簪と本音が生徒会室に入ったのと同じタイミングで、虚のカミナリが薫子目掛けて落とされた。
「なんてことをしたんですか、貴女は!」
「ぜ、全校生徒が知りたがっている事を調べるのが、我々新聞部の使命なので……」
「だからといって、お嬢様が部屋にいないタイミングを狙って資料を盗み見るなんて!」
「だ、だって……たっちゃんが怖い顔をして部屋から出ていったのを見たら、何でそんな顔をしたのか気になっちゃうじゃないですか」
「お嬢様や我々が普通の家の人間じゃない事は、黛さんだって知っていますよね? そのお嬢様が怖い顔をして部屋から出ていったという事は、それなりの事情があるという事くらい察しがつきますよね?」
「ですが、正門が爆破されたという事は、それだけ衝撃的なんですよ! 何時までも発表が無い事で、様々な憶測が飛び交うのを黙って見ているのは、ジャーナリスト志望としては何とかしたかったんです!」
「あまり反省している様子ではないようですね……このままでは織斑先生を交えて話し合うしかないのですが」
「お、織斑先生を交えて!? そ、そんな事になれば、私はどうなるのでしょうか?」
すがるような目を虚に向ける薫子だが、出来る事なら答えを聞きたくないという表情を浮かべている。
「織斑先生がどのような判断を下すかなど、私に分かるわけ無いじゃないですか。お嬢様はどう思われますか?」
「今回は私の落ち度でもあるんだけど、一応あの資料はしまったはずよね? ちゃんと鍵も閉めたはずだし、どうやって見たの?」
「それは…その……お姉ちゃん直伝のピッキングで……」
「弁明の余地が無いわね……立派な犯罪行為よ? 一夏先輩に判断を仰ぐ必要もなく、薫子ちゃんには罰を与えるべきだと思うけど」
「そうですね。我々更識を敵に回すとどうなるか、黛さんにはしっかりと理解して――おや? 簪お嬢様と本音、いつの間にいらしてたのでしょうか?」
そこで漸く簪と本音の存在に気付いた虚は、首を傾げながら二人に問いかける。
「おね~ちゃんのカミナリが落ちたタイミングで、かな……黙って聞いてたけど、私も黛先輩は大人しく罰せられた方が良いと思う」
「私も……お姉ちゃんが資料を出しっぱなしだったのなら、お姉ちゃんにも落ち度があったと思うけど、ちゃんとしまって、鍵まで掛けてたわけだしね……黛先輩にはしっかりと反省してもらった方が良いと思う」
「で、でも! 私が新聞に載せたお陰で、敵はもういないって安心してもらったわけだし、その辺を評価してもらえないでしょうか?」
「貴女が書かなくても、近いうちにお嬢様から発表する手筈になっていたのですが? 織斑先生も、お嬢様から発表した方が、全校生徒に安心感を与えられるからと仰っておられましたし」
「つ、つまり……?」
「貴女がしたことは、ただの迷惑行為だという事です。しっかりと反省文を書いていただきますし、その内容によっては、それ以上の罰を与える事になるでしょうが」
「は、反省文……何枚くらい書けばいいのでしょうか?」
恐る恐る尋ねる薫子に、虚は楯無を見て小さく頷いた。
「枚数を指定するつもりはありませんが、自分がどれだけの事をしたか理解しているのなら、すぐに終わるものではないと理解出来ていますよね?」
「は、はいっ! 本当に申し訳ございませんでした!」
深々と頭を下げ、逃げるように生徒会室から出ていった薫子を見送り、虚以外の三人はホッと息を吐いた。
「薫子ちゃんが悪いとはいえ、虚ちゃんのお説教を間近で見るのは緊張するわね……」
「まぁ、この程度で済んだって思えば、黛先輩も良かったんじゃないかな?」
「でも、反省文次第ではもっと怒られるわけですよね? まだ安心出来ないんじゃないですか~?」
「というか、さっき織斑先生に会ったけど、発表しても良かったんじゃないかって言ってたよ?」
「一夏先輩が? でもまぁ、資料を盗み見たのは反省してもらわないと……私がしまい忘れたなら兎も角、ピッキングしたわけだし」
「お嬢様がしまい忘れたのなら、お嬢様にもお説教をしなければいけませんでしたがね」
「さ、さすがにそんな事しないわよ……いくら暗部を止めるといっても、その辺はしっかりするつもりだしね」
「その噂も本当だったんだね」
「さすがにもうやっていけないしね……お家騒動があった組織に依頼してくる組織も無いだろうし」
「じゃあ、お姉ちゃんは『刀奈』に戻るの?」
「どうしようかしらね……一応お父さんの無念は晴らしたわけだし……」
既に裏切者の中でも特に率先して活動していた者は、碧が始末している。その事は簪たちも知ってはいるが、碧の雰囲気があまりにも変わらないので、本当に処分したのかと疑いたくなってしまうのだった。
ピッキングはアウトです……