IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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本当に最後になるのだろうか


最後の不安

 教員採用試験も終わり、一夏はその結果に満足していた。

 

「珍しいですね、一夏先輩がそんな表情を浮かべてるの」

 

「刀奈か。小鳥遊も虚も、十分にやっていける結果だったし、新入生も鍛え甲斐のありそうなやつらがいるからな。大きな問題も片付いてるし、少しは穏やかな表情になってても良いだろ」

 

「別に悪いとは言いませんよ。ですけど、珍しいって思っちゃうのは仕方ないと思うんですよね。この数年間、一夏先輩は難しい顔をしてた方が多かったですし、ウチの事情に巻き込む前に見たのが最後じゃないかってくらい、そんな表情をしてる一夏先輩は珍しいんですよ」

 

「そうか? まぁ、特にこの一年は大変だったからな。千冬と箒の問題児っぷりにもまいったが、それ以外の問題でもこっちに任されるとは思って無かった」

 

「一夏先輩以外に誰に頼めばいいんでしょうね? 一夏先輩なら絶対に大丈夫だって信頼から、一夏先輩に物事を頼む人が増えたんだと思いますけど」

 

「お前もその一人だもんな……というか、何しに来たんだ」

 

「明日の卒業式の最終確認を一夏先輩にお願いしたくて……山田先生に頼もうとしたんですけど、なんだか忙しそうだったので」

 

「来賓の確認とかだろ。真耶が相手をする事になってるから」

 

「そうなんですか? 一夏先輩の方が良いと思うんですが」

 

 

 楯無の言葉に、一夏は人の悪い笑みを浮かべた。

 

「来月から学年主任になる真耶には、丁度良い試練だろ。この程度でまいってるようでは、来月からやっていけないからな」

 

「一夏先輩は本格的に運営だけになるんですか?」

 

「実技は担当するが、それ以外は基本的に口を挿むつもりは無い。小鳥遊もいるし、虚だってすぐに出来るようになるだろうしな」

 

「一夏先輩の中で、真耶さんより碧さんや虚ちゃんの方が評価が高いように聞こえるんですが」

 

「そんな事は無いが、冷静な判断を求めるなら、真耶より小鳥遊や虚の方が確実だと思わないか?」

 

「……ノーコメントでお願いします」

 

 

 楯無もそう思ってしまったので、真耶に悪いと思いつつ否定はしなかった。実際楯無は碧と虚の主であり、その能力については一夏以上に知っているのだから。

 

「そういえば一夏先輩、誰か生徒会長が務まりそうな人っていませんかね?」

 

「いきなりだな。IS学園生徒会長の定義は、お前が一番よく知ってるんじゃないのか?」

 

「来月から更に忙しくなりますし、簪ちゃんも本格的に代表にって動きがあるみたいですから、譲る相手がいなくて困ってるんですよ。在校生でも良いですし、新入生の中からでも良いですから、誰か紹介してください」

 

「候補生の中で、本気で代表を目指してないヤツはシャルロットとラウラの二人だが、ラウラに生徒会長が務まるとは思えん。副官に優秀な人間を付ければ何とかなるだろうが」

 

「じゃあ、ラウラちゃんに会長をお願いして、シャルロットちゃんに副会長をお願いしようかしら。後は新入生の中から優秀な子をスカウトして、次期会長として育ててもらえば、私も安心して会長を引退出来ます」

 

「なら主席入学が決まってる五反田蘭に声をかけると良い。彼女は中学の時も生徒会長を務めてたくらいだからな。筆記一位、実技もトップテンに入ってる」

 

「随分と優秀ですね。一夏先輩のお知り合いなんですか?」

 

「俺の、というよりは千冬たちの、だな。友達の妹さんだ」

 

「分かりました。それじゃあ、入学式の後に声をかけてみます。あっ、それから卒業式の確認、お願いしますね」

 

「後で行く」

 

 

 楯無が一夏に念押しをして部屋を去って行ったのを確認して、部屋の隅に隠れていた人物が姿を現わす。

 

「もうこの部屋はいっくんの部屋じゃないのに、あの女忘れてたね」

 

「まだ俺の部屋だ。というか、黙ってないで出てくればよかっただろ」

 

「だって会いたくないし。というか、会っても誰だか分からないし」

 

「お前は……そんなんで本当に不審者を見分けられるのか?」

 

「束さんには分からないけど、コンピューターに在校生や新入生、教職員の顔データを記憶させたから、それ以外の人間に反応するようにプログラミングしたから大丈夫だよ! もちろん、ゲストパスがある場合には反応しないようにしてあるから」

 

「侵入者と判断したらどうなるんだ?」

 

「レーザーで跡形もなく消し去る!」

 

「すぐに書き換えろ! 精々捕らえるまでしか許さん」

 

「いっくんは優しいんだから……不審者なんて問答無用で消し去ればいいのに――っていっくんっ!? 割れちゃうからそれは止めてってば~」

 

 

 過激な事を言う束にアイアンクローを喰らわせながら一夏は盛大にため息を吐いて、こいつに任せて良いのだろうかと今更ながら不安に思うのだった。

 

「やっぱり多少金がかかっても、ちゃんとした警備員を雇った方が良いのかもしれん」

 

「そんな事ないってば~」

 

 

 何処か信用出来ない束に、一夏はもう一度ため息を吐いたのだった。




束が最大にして最強の問題児……

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