IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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学生の本分です


現実的な問題

 一夏から勉強しろといわれてしまったので、さすがの千冬も部屋に戻って勉強するしかなくなってしまった。だがそんな千冬を見て、同室の箒は熱でもあるのではないかと千冬のおでこに掌を当てて熱を測り始める。

 

「おい、何のつもりだ?」

 

「お前が自主的に勉強するなんて、熱でもあるのではないかと疑っても仕方ないだろうが」

 

「人を馬鹿にするのも大概にしろ。私だって勉強くらいするさ」

 

「お前、本当に千冬か? この間見かけた妹の方じゃないだろうな」

 

「そんなわけ無いだろうが! まぁ、正直に言えば、一夏兄に勉強しろと言われたんだが……」

 

「なるほど……」

 

 

 箒も一夏に言われたらさすがにやらなければという気持ちになるので、千冬の言葉に納得してしまい、自分も勉強しなければという想いに駆られた。

 

「このままだと留年もあり得ると脅されれば、やらなければならないと思うだろうが」

 

「そう…だな……留年なんて結果になれば、弾と数馬に笑われかねない」

 

「あいつらも赤点ギリギリらしいからな……下手をすれば、鈴だけ学年が上になってしまう」

 

「そうなると鈴先輩といわなければいけないのか? だが、見てくれも身体も、どう見ても年下だがな、アイツは」

 

「ちょっと待て。万が一留年なんてすれば、蘭と同級生になるのか?」

 

「アイツと対等な扱いになるのはなんだか嫌だな……」

 

 

 頭脳で言えば蘭の方が圧倒的に上なのだが、弾の妹という事で千冬と箒は蘭の事を何処か下に見ている傾向がある。その蘭と同級生という事になれば、何となく考えを改めなければいけないような気がして、二人はますます気を引き締めた。

 

「そういえば、私の妹とか言っていたヤツな」

 

「あぁ」

 

「今束さんのところにいるらしい」

 

「はぁっ!? お、おい、どういう事だ」

 

「何でもマインドコントロール? とかいうやつをされてたらしくてな。一夏兄と束さんが捕まえてそれを解いたらしい。それで今は、束さんのところで保護してるとか」

 

「お前、そんなこと何処で聞いたんだ?」

 

「さっき、一夏兄から」

 

 

 千冬としては世間話程度のつもりだったのだが、思いの外箒の驚きが大きかったので、千冬の方も何故か驚かなければいけないような気になっていた。

 

「それって大丈夫なのか?」

 

「私も一夏兄にそう聞いたが、あの程度なら一夏兄や束さんはおろか、クロエとかいう女も倒せないと言われたからな……私たちがでしゃばる必要は無いだろう」

 

「あのクロエって人は、私たちより強そうだったからな……姉さんの秘蔵っ子なら、それくらいの実力があっても不思議ではない」

 

「というわけで、当面の心配事は間近に迫ってる定期試験という事になる」

 

「こればっかりは私たちだけではどうにもならないと思うんだが……」

 

「シャルロットや簪に教わるのもなんだかな……一学期はそれで乗り切ったが、二回目ともなると一夏兄も見逃してくれるかどうか……」

 

「こんな時だけ、姉さんの頭脳が羨ましく思える……」

 

「私もだ……」

 

 

 一夏は普段からしっかりしているので、嫉妬するのも馬鹿らしいと思えるのだが、普段ふざけている束が勉強が出来るという事が、今だけは恨めしいと二人は愚痴を零した。

 

「いろいろなものを捨てた引き換えだと思えば、まぁ納得出来ない事も無いんだが……」

 

「私たちが姉さんと同じような道を選んだとしても、あんな頭脳にはならないと思うぞ……こればっかりは生まれた時から人外だった姉さんだったからとしか言いようがない」

 

「私もお前も、兄と姉に才能を全て吸い取られたんだろうな……その所為でこんな平凡以下の成績しか――」

 

「一夏さんは元々出来たという事もあっただろうが、努力した結果だろうが。お前の世話だけでなく、姉さんの相手も務めながらバイトもして、それでも余った時間を勉強なり鍛錬なりに当てたからだろ」

 

「となると、やはり私たちは努力が足りないのか……分かっていた事だが、改めて考えたくはなかった」

 

「というか、こんなことを考えてる事自体時間の無駄なんだろうな……」

 

「仕方がない。セシリアや鷹月にでも質問しに行くか」

 

「他人頼みなのは変わらないのか……まぁ、私も問題が何を言っているのか分からないし、誰かに聞くしかないんだがな……」

 

 

 授業中目を開けながら寝たりすることもあるので、基礎が抜け落ちている二人は、自分たちの不甲斐なさを実感しながら、教えてくれそうな相手の部屋を訪ねる為に立ち上がった。

 

「じゃあ、私はセシリアの部屋へ」

 

「私は鷹月の部屋に行く。もしダメだったらシャルロットか簪の部屋に行くとするか」

 

「だが、シャルロットはラウラ、簪は本音に勉強を教えてるだろうから、私たちの面倒を見る余裕があるかどうか……」

 

「なら鈴か……? いや、アイツに教わるくらいなら大人しく赤点の方がましだな」

 

「どっちもどっちだと思うが……」

 

 

 とりあえず教われそうな相手を探す為に、二人は寮内をうろつくのだった。




あんまりテスト前に焦った記憶が無いな……

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