筆記試験が終わり、様々な思いを懐きながら、三人は実技試験が行われるアリーナへと向かう。
「五反田さん、自信のほどは如何ですか?」
「私は二人みたいに実機を動かしたことが無いので何とも言えませんが、簡易適性検査でA判定を貰いましたから、そこまで苦戦はしないとは思ってます。それよりも、マドカさんの注目のされ方が半端ないようですが」
「苗字から私と一夏兄様のつながりを知り、更にサイレント・ゼフィルスを持っている事で更に注目されているのでしょう。もちろん、試験の時は打鉄かラファールのどちらかを使うんですけど」
「クロエさんも専用機を持っているようですが、そちらはどのような経緯で?」
マドカがサイレント・ゼフィルスを所有するまでの経緯は、それなりに知られている。あれだけ大々的に報道されていた事件だから、知っていない方がおかしいのだが、マドカがそのまま所有権を認められた経緯は、一夏や束と関係が多少なければ知る事は出来ない。蘭は弾を通じて、その経緯を何となく知っていたので、クロエの専用機である閻魔の事が気になったのだ。
「この機体は束様から頂いたものです。亡国機業が京都を襲う可能性が高く、束様が動けば大変な事になるだろうという事で、私が束様の名代として京都に赴く際に、餞別という形で頂いたのです」
「普通ならありえないシチュエーションだけど、篠ノ之博士と一夏さんが動けば誰も文句言えないですしね」
クロエの専用機も既に、全ての国から所有権を認めさせているので、表面上は問題は解決している。もちろん、陰でいろいろという連中はいるが、そんな事を気にするような束でもなければ、一夏の耳に入れば何をされるか分からないという事で、クロエもさほど気にしていないのだった。
「あれ? 千冬さんに箒さん」
「蘭か……」
「何をしているんですか? 今日は在校生は全員アリーナが使えないはずじゃ――」
「成績不振者として呼び出され、試験の手伝いをする事で点数を稼ぐことになったんだ……まぁ、人手不足解消ってわけだ」
「千冬姉様と戦うのですか?」
「……その辺りは知らん。組み合わせは一夏兄が決めているから、私と箒はただ戦うだけだからな」
「出来ればお二人じゃない相手が良いです」
二人の生身の実力を知っている蘭は、ISを纏った二人がどれだけ恐ろしいのかを何となく分かっている。だから二人以外の相手が良いなと思ったのだが、ここにいる教員はそれなりに実力者であり、また千冬や箒より強い可能性があるという事を失念していた。
「それじゃあ、健闘を」
「蘭に当たったら、容赦なく叩ききってやるからな」
「試験官の手伝いなんですよね? 受験生を再起不能にしたとなれば、一夏さんになんて言われるでしょう?」
「少なくとも、褒められはしないでしょうね」
「それどころか、束様同様長時間の正座と説教のコンボになりかねません」
「……再起不能にはしないが、それなりに痛めつける程度で済ませてやる」
「おい千冬……脚が震えてるぞ」
「一夏兄に怒られたらどうなるか、お前だって知ってるだろうが」
「……まぁ、後の試験官は山田先生やそれ以外の先生たちだから、私たちに当たった方がラッキーだと思うぞ」
震える千冬を引きずっていった箒を見送って、蘭は最後の箒の言葉を受けて考えを改め始める。
「確かに千冬さんや箒さんは強いけど、その二人より先生たちの方が強いわよね、そりゃ……お兄の所為で二人が最強だと思い込んでたけど、あの二人だって一夏さんには敵わないわけだし……」
「五反田さんはお兄さんと仲が良いのですか?」
「全然? 落ちこぼれの兄なんて興味ないし。それよりマドカさんのお兄さんでもある一夏さんのような兄だったらよかったのにな、とは思った事はあるけど」
「一夏兄様は何においても優秀ですから、比べられ続けた千冬姉様のような思いをするのではありませんか?」
「それでも、一夏さんのように優しいお兄さんだったらって思うんですよ。ウチの兄は、勉強もスポーツも家事もダメで、女性にもモテないからいいとこ無しなんですよね。その癖、エッチな本はいっぱい持ってるみたいだし」
「思春期ですから、それくらいは許して差し上げたら如何でしょう?」
「クロエさんって、妙に達観してるような気がしますが、同い年ですよね?」
「いえ、諸事情で私は皆さんより年上です。ですが、今までの生活環境から学校というものに縁が無かったものでして。その点、IS学園は融通が利くと一夏様が仰られ、今回受験する事になったのです」
「そうなんだ……」
クロエの過去を何となく知ってしまい、蘭の心は少し揺さぶられたが、対戦相手が真耶だった事もあり、蘭は難なく合格基準をクリアしたのだった。
千冬と箒に当たった方が嫌だな……加減し無さそうだし