IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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やれば出来る人なんだから……


束の成長

 遠隔操作で亡国機業のアジトに偵察機を忍び込ませた束は、その偵察機を亡国機業の人間の一人に寄生させた。寄生といっても、人体に影響はなく、体調不良なども起こらないのでバレにくいというものだ。

 

「誰に取りついたかは分からないけど、感度は良好なようだね~。この動きから察するに、今のアジトから別のアジトに移ろうって感じかな~? まぁ、有象無象には考え付かない事だから仕方ないかもしれないけど、滑稽だよね」

 

「束様、本当に亡国機業を潰すのですか?」

 

「私は潰さないよ~? 潰すのはいっくん。マーちゃんたちの母親が考えているシナリオを、悉く潰してかつ、犯罪組織も壊滅させようとしてるんだよ~。ついでに、更識とか言う家を裏切った連中へも粛正させるつもりらしいし」

 

「それって兄様がしなければいけない事なのでしょうか?」

 

「いっくん曰く、身内のしでかしてる事だからってさ~。いっくんも真面目だよね~。中学に上がる前に自分たちを捨てた親なのに、しっかりと責任を果たそうとしてるんだから」

 

「そこが一夏様の良い所だって、この間束様が仰っていたではありませんか」

 

「あっ、クーちゃん。それはマーちゃんには内緒だって言ったじゃないか~!」

 

 

 クロエにあっさりとバラされて、束は少し焦ったようにマドカに視線を向ける。案の定マドカは笑いを堪えている様子で、束は必要以上に慌てて否定する。

 

「べ、別にいっくんが責任を取ろうが取らまいが束さんには関係ないけど、いっくんの頼みを断る事なんて束さんには出来ないし、いっくんには幸せになってもらいたいって束さんも思ってるし」

 

「分かってますよ。一夏兄様は、今までいろいろと周りに振り回されて生きてこられてましたから。もうそろそろ落ち着いた生活を送ってもいい頃だと私も思います。まぁ、振り回していた側の私が言うのもおこがましいですが」

 

「マーちゃんは真面目になったね~。後は、ちーちゃんがいっくん離れが出来るかどうかだよね……束さんが原因だから強く言えないけど、ちーちゃんはいっくんに依存し過ぎてるからね~。いっくんが結婚するなんて展開になれば、日本刀でも振り回して反対しそうだし……」

 

「我が姉ながら、そんな事をしないと言い切れないのが恥ずかしいです……」

 

「マドカ様も千冬様も、一夏様の事が大好きですからね。私のような出来損ないにも優しく接してくれる一夏様だからこそ、なのかもしれませんが」

 

「いっくんは突き放すようなことを言いながらも、束さんの事を心配してくれてるからね~。いい加減解放してあげた方が良いっていうのは、束さんでも分かってるんだけど……」

 

 

 何時までも一夏を縛り付けるのは、さすがに可哀想だと思っているのだが、なかなか解放してやることが出来ないと、束は割と本気で反省している。だが束だけが反省しても意味はないのだ。

 

「まぁ、いっくんと上手に付き合っていける相手なんて、滅多にいないだろうけど、ここ最近はいっくんの周りにそういう相手がいるんだよね」

 

「小鳥遊碧様、ナターシャ=ファイルス様などですね」

 

「それ以外にも、いっくんに好意を寄せている女は沢山いる。そういう相手が出来そうなら、束さんは大人しく身を引く覚悟だよ」

 

「一夏兄様が束様をお選びになる可能性は無いのでしょうか?」

 

「絶対にないと言い切りたくはないけど、いっくんにとって束さんは手のかかる妹のような感じだからね~。なんだかんだ言っても、いっくんは束さんの事を心配してくれていたからさ」

 

 

 自分が一夏にどう思われているかを理解していない程、束は鈍感ではない。女性として見られていない事くらいとっくの昔に気付いていたが、それでも一夏の特別になりたいとあれこれ手を尽くしてきたのだ。

 

「おっと、亡国機業の連中に動きがあるね……これはやっぱり、今のアジトから何処かに移動するみたいだね」

 

「束様の想像通りですね」

 

「移動場所が判明したら、すぐにいっくんに連絡しなきゃ。いっくんとしては、年が変わる前に決着にしたいみたいだしさ」

 

「まだ二ヵ月はありますが?」

 

「年末はいっくんも忙しいから、十二月に入る前に決着にしたいってさ」

 

「忙しい、ですか?」

 

「いっくんは先生でもあるから、定期試験とか補習とかいろいろとあるんだよ、きっと」

 

「一夏兄様の本業はIS学園教師ですよね? 教師以外の職に就いているのですか?」

 

「実質的な経営者みたいなものだからね、いっくんは。その内理事長にでもなるんじゃないかな」

 

「一夏様は否定なさっておいでですがね……」

 

 

 一夏の苦労が分かるだけに、クロエは一応否定しておいたが、彼女も一夏が実質的に学園を動かしている事を知っているので、その言葉に勢いはなかった。そんな二人を見て、マドカはやっぱり一夏は苦労しているんだなと思い知り、そして反省したのだった。




同い年なのに手のかかる妹扱い……

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