パーティーが終わり部屋に戻ってきた千冬と箒は、久しぶりに疲労感を覚えていた。
「あれほど騒いだのは、鈴の転校パーティー以来だな」
「鈴か……てっきりIS学園に通うものだと思っていたがな」
「何かあったのかもしれん。ISを諦めたのか、アイツの事だから政府重役と揉めて手続きが遅れたとか」
「ありえそうだな」
小学五年から中学二年の途中まで一緒に騒いで遊んでいた友人を思い出し、二人は同時に笑い出す。
「鈴といえば、弾と数馬が散々小突かれていたな」
「仕方ないとはいえ、鈴が気にしている事を指摘して笑っていたからな」
「少しは成長したんだろうか」
「どうだろうな。アイツは成長に必要なエネルギー分も騒ぎ暴れるタイプだから」
「違いない」
鈴の身体の一部分を思い浮かべ、成長した姿が想像出来なかった二人は、再び同時に噴き出した。
「アイツが大きくなっているなんてことはないだろうな」
「だがまぁ、幸いにして直接会う事は無さそうだし、その事で怒鳴られることも無いだろ」
「主に怒鳴られていたのは弾と数馬だけどな」
「そういえば、その二人は無事に高校生活を送っているのだろうか」
「ギリギリ合格したわけだし、送ってるんじゃないのか? 授業について行けているかどうかは別問題だが」
「それは私たちも同じだがな」
ISに関しての知識が圧倒的に不足している二人は、一夏に出された課題をクリアして漸く授業について行けているので、その点では男友達二人の事を笑えない。
「私たち五人、赤点すれすれだったしな」
「弾や数馬よりかはマシだがな……平均点に届かなかったのは確かだが」
「もし普通の高校に通っていたら、私たちも弾や数馬のような苦労をしたんだろうな」
友人が苦労していると決めつけている千冬だが、箒もその事に対してツッコミを入れないので、恐らくは苦労していると思っているのだろう。
「そう言えばさっきのインタビューだが」
「何か問題があったのか?」
「いや……そういうわけじゃないんだが」
「何か気になっているのか」
千冬の煮え切らない態度を見て、箒は何か気になることがあるのかと千冬の言葉を待つ。下手に急かして分からなくなるのが一番困るので、こういう時彼女は非常に気が長くなるのだ。
「あの先輩『一夏兄に許可をもらった』って言ってたよな?」
「あぁ、言っていた」
「一夏兄はマスメディア嫌いだろ?」
「散々な事を言ったり書いたりしていたからな。私もそんなに好きではないが」
「その一夏兄が簡単にインタビューの許可なんて出すだろうか?」
「そう言われれば……」
その事に引っ掛かりを覚えた千冬と箒は、何故一夏が薫子に取材の許可を出したのかを考え始める。
「あの記事で商売するわけじゃないから、とかか?」
「そんなことなら、最初から許可を求めたりしないだろ」
「そうだな……」
「そう言えば、あの場に一夏兄はおろか山田先生もいなかったよな? 騒ぎ過ぎないように監督するものじゃないのか?」
「新入生とはいえ我々も高校生だ。そこまで信用されていないわけじゃないというだけじゃないのか?」
「そんな気楽に考えられるなんて、さすがはア箒だな。一夏兄が私たちの事をそれほど評価していると思ってるのか?」
自分で言っていて非常に情けないことではあるが、千冬は一夏がそこまで自分たちを高く評価しているとは思っていない。それは箒も同じのようで、千冬の言葉に反論しようとして言葉が見つからなかった。
「何か裏があったのかもしれないが、とりあえず無事に終わったわけだし、今はそれで良いんじゃないか?」
「気になって眠れないかもしれないだろ」
「お前がそんな繊細だったとは知らなかったな。誘拐された当日も、当たり前のように寝てたんだろ?」
「あれはいろいろと疲れたからだ! それと、安心したら急に眠くなってきてだな……」
「なら、今回も大丈夫だろ。一夏さんが私たちに迷惑が掛かることを許すとは思えん。姉さんが暴走しそうだった時もそうだっただろ?」
「それはそうだが……」
束がISの存在を世界に知らしめようとした際にも、行き過ぎた計画を一夏が事前に潰したのだ。そのお陰で普通のお披露目となったのだが、もしあの計画が実行されていたら、自分たちはあれほど平和な日常を送っては来れなかったと、二人は知っているのだ。
「とにかく、明日一夏さんに聞けば分かることなんだし、必要以上に悩むことはないんじゃないか? 教えてくれるかどうかは分からないが」
「そうだな……安心したら疲れてきた。私はもう寝る」
「着替えなくて良いのか?」
「そうだな……着替えないと一夏兄に怒られるな……」
半分以上寝ている千冬だったが、しっかりと寝間着に着替え、ベッドに潜り込んで眠った。そんな千冬を見て、箒は苦笑いを浮かべながら自分も寝間着に着替え、ベッドに潜り込み寝ることにしたのだった。
ア箒がだんだんと真価を発揮してきたな……