IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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彼女の説明は独特ですから……


疲れ果てた千冬

 セシリアに勉強を教わった千冬は、精根尽き果てた状態で部屋に戻ってきた。

 

「まさか、セシリアがあそこまで厳しいとは思わなかったな……」

 

 

 千冬としては気楽に質問しに行ったのだが、頼られたのがよほどうれしかったのか、セシリアは千冬が完全に理解するまで何度も説明を繰り返したのだった。

 

「こんなことなら、簪にでも習いに行けばよかったな……」

 

 

 簪も厳しいと言えば厳しいのだが、セシリアのように有無を言わせないような雰囲気はない。そして本音で慣れているからなのかは分からないが、簪の説明は分かり易く要点を纏めてくれるので理解しやすいのだ。

 一方のセシリアは、成績は良いが説明下手なので、理解するのにかなりの時間を要する。つまり何が言いたいのかと言うと、既に消灯時間ギリギリなのである。

 

「箒は…シャワーか……」

 

 

 とっくに部屋に戻ってきていた箒は、部屋付きのシャワーを浴びているようだと、扉越しに聞こえる音でそう判断して、千冬はベッドに倒れ込んだ。

 

「鷹月はセシリア程分かりにくいという事もなさそうだし、私が鷹月の方にすればよかったかな……」

 

 

 今日一日だけで、ここ数ヶ月分頭を使った自信がある千冬は、そんな事を考えながらウトウトし始める。さすがにこのまま寝たらまずいと思う一方で、もう寝たいという思いが強くなってきているのを感じ、千冬は無理矢理起き上がり風呂の準備を始める。

 

「やっと帰ってきたのか」

 

「セシリアの奴が気合い満々でな……テスト範囲の総復習をするとか言い出した時は死ぬかと思ったぞ」

 

「そこまでなのか……鷹月の方は分かり易かったがな」

 

「今度は私が鷹月に習いに行くから、お前がセシリアの方に行ってくれ……」

 

「自力で何とか出来ると思える程、私たちは自分の頭を信じられないのが悲しいがな……少なくとも、お前のその様子を見て、セシリアに習いたいと思うのは相当なマゾだと思うぞ」

 

 

 精根尽き果てている千冬を見て、箒はしみじみと呟く。何か箒に言い返そうとした千冬だったが、言葉が何も思いつかずふらふらな足でシャワーを浴びる為にバスルームへと向かった。

 

「しかしまぁ、よほどセシリアの説明は分かりにくかったと見える……よかった、あそこで鷹月の方を選んで」

 

 

 セシリアの説明下手は、箒も何となく聞いていたので、静寐とどちらを選ぶか聞かれた時、迷わずに静寐を選んだのだ。千冬も静寐を選んだので、じゃんけんで決める事になり、勝った箒が静寐に習いに行く事になったのだ。

 

「とはいえ、これで留年が回避出来るとも思えないし、テスト前にまた誰かに習う必要があるだろうな……」

 

 

 今日やったのはあくまでも今日まで習った範囲の復習であり、テスト範囲はまだ先がある。明日から真面目に授業に参加したとしても、自力で赤点を回避出来る自信が無い箒としては、テスト前にもう一度誰かに教わる必要性があると感じているのだった。

 

「とりあえずは、セシリアは候補から外しておくか……あの千冬があそこまでヘロヘロになるなんて、相当な事だからな」

 

 

 箒から見ても、千冬は相当な体力バカだ。その体力バカがヘロヘロになるという事は、相当気力を振り絞ったのだろうと想像に難くない。そんな相手に教わりたいと思える程、箒はマゾではないのだ。

 

「一夏さんに勉強を教わった時は、確かに疲れ果てたが達成感があったが、千冬の様子を見る限り、セシリア相手では達成感は薄そうだな……」

 

 

 一応理解は出来たのだろうが、それが頭の中にずっと残るのかと聞かれれば、恐らくは『否』という答えが返ってくるだろうと箒は思えてならなかったのだ。一夏に教わった時はテストの時にスラスラと教わった事が出てきたのと比べれば、その効率の悪さは明らかだろうなと、習わなくてもそう思えていたのだ。

 

「私も人の事は言えないが、普段から勉強しておけばよかったな……」

 

 

 シャワーを浴びながら寝ているのではないかと思えるくらい動いている気配がない千冬の事を想いながら、箒はそんな事を考えていた。

 

「おい、生きてるか?」

 

『……あ、あぁ一応』

 

「お前、半分以上寝てただろ……」

 

『いろいろと危なかったが、お前が声をかけてくれたお陰で何とかなった』

 

「それは良かった。シャワーを浴びたまま寝落ちして風邪を引いたなんて結果になれば、一夏さんに怒られる事間違いなしだったろうしな」

 

『そんな情けない事、一夏兄に言えるわけ無いだろうが』

 

 

 シャワーを止めて脱衣所にやってきた千冬を見て、とりあえず安心した箒はベッドの上に戻りホッとため息を吐いた。

 

「お前がため息とは珍しいな」

 

「なに、世界がどうにかなりそうになってるとは思えないくらい、平和だったなと思ってな」

 

「平和じゃ無いだろうが……留年するかもしれないんだぞ、私たちは」

 

「そんな事を考えられるくらい、私たちは平和だったという事だ、一夏さんはそれどころではないだろうがな」

 

「そう…だな……」

 

 

 一夏がいる方角に視線を向け、千冬もため息を吐いたのだった。




あの説明で分かれ、という方が無理……

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