシャは二人の関係を正確に理解し、なるべくなら近づかないでおこうと心に決めたのだった。
入学式も無事終わり、部屋割りが発表され、マドカのルームメイトは蘭だった。
「よろしくね、五反田さん」
「マドカさんも、よろしくお願いします」
「こんにちはー! って、五反田蘭ちゃんで合ってるわよね?」
「えっと……?」
突如部屋に入ってきた女子生徒に、蘭は困惑する。
「怪しいものじゃないわよ。元生徒会長で、今はロシア代表の更識刀奈よ」
「えっと、何の御用でしょうか?」
「元生徒会長として、生徒会のノウハウを――」
「お嬢様!」
「う、虚ちゃん!? 何もしてないからね!」
「布仏先生です! そして、更識さんは今、廊下を走りました!」
「ご、ゴメンなさーい!」
「待ちなさい!」
慌ただしく去って行った二人を見送ってから、誰かに見られている事に気付き、蘭はそちらを振り返る。
「最上級生と教師になっても、騒がしいのは相変わらずだな」
「一夏さ――織斑先生」
「一夏兄様!」
「まぁいい。蘭ちゃん、マドカと仲良くしてやってくれ」
「はい、もちろんです」
「マドカもちゃんと勉強するんだぞ」
「はい、一夏兄様!」
一夏に期待されていると知り、二人は満面の笑みで部屋の中に戻る。二人が部屋に戻ったタイミングで、一夏の両隣に気配が生まれる。
「いっくん、お父さんみたいだったよ」
「ウルセェ」
「織斑君はお兄さん気質なのかしら?」
「さぁな」
「いっくん、この雌と束さんとで、随分と態度が違わないかい?」
「当たり前だ!」
「痛いよいっくん」
「少しは反省しろ!」
「楽しくなりそうね、ここでの生活」
「……お前も相当ズレてるよな」
「そうかしら?」
この光景を楽しめている碧を見て、一夏は今後の生活にも一抹の不安を懐いたのだった。
これ以上だらだら続けるのもどうかと思ったので、これで終わりです。一年とちょっと、ご愛読いただき、誠にありがとうございました!