IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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そろそろ終わらせたい……


入試に向けて

 IS学園内でもいろいろと起こっているが、束のラボでも二人の少女が頭を悩ませていた。

 

「クロエさんは編入じゃないんですか? 確か、私より年上ですよね?」

 

「私は今まで学校というものに通った事が無いので、編入より普通に入学した方が良いだろうと一夏様が。IS学園なら、その辺りの融通が利くらしいので」

 

「まぁ、来年から一夏兄様が実質的な経営権を手にしたようですし、学長は母様になるみたいですからね。束様も学園内で生活するようになるらしいので、このお三方が『あり』だと判断すれば、それに逆らえる人はいないでしょうし」

 

 

 言葉だけ見れば、一夏たちが学園を牛耳るようにも思えるが、マドカの口調にはそんな心配は微塵も感じられない。クロエも束なら兎も角、一夏がそのような事をするとは思っていないので、マドカの言葉を受けて素直に頷いたのだった。

 

「一夏様には返しきれない程の恩がありますから、IS学園に入学できた暁には、少しずつその恩をお返し出来たらと思ってるのですが――」

 

「私もクロエさんも、義務教育なんて受けてきてないから、座学がさっぱりなんだよね……」

 

 

 千冬や箒とは違った理由で座学が苦手な二人は、一夏が用意してくれた問題集を見て頭を悩ませているのだ。もちろん、解説書もあるのだが、最初からそちらに頼るのは二人の性格上憚られたのだ。

 

「束様にご説明賜りましたが、独特な表現で私たちには理解出来ませんでしたしね……」

 

「千冬姉様や箒様も、勉強は苦手だと束様は言っておられましたが、あれはなんの慰めだったのでしょうね……」

 

「誰にでも苦手はある、という事だったのではないでしょうか?」

 

 

 クロエの考えに、マドカは少し考えてから別の疑問を呈した。

 

「束様の苦手は何となく知っていますが、一夏兄様の苦手って何なのでしょうか? 人混みややかましいところが嫌いだという事は知っていますが、その辺りは多かれ少なかれ誰しもが思ってる事でしょうし」

 

「一夏様の苦手なもの、ですか……私には想像出来ませんね」

 

「私にもです……束様なら何かご存じなのでしょうか?」

 

「一夏様が束様に弱味を見せるとは思えませんが」

 

 

 考えに詰まってしまったので、二人はとりあえずその疑問を棚上げして、勉強に戻る事にした。

 

「束様が仰られていましたが、学校の勉強というのは世間に出ると大抵は意味がないものらしいですね」

 

「ですが、その意味の無い事でもしっかりとやらなければ、一夏様に怒られるわけですし」

 

「一夏兄様に怒られるのは、映像で見た事があるけど凹みそうですし、もう少し頑張ってみましょうか」

 

 

 二人が気合いを入れ直したところで、背後に二人の気配が生まれた。

 

「一夏兄様っ!」

 

「束様、お帰りなさいませ」

 

「ただいま~! 我が娘と未来の義妹が出迎えて――」

 

「誰が、誰の、義妹だと?」

 

「じょ、冗談だから! というか、ちーちゃんの事を妹だって思ってるから、マーちゃんの事を妹だって思ってもいいんじゃないかな?」

 

「妹のように思うのは勝手だが、マドカがお前の義妹になる事など、天地がひっくり返ってもあり得ないからな」

 

「そこまで断言されると、束さんだって傷つくんだけどな? 女のとしての魅力が無いみたいじゃないか」

 

「女以前に、人としての魅力が皆無だろうが、お前は」

 

「酷~いっ! さすがにそれは酷いんじゃないかな~?」

 

 

 口では抗議しているが、顔が笑っているので、マドカもクロエも束が本気で傷ついているわけではないと安心した。

 

「この馬鹿は放っておいて、マドカとクロエはちゃんと勉強してるのか?」

 

「それが、私もクロエさんも義務教育を受けてこなかったので、自力ではどうも……一夏兄様が用意してくれた解説を見て漸く、といった感じですね」

 

「このままのペースですと、入学試験に間に合うかどうか……」

 

「IS学園の入試に置いて、座学はあまり重要視されていないが、出来るに越した事は無いからな。出来ないとこんなふうになるわけだし」

 

 

 一夏が束が使っているモニターを操作して、部屋で死にそうになっている千冬と箒の姿を映し出す。

 

「やっぱり盗撮していたか」

 

「可愛い妹たちの成長を記録するのも、束さんの大事な務めだからね~」

 

「後で二人に報告しておいてやる。妹たちに追いかけられるのは、さすがに堪えるんじゃないか?」

 

「もう慣れてるけどね~」

 

「……二人は、間違ってもこんな大人になるなよ」

 

「はい、一夏兄様」

 

「分かっています」

 

「マーちゃんもクーちゃんもいっくん側なのっ!? って、束さんもいっくん側だし当然か」

 

「少しは反省したらどうなんだ?」

 

「しても意味がない事はしない主義なんだよ」

 

 

 束の開き直りに、一夏は本格的に頭痛を覚えたのか、頭を押さえながら左右に首を振ったのだった。




ダメな見本である束……反面教師にはピッタリだ

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