IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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付き合い長いだけありますよ


楯無の扱い方

 大浴場の利用時間も過ぎ、完全消灯時間になったIS学園の寮を抜け出す二人の少女。本来であれば見咎められた時点で大目玉を喰らうところだが、今日に限っては見過ごされた。そもそも監視者の許に向かっているのだから、見咎められる事は最初から無かったのだ。

 

「一夏先輩、周囲の動きはどうですか?」

 

「あいつら、正門を吹き飛ばすつもりなのか? 念の為ゲートのシステムはコピーしてこっちで管理しているし、守衛にも逃げるように言っておいたから問題は無いが、改修費を誰が払ってくれるのかな? 元雇い主様?」

 

「う、ウチを裏切った人間がしたことまで弁償出来る程、更識の財政に余裕はありません。というか、むしろ支援してもらいたいくらいなんですから……」

 

「まぁ、最悪駄ウサギに修理させれば問題ないか。あいつなら一時間かからず直す事が出来るだろうし」

 

「篠ノ之博士が手伝ってくださるでしょうか?」

 

「無理矢理にでも手伝わせるから問題ない。そもそも、今も覗き見してるんだから、止めなかった時点で同罪だ」

 

「その理屈はどうかと思うわよ?」

 

 

 一夏と同じように正門に視線を向けている碧が、苦笑いを浮かべながらツッコミを入れるが、一夏は一瞥もせず正門を睨みつけ続ける。

 

「侵入して暫くはお前たちに任せるつもりだったが、学園の施設をいきなり壊そうとするなら話は別だな。破壊した時点で一掃する」

 

「そうしてくれると我々としては非常にありがたいのですが、くれぐれも殺さないでくださいね? こちらには色々と聞き出したい事があるので」

 

「別に殺しはしない。というか、本命はその後ろにいる連中だからな」

 

「へっ?」

 

「さすが織斑君。気付いてたのね」

 

「何の話です?」

 

 

 虚と楯無が訳が分からないという顔で大人二人に視線を向けると、一夏は肩を竦め、碧はしょうがないと言いたげな表情を浮かべていた。

 

「こればっかりは学生の刀奈ちゃんや虚ちゃんには分からないわよね」

 

「前の連中とはレベルが違うからな」

 

「何の話ですか……っ! まさか、亡国機業の連中も来てるんですか!?」

 

「声が大きい」

 

「す、すみません」

 

 

 思わず大声を出してしまった楯無に、一夏が静かに注意する。敵に囲まれている事を思い出して、楯無はすぐに頭を下げ、そして一夏に詰め寄った。

 

「どうして教えてくれなかったですか!」

 

「亡国機業の連中が来たのは、完全消灯時間になる少し前だからな。教えるも何も、そんな暇が無かったというのが本音なのだが」

 

「まぁ、私と織斑君が気付いていれば、最悪の事態にはならないと思ってましたし、刀奈ちゃんや虚ちゃんに余計な心配をかけたくなかったというのも本音ね」

 

「そうやって、何でも裏で片づけようとしてくれるのはありがたい事ですが、今回は私たちだって手伝いたいんです」

 

「そうですよ。織斑先生も碧さんも、もう少しこちらに仕事を回してくれても良いんじゃありませんか?」

 

「裏切者の始末は兎も角、亡国機業の問題はウチの問題でもあるからな……マドカから聞いた限りでは、母親は俺に殺されたがっているようだし」

 

「殺されたがっている? 殺したがっているではなく?」

 

「母親の実力では、俺に傷を負わせることすら難しいらしいからな。どうも母親も思考回路が壊れているようで、千冬とマドカを殺し、俺に殺される事で満たされると思っているらしい」

 

「愛が重いですね……」

 

 

 どういう表情をすればいいのか分からなかった楯無は、とりあえずそれだけ返して顔をひきつらせた。一夏も似たような思いなので、楯無の表情にツッコミは入れずに視線を正門に戻す。

 

「織斑君が吹き飛ばした裏切者は私の方で確保しておくから、織斑君は思う存分亡国機業とやり合ってちょうだい」

 

「思う存分も何も、俺に敵対の意思は無いんだがな……降り懸かる火の粉を払うだけだ」

 

「織斑君の一払いは、十分に殲滅に値すると思うけど?」

 

「さぁな。……そろそろ仕掛けてくるようだから、楯無も虚も気合いを入れろ。正面だけからとは限らないんだから、伏兵は常に意識にいれておけ」

 

「分かってます。ですが、一夏先輩が正面の相手を吹き飛ばせば、側面の敵の戦意喪失に繋がるでしょうし、伏兵はあんまり気にしなくてもよさそうですけどね」

 

「そうやって気を緩ませていると、痛い目を見るかもしれないから注意しろ。簪がいなくなっても良いなら、弛緩したままでも良いが」

 

「そんな事させません!」

 

 

 一夏に煽られて、楯無は一気に緊張感を高める。彼女にとってそれだけ「簪がいなくなるかもしれない」という事は避けたい事だという事を分かって発破をかけた一夏に、虚と碧が顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

 

「織斑君、刀奈ちゃんの扱い方上手すぎ」

 

「それなりに付き合いがあるからな。小鳥遊も虚も、気合い入れろよ」

 

 

 その言葉とタイミングを同じくして、正門付近で爆発音が鳴り響いたのだった。




敵が大勢いるのに気を抜くとか……

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