束をおとなしくさせてから、一夏は碧にお茶を出して報告を聞く体勢を作った。
「先代楯無様、及び現楯無様への裏切り行為と、先代楯無様暗殺計画を実行した人間の粛正は無事に終わりました。計画に加担した人間へも、それなりの罰を与えるという事で楯無様は納得してくださいました。これも織斑様がお力をお貸しくださったお陰です。当主楯無に代わり、ここにお礼を申し上げます」
「随分と処分が早いな。あいつらを捕まえたのは未明の話だぞ?」
「早く処分した方が、他の人間への脅しにもなると思い、私が進言しました」
「まぁ、更識家の決定に俺がとやかく言うつもりは無いし、楯無が納得してるのなら問題ないだろう」
「裏切者の中には、更識の情報を大して持っていない人間もいましたので、このまま裏切者のままでいるか、大人しく楯無様に従うかを選ばせた結果、ほぼ全員が楯無様に忠誠を誓いました」
「お前が脅せば、それなりの効果は見込めると思っていたが、随分とあっさり終わったな」
「全ては織斑様のお申しつけの通りです。今回は真にありがとうございました」
折り目正しく一礼してから、碧は何時も通りの雰囲気に戻った。
「ふぅ……堅苦しいのはこの辺で止めましょうか」
「急に何時も通りに戻ったな」
「だって肩がこっちゃうでしょ? それに、何で私が刀奈ちゃんの名代をしなきゃいけいなかったのか、未だに分からないのよね。虚ちゃんならまだしも」
「刀奈も虚も、今回の事で処理しなければいけない事が多いからだろうな。本音や簪じゃ刀奈の名代は務まらないだろうし」
「本音ちゃんは兎も角としても、簪ちゃんは刀奈ちゃんの実の妹なのよ? 私より相応しいと思うけど」
「試験前で、本音の相手で手一杯なんだろ」
「そういう事なのね……なら仕方ないかな」
一夏に言われて漸く納得したと言いたげな表情で頷いた碧に、一夏は苦笑いを浮かべた。
「いっくん、このモニターって学園内にあるカメラ全てに繋がってるんだよね?」
「何だいきなり」
「有象無象共の着替えシーンを盗撮して、流通させれば学園が潤うかな~って」
「盗撮容疑で捕まりたいのか、お前は? 捕まえる前に俺が粛正してやろうか?」
「ちょっとした冗談だから、いっくんも本気にしないでよ~」
「割と本気だったんじゃないのか?」
一夏がジト目で束を睨むと、束は引き攣った笑みを浮かべて首を左右に振る。さすがに命の危機を感じ取ったので、間違っても「本気だった」とは言えないのだ。
「ホントにこいつに監視を任せて良いのか不安になってきたな……」
「織斑君、ここを辞めるの?」
「いや、実質的な経営権を手に入れたから、こっちにかまけてる時間が無くなりそうなんだ。人を雇うにしても学園の経理がどうなってるのか俺には分からないから、タダ同然で雇えるコイツに任せようと思ってるんだが……やはり普通の人を雇った方が安全だな」
「真面目にやるってば~」
「ふーん……私がやろうか?」
「小鳥遊が? だがお前は更識の仕事があるんじゃないのか?」
一夏の問いに、碧は笑顔で首を左右に振る。
「今回の件で、楯無様は対暗部用暗部としての『更識家』を終わらせるつもりらしいのよ。報復に備える事はするでしょうけど、それ以外はもうすることも無いし。そうなると私も暇になっちゃうのよね。何処かで雇ってくれないかなって思ってたところに、そういう話が出たから」
「小鳥遊なら安心して任せられるが、どうせなら教師として赴任してくれないか? 来年度の前半は俺もいろいろと忙しいし、それ以外にもいろいろとあるから、優秀な人員はぜひとも欲しい」
「織斑君がそう評価してくれているなら嬉しいけど、勝手に決めちゃって良いの? 実質的な経営権を手に入れたからといって、人事権も織斑君が一任されてるのかしら?」
「もちろん報告とかはするが、今まで散々人の事をこき使ってきたんだから、これくらいの我が儘は聞いてもらう。どうせなら、虚も教師として残ってもらえないか打診してみるか」
「虚ちゃんなら先生に向いているかもしれないしね。刀奈ちゃんの監視にもなるし、本音ちゃんも少しは真面目になるかもね」
「束さんも教師をしてあげても良いよ~?」
「人に物を教えられるのか、お前は?」
「う~ん……無理だね。なんで理解出来ないのかが分からないから」
「だからお前は監視だけしてくれてればいい。そうすれば無駄な発明をする暇もなくなるだろうしな」
「もしかして、それが目的で束さんをここに縛り付けようと!?」
「織斑君の平穏の為にも、篠ノ之さんは大人しくしてた方が良いと思うわよ?」
碧にも言われたので、束はさすがに少しショックを受けたようだったが、事実だと理解もしているので少しは反省しようと心に誓うのだった。
もう織斑学園でも良い気がしてきた……