IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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十分に実力者ですから


気配に気づく二人

 剣道場で身体を動かしていた千冬と箒は、学園の周囲から殺意を向けられている事に気付き、動きを止めて敵の素性を探る。

 

「亡国機業とかいう連中か?」

 

「犯罪組織の人間にしては、隠れ方がお粗末すぎる。というか、あえて居場所を教えているようにさえ思える」

 

「私もそう思う。この程度の隠形でIS学園を襲撃できると思っているのなら、出生からやり直した方が良いだろうな」

 

「となると、別口か……現状、IS学園が襲われるような事態では無かったと思うんだが……」

 

「まぁ、この程度の連中なら一夏兄が気づかないという事も無いだろうし、本当に危なければ何か言ってくるだろう。私たちは気にせず運動を続けるとするか」

 

「お前がそれで良いなら、私も構わないが……ん? あれは簪と本音じゃないか? 何だか周囲を警戒しているようにも見えるが」

 

「あいつらも暗部の人間だから、この程度の敵になら気付いても不思議ではないだろ?」

 

 

 千冬に問い掛けに、箒は「まぁ、そうだな……」という何か引っかかっているような返事をしたが、彼女自身何に引っ掛かりを覚えているのかが分かっていないので、そのままうやむやになってしまった。

 

「では再開すると――っと、もうこんな時間だったのか」

 

「随分と集中してたな……だから周りの連中にも気づけたのかもしれないな」

 

「そうかもしれん。普段の私たちならもう少し気付くのが遅かったかもしれない」

 

「一夏さんや姉さんレベルで気配察知が出来る人間など、滅多にいないからな」

 

「簪の護衛の小鳥遊さんだっけか? あの人はかなり気配に敏いようだったし、気配遮断も私たち程度では太刀打ち出来ないレベルだと感じたがな」

 

「それだけ修羅場をくぐってきたという事なんじゃないか? 私たちも経験を積めば、それなりには出来るとは思うが」

 

「だがいくら経験を積もうが、一夏兄や束さんのような動きは出来そうにないと思うが」

 

「あの二人と同じような事が出来るとは私も思っていない。だが、少しでも近づけたらとは思うだろ?」

 

 

 箒に問われ、千冬も少し考えてから頷く。あの二人はあくまでもお手本だが、何時か目標にしてみたいと思っているのは彼女も同じなのだ。

 

「今は少しでもあの二人に近づけたらとしか思えないが、いずれは一本取ってみたいと思えるのだろうか?」

 

「一夏兄から一本取れるのなど、昔の師範くらいだろ? 今では一夏兄の方が強いみたいだし」

 

「父上も現役とはいえ歳だからな。二十代の一夏さんと比べられればそれは劣るさ」

 

「今でも一夏兄に師範代として道場に来ないかと誘ってるんだろ?」

 

「一夏さん一人を匿うくらい、ウチの道場でも造作もない事だからな。だが、IS学園で生活する以上に不自由を感じるのかもしれないな」

 

「どういう事だ?」

 

「ウチには一般のお弟子さんたちもいる。そこから一夏さんの居場所が世間に知れる可能性があるから、今以上に慎重に生活をしなければならないだろ? 人の口には戸が立てられないから、お弟子さんから知れ渡る可能性だって十分にあるんだ」

 

「一夏兄の居場所を知れば、有象無象共が一夏兄目当てで篠ノ之道場に入門して来るかもしれないぞ? そうなればお前の家は潤うんじゃないか?」

 

「一夏さんを餌に弟子を増やしても、質が下がるだけだと思うが……そもそも、師範代としての一夏さんは、教師としての一夏さん以上に恐ろしい存在だと私は思うんだが……」

 

「それは私もだ……」

 

 

 指導者として一夏は優秀だと千冬も箒も認めているが、ふざけたりして怒らせると、教師としての一夏以上に恐ろしいのだ。既に篠ノ之流剣術の免許皆伝とも言われている一夏が木刀を持っているのだから、その恐怖度は出席簿の比ではないのだ。

 

「とりあえず、部屋に戻るか……」

 

「ここで時間を使って、下校時間を過ぎるのも馬鹿馬鹿しいしな……万が一見回りが一夏兄だったら――」

 

「おい、そこで区切るな! 何だか寒気がしてくるだろうが」

 

 

 道場を綺麗に片づけてから、千冬と箒は一礼して剣道場を後にし、そそくさと部屋に戻る。一夏の事で怯えていたからか、周辺にいる殺意を向けてくる相手の事はすっかり頭の中から抜け落ちていた。

 

「どれだけ恐れられてるのよ、織斑君は」

 

「別にそれほどの事をした覚えは無いんだが」

 

「それだけ指導が厳しいって事なのかな? 一度本音ちゃんにしてあげたら真面目になるかしら?」

 

「真面目になる前に使い物にならないと思うがな。あれは下手に矯正すると駄目になるだろう」

 

「織斑君もそう思う? 本音ちゃんはあのままで良いと私も思ってるんだけど」

 

「更識家内でもそう思われてるから、刀奈も虚も何もしてこなかったんだろ?」

 

「さぁ? その辺りは私には分からないもの」

 

 

 千冬と箒の事を気づかれずに見守っていた一夏と碧は、音も無く道場から姿を消したのだった。




千冬・箒の気配察知より、一夏・碧の隠形の方が上ですから

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