無事に終業式を済ませ、楯無は生徒会室で一息ついていた。もちろん、暗部組織としての更識を終わらせるためのあれこれや、今後の事などいろいろとしなければならない事は山積みなのだが、そっちは一夏も手伝ってくれると言ってくれているので、今は急ぐ必要は無いのだ。
「いろいろあった二学期も、今日で終わりね~」
「お嬢様がもう少しまともだったら、しなくてもいい苦労が沢山ありましたが、確かに今日で二学期は終わりですね」
「虚ちゃん、何時もより毒が強めじゃない?」
「例え暗部としての更識が終わろうとしても、私は一生お嬢様のメイドですから。主を正しい道へ導くためには、多少の毒くらい勘弁してもらいたいものです」
「従者だって分かってるなら、ちょっとくらい見逃してくれてもいいんじゃない?」
「駄目です。そうやって甘やかしてきた結果、本音のようになられては困りますから」
「さすがにあそこまでサボってはないでしょっ!?」
まさか本音を引き合いに出されるとは思っていなかったのか、楯無は割と本気で驚いた表情で虚に問いかける。虚は軽く首を傾げながらも「本音よりはマシでしたかね」と答えた。
「来年から私は生徒会にいなくなりますので、今まで以上に作業が滞るのではないかと心配です。誰か優秀な人が入ってくれると良いのですが……」
「一夏先輩の妹さんや、篠ノ之博士が娘のように可愛がっている子が受験するらしいし、千冬ちゃんや箒ちゃんのお友達の妹さんで、進学校の生徒会長を務めてた子も受験するらしいし、目ぼしい人材には今から気を配ってた方が良いかもね」
「お嬢様が楽をしたいだけなのでは?」
「そ、そんな事ないもん! というか、虚ちゃんだって年明けには教員採用試験を受けるわけだし、安心して生徒会を卒業してもらいたいじゃない?」
「安心するのは、今ここに本音がいない時点で無理ですね」
「あの子は……今日は生徒会室に来るようにって言っておいたのに」
そうぼやいたタイミングで、生徒会室の扉が勢いよく開かれた。
「遅れました~」
「本音、なにやってたの?」
「おりむ~やシノノンとテスト結果を見せ合ってました~。まぁ、平均で十点以上私の方が高かったんですが」
「簪お嬢様が苦労なさった結果でしょうが……まぁ、山田先生もボーナスカットを免れたらしいと報告を受けてますし、一年生の補習者はいないようですね」
「というか、二年にも三年にもいないわよ、そんな人」
元々エリート学校なので、補習など縁がないものだと楯無も思っていたが、今年の一年にはかなりの数危ない生徒がいたらしいと、真耶がぼやいているのを聞いて気になっていたのだった。
「一夏先輩が指導してるだけあって、実技はかなりのものなのにね」
「織斑せんせ~の授業でふざけようものなら、そのまま次の日の朝を迎えられないんじゃないかってくらいですからね~」
「それは大袈裟じゃない? 確かに一夏先輩の指導は厳しいけど、見込みがあるから厳しく指導してくれるのよ? 私だって、日本の代表候補生だった頃、かなりお世話になったし」
「知ってますよ~。お家騒動にまで首を突っ込んでもらったんですし」
「今思えば、あの時から織斑先生にはお世話になりっぱなしですね。お嬢様はどのようにして恩返しをするつもりなのです?」
「そ、そういえば……何時までも世話になりっぱなしじゃ、いずれ恐ろしい事になりそうよね……」
一夏は特に気にしていないのだが、楯無は一夏にかなり世話になっており、借りもかなりある。
「あの屋敷は手放さないから、一夏先輩をあの屋敷に住まわせるっていうのはどうかしら? それなりの広さがあるから、一人くらい増えても問題無いだろうし」
「ですが、織斑先生は来年度から学園の経営もしなければいけなくなりますので、今の場所の方がいろいろと都合が良いのではありませんか? ましてやあの屋敷に織斑先生を迎えようものなら、織斑さんや篠ノ之博士が黙っていないと思いますが」
「そうよね……じゃあもう、一夏先輩のお嫁さんになって、いろいろとしてあげるくらいしか出来ないわよ?」
「お嬢様が織斑先生の妻になっても、織斑先生の方が家事やその他に置いても優れてると思いますが」
「じゃあどうすればいいのよ!? 一夏先輩の子供を産めばいいの!?」
「そ、そこまでは言いませんが……というか、織斑先生がお嬢様を抱くとは思えませんが」
「どうせ私は妹扱いですよ……」
「それを言うなら私もですよ……」
「ところで、私は今日何で生徒会室に呼ばれたんですか~?」
「虚ちゃんが今日で最後だから、お疲れ様会をするって言わなかった?」
「聞いたような気もしますが、忘れました」
「この子は……やっぱり卒業まで私も手伝いますよ」
本音の事が不安でおちおち生徒会を抜けられないと判断し、虚は卒業まで手伝う事を決意したのだった。
まだまだ苦労する虚……