なかなか思い通りに物事が進まず、千秋はイライラしていた。
「(あそこでマドカが死んでくれれば、後は私が千冬を殺して一夏に殺されれば終わったのに……オータムは簡単に信じたけど、やはりスコールは要注意ね)」
マドカの脱走は千秋の計画だったが、それはマドカを殺すための計画だったのだ。だが結果的にはマドカは亡国機業から抜け出し、長年掛けていたマインドコントロールも解かれてしまったようなので、マドカが千冬を殺しに行くとは考えられない。
「(やはり一夏と篠ノ之束のタッグは強敵ね……戦闘力もさることながら、頭脳の面でもあの二人を同時に相手しなければいけないなんて……普通なら御免よね)」
千秋は一夏の実力だけでなく、束の実力も把握しているので、その二人を同時に相手にしない方法を考えているのだった。
「(手っ取り早いのは、私が単身で乗り込んで、千冬とマドカを殺害。そして一夏の前に姿を現わし、そこで殺してもらうって感じかしらね……ただ、マドカの身柄は篠ノ之束が匿っているようだし、私の気配遮断程度で一夏の目を誤魔化せるとも思えないわね……そうなると玉砕覚悟で二人を殺しに行くしか――)」
「ちょっといいかしら?」
「あら。何か用かしら、スコール」
考え事をしていても、声を掛けられればすぐに反応出来る。これが千秋にあって千冬に無い技である。
「更識から抜け出した連中だけど、どうやら独自に動いてるみたいなのよね。あれって貴女の指示かしら?」
「さぁ? あいつらは基本、私のいう事なんて聞かないもの。資金面で協力してくれた見返りとして、こちらからは武器を調達しただけの関係。基本的には互いに干渉しないのが契約だもの」
「つまり、戦力として考えない方が良いと?」
「あいつらの目的は、更識楯無・簪姉妹の暗殺。それを成し遂げる為にはどれだけの被害を出そうが気にしないらしいわよ。だから、IS学園を襲撃する時に、こちらもそれに便乗して襲撃すれば、結果的に奴らは私たちの戦力という事になるのよ」
「……そんなに上手くいくかしらね」
「何か心配事でも?」
スコールの意味ありげな呟きに、千秋は興味を惹かれた。オータムほどではないが、スコールも自信家なので、そんな彼女が不安を懐くなど、どのような状況なのかと単純に興味があったのだ。
「IS学園には一夏がいるもの。それに篠ノ之束の妹も在籍している。という事は篠ノ之束も介入してくる可能性も大いにあるのよ。私たちの仲間も、最近は連絡が取れなくなっているし」
「裏切ったと?」
「元々退屈な日常に飽きて亡国機業に入ってきた子だからね。他に楽しい事を見つけたのなら、自然に抜け出ても仕方ないかもしれないわ」
「こちらの情報は与えてないのよね?」
「必要最低限の情報しか与えていないわ。襲撃の際、参加するかどうかの確認をしてただけだし」
「そう……」
スコールがいう味方が誰なのか、千秋は把握していない。さほど脅威にならないなら捨て置いても問題無いだろうという判断を下し、スコールに退室を命じた。
「珍しいわね。貴女が出ていけとはっきり言うのは」
「これでもいろいろと考えなきゃいけない事が多いのよね。誰かさんがネズミを逃がしてくれちゃったお陰で、ますます考えなきゃいけない事が増えちゃったし」
「誰かしらね、そんなヘマをしたのは」
全く悪びれた様子も無く、スコールは千秋の部屋から去っていった。扉が閉まるのを確認して、念の為スコールの気配が遠ざかるのをしっかりと確認してから、千秋は盛大にため息を吐いた。
「やれやれ、オータムなら少しは揺さぶれたでしょうけど、スコール相手じゃ駄目ね……死人と言われるだけあって、全然心が揺らがないのね」
駆け引きならかなりの数こなしてきて、並大抵の相手なら簡単に揺さぶれる自信があっただけに、千秋は少し悔しそうに呟き、IS学園上空に飛ばしている衛星から送られてくる映像を確認する。
「(現在一夏は不在……恐らくマドカのところに行っているんでしょうね。攻め込むなら今がチャンスだけど、IS学園には篠ノ之束がハッキングしている衛星が何個も見張ってるから、私が攻め込めばすぐに一夏に情報が行ってしまう……マドカの居場所が分からない今、特攻を仕掛けるべきではないわね……)」
束の監視の目を掻い潜って飛ばした衛星で、過去の映像を呼び出し千秋は恍惚の笑みを浮かべる。
「あぁ一夏……早く貴方に殺される日が訪れないかしら……」
ある意味で束と同じような行動を取っている千秋であるが、その中身は全く違う。束は一夏に怒られる事を想像し悦に入り、千秋は殺されることを想像して自分を満たしている。
「兎に角、今すべきことはマドカの所在を突き詰める事と、どうやって二人を殺すかね」
気合を入れ直して、千秋は持てる全ての技術を駆使してマドカを探すのだった。
ここまで行くと恐怖すら感じる……もともと狂ってはいるけど