IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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七~八割はこの人が原因だろ……


一夏の苦労の原因

 とりあえず束が保護するという名目でこのラボで生活する事になったマドカは、一夏とクロエの案内でラボの内部を見学していた。何故束が案内しないかというと、一夏に部屋の片づけを命じられたからだった。

 

「申し訳ございません、一夏様。部屋の掃除は私の仕事ですのに……」

 

「あれはお前の仕事じゃないと思うがな……あそこまで散らかしたのなら、あれを片付けるのは束の責任だ。そもそも自分でどこに物を置いたか分からなくなるようじゃ、お前が片づけても意味はないからな」

 

「そう…でしょうか……」

 

「お前が自分の出自を気にして、何時捨てられるかとビクビクしているのは何となく知っているが、その程度の事で用済みとは言われないから心配するな。束がお前の事を捨てるなら、俺がお前一人くらい雇ってやる」

 

「一夏様……」

 

『ちょっといっくん? 束さんの娘を誘惑しないでよね~? そもそも、束さんがクーちゃんを捨てるわけ無いでしょうが』

 

「監視カメラで覗いてないで、さっさと部屋の片づけを終わらせるんだな」

 

 

 ラボ内にあるマイクから束の声が聞こえてきたので、マドカは少しビクビクしながら一夏の陰に隠れた。

 

『マーちゃんも、そんなに怯えなくてもいいじゃないか~。束さんはマーちゃんに危害を加えようとするわけじゃないんだし』

 

「存在そのものが害だからな、お前は」

 

『いっくんの辛辣なツッコミも、最近では快感に思えてきたよ~』

 

「ついに拗らせたか……」

 

 

 前々から注意しても反省せず喜ぶ節が見られた束だったが、ついに行く所まで行ってしまったようだと、一夏は嘆かわしそうにつぶやいたのだった。

 

「一夏兄様、クロエさんを雇うと言っていましたが、具体的にはどのように? 一夏兄様はIS学園の実質的な権力者だと調べがついていますが、人事権までお持ちなのですか?」

 

「いろいろとツッコミたいが、別に学園で雇うつもりではない。個人的に手伝ってほしい事があるから、それをやってもらおうと思っただけだ」

 

「そうでしたか。それにしても、このラボはどのような造りになっているのでしょうか? 外観はそれ程広そうには見えないのですが、既に六部屋目ですよ?」

 

『このラボ内は、束さんが発明した異次元空間製造装置で無限に広がる世界なのだ~』

 

「ゴミ捨て場に持ってこいだから、ああやってゴミ部屋と化すんだろうが……クロエやマドカは、あんな大人になるんじゃないぞ」

 

「「はい、一夏様(兄様)」」

 

『いっくん、本当にお父さんみたいだね~』

 

 

 束の茶々に、一夏はカメラに向かって鋭い視線を送ったが、これも束を喜ばせるだけだと思い直し、ため息を吐くだけに留めた。

 

「とりあえずここがマドカの生活空間となる場所のようだな。欲しいものは初期設定を弄れば勝手に出てくるから、欲しいものは自分で用意してくれ」

 

「これを操作すればいいのでしょうか? ……えっと、このラインナップはいったい?」

 

「一夏様の動画、一夏様の写真、一夏様幼少期の記録――束様の個人的趣味が満載ですね」

 

「アイツは……」

 

「一夏兄様、見てもよろしいのでしょうか?」

 

「出来る事なら、見ないでくれ」

 

「一夏兄様がそう仰るなら……」

 

 

 興味津々ではあったが、一夏が心底見て欲しくなさそうなのを感じ取り、マドカは後ろ髪を引かれる思いで、そのページから移動した。

 

「あっ、こっちは普通ですね」

 

「無駄にハイテクなものを作ってるんだな……これを世間に公開すれば、暮らしぶりは大きく変わるだろうに」

 

「束様は一般人には興味がございませんから」

 

「生活水準が変わるかもしれないと言われても、アイツが関心を持つはずもないか」

 

「ですが一夏兄様、このような便利なものが普及すると、人は駄目になると思いますが」

 

「そうだな。既にダメ人間――もとい、駄目ウサギが一羽完成してるわけだし」

 

『ダメ人間って酷くないかな~?』

 

「言われたくないのなら、さっきのデータの件をじっくり聞かせてもらおうか? また盗撮してたんだろ」

 

『いっくんを見てないと死んじゃう生き物なんだよ、束さんは!』

 

「開き直るな! というか、それならさっさと死んでしまえ」

 

『いっくんはツンデレなんだから~。いっくんだって、束さんを見ないと心配でしょ?』

 

「……そうだな。何処で悪さをしでかすか分かったもんじゃないもんな、お前は。後始末をしなきゃいけない俺の身にもなってもらいたいものだ」

 

『まだ怒ってるの~? 高校の時のあれは、いっくんだって同罪だったじゃないか~』

 

「俺はお前に付き合わされただけだ。そもそも、あんなことをするなんて聞いてなかったんだが?」

 

 

 聞いていれば止めたと、言外に告げる一夏に、束は何も言わずに通信を切った。完全に旗色が悪くなったと感じ取ったからだろう。

 

「まったく……」

 

「苦労なさっているのですね、一夏兄様は……」

 

「まぁ、束だけが原因じゃないけどな……」

 

 

 力なく項垂れる一夏を見て、つい最近まで自分も悩みの種だったマドカとしては、居心地の悪さを感じ得ないのだった。




残りは千冬とその他……

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