IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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彼女たちを対面させました


入試前

 あっという間に入試シーズンになり、マドカとクロエは受験票を持ってIS学園にやってきた。筆記はあまり重要ではないと言われていても、全くダメだとさすがに問題だと理解しているので、それなりに勉強もしてきたし、一夏に作ってもらった問題集をかなりの回数反復したので、平均点くらいは取れる実力は身についているはずだと、二人はそう自分にそう言い聞かせて会場に入った。

 

「ここ、ですかね」

 

「そのようですね。では、私はあっちの席なので」

 

 

 マドカとクロエが自分たちの席を確認し、移動しようとしたタイミングで、マドカに声をかけてくる少女が現れた。

 

「千冬さん? 何で貴女がここに――って、別人?」

 

「千冬姉様をご存じなのですか?」

 

「姉様? 千冬さんに妹がいるなんて聞いてなかったけど……でも、確かにそっくりだし」

 

「つい最近まで別々に生活していましたから、姉様が私の事を知ったのもつい最近です」

 

「そ、そうなんですか……あっ、私は五反田蘭と言います」

 

「織斑マドカです。千冬姉様のお知り合いの方に出会えて、光栄です」

 

「クロエ・クロニクルと申します。一夏様と束様に拾っていただき、こうしてマドカ様の付き人のような事をしております」

 

 

 さすがに本当の事は言えないので、クロエはそれらしい理由で自己紹介をした。

 

「それで、五反田さんと千冬姉様のご関係は?」

 

「お兄――私の兄が千冬さんの友人で、私も何度か一緒に遊んだ事があるんです。といっても、私はあまり千冬さんに好かれてないみたいですけどね」

 

「そうなのですか? 千冬姉様が五反田さんを嫌う理由、お聞きしても?」

 

「私が一夏さんに憧れているのが気に入らないんだと思います。純粋に憧れているだけなのに、色目を使ってるんじゃないかとか疑われましたし」

 

「姉様はそういうお人らしいですから……多分に束様の影響を受けているのでしょうが、たった一人の家族でしたし、多少そういう傾向が出てしまっても仕方ないのではないかと、私は思う事にしました」

 

「まぁ私もそう思う事にして、今はあんまり衝突もしなくなりましたけど」

 

 

 本当は少し恋慕の情もあるのだが、それをマドカに打ち明ける勇気は蘭に無かったので、結局は憧憬という形で納得してもらったのだ。

 

「兎に角、合格出来れば一緒に生活出来るし、お互いに頑張りましょう」

 

「そうですね。ところで、五反田さんは勉強の方は?」

 

「一応進学校の生徒会長をやってましたので、それなりには出来ますが、それが何か?」

 

「い、いえ……千冬姉様のお知り合いだと聞いたので、てっきり……」

 

「まぁ千冬さんは勉強嫌いですからね。兄は兎も角、私は普通に勉強出来ます」

 

「そう、ですよね……」

 

 

 小・中と通ってこなかったマドカとクロエは、蘭が言う『普通』がどの程度か分からずに困惑する。千冬より出来るという事だけは分かったが、では一夏と比べたらどうなのか、束と比べたらどうなのかと、自分たちの基準がどちらもおかしい事に気が付き、ただ顔を引きつらせる事しか出来なかった。

 

「ですけど、IS学園の入試は実技に重きを置いているらしいですから、多少出来なくても問題無いのではありません?」

 

「そう考えて入学し、千冬姉様や箒様のように、補習ギリギリで過ごすのはどうかと思いまして……」

 

「ウチの兄も補習ギリギリ、赤点まであと一点ってくらいのバカですから、そこと比べれば二人ともマシなのではありませんか?」

 

「どうなのでしょうね……お会いした事が無い方と比べるのは難しいですし、千冬姉様の妹である私が、そこまで頭がいいとも思えませんし……」

 

「一夏さんは頭がいいんじゃないですか?」

 

「一夏兄様に似ればよかったのでしょうが、勉強も家事スキルも見た目も、私は千冬姉様に似ていますから」

 

「なんか、ゴメンなさいね……テスト前に余計な事を考えさせちゃったみたいで……」

 

「いえ、事実ですから……」

 

 

 蘭までもが沈鬱な表情を浮かべ始めたので、クロエは何とかして空気を換えようと辺りを見回し、席順にたどりついた。

 

「五反田さん、私の一つ後ろなんですね」

 

「えっ? そうみたいですね」

 

「マドカさんは私の隣ですし、試験後にすぐ答え合わせが出来そうです」

 

「問題用紙は回収されないから、そこに書き込んでおけば出来るかもしれませんね」

 

「じゃあそうしましょうよ! と言っても、私やマドカさんは、五反田さんに合ってるか聞くだけでしょうけども」

 

「そ、それでも良いんじゃないですか? 私だって、全部分かるわけじゃないでしょうしね」

 

 

 蘭がそうフォローを入れたタイミングで、試験官である一夏が教室に入ってきた。一夏の姿を見て色めきだちそうになった教室ではあったが、すぐに試験前だという事を思い出して全員大人しく席に着いた。

 

「時間までもう少しあるが、今の内に携帯の電源の確認や筆記用具以外のものはしまっておくように」

 

 

 一夏の注意事項を受けて、受験生たちは一斉に同じ動きを見せたのだった。




いきなりですが、残り三話で終わらせていただきます

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