IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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まぁ、妥当といえば妥当だが……


簪の中の評価

 何事も無かったかのように一日を過ごした簪は、本音を誘ってアリーナに来ていた。

 

「今日は何するの?」

 

「この間京都で見た敵の動き、あれを真似出来ないかなって思って」

 

「かんちゃんにはあんな動き必要無いと思うけどな……わざわざ敵を正面に見据えて攻撃するよりも、敵の視界から抜け出して攻撃する方がかんちゃんに合ってると思うし」

 

「私もそう思うけど、戦い方に幅があった方が、後々有利かなって思ってさ」

 

「うーん……かんちゃんがやりたいなら付き合うけど、下手に幅を増やそうとして、どれもこれも中途半端になりそうな気もするんだよね」

 

 

 本音の指摘に、簪も思い当たる節があるようで、苦笑いを浮かべながら頷いた。

 

「本音が言いたい事は私にも分かるし、お姉ちゃんや織斑先生のように、何かを一つ極めた方が強いっていうのも分かる。でも、私は一つを極めるのすら難しいし、それだったら戦術の幅を増やして相手に警戒させて実力を発揮させないようにした方が良いのかなってね……」

 

「織斑せんせ~は、いろいろな戦術を使えるらしいけど、イメージは完全に正面から一刀両断だよね~」

 

「織斑先生が遠距離武器を使ってるイメージはないよね」

 

 

 一夏は近距離戦闘でも遠距離戦闘でも世界を制する事が出来る程度には武器を扱えるのだが、第二回モンド・グロッソ決勝でのイメージが強すぎるのか、一夏=近接戦闘のイメージが定着してしまっているのだ。本人としては不本意でしかないのだろうが、一夏に憧れる少女たちの殆どが、近接戦闘を希望するのだった。

 

「おりむ~は遠距離武器を使ってるけど、本当は近接戦が得意だって言ってるけどね」

 

「まぁ箒も近接戦だし、あの二人が一緒に戦うのを見たいって理由で専用機を造ったって聞いたよ?」

 

「誰から~?」

 

「千冬と箒が話してるのを偶々」

 

「篠ノ之博士の考えが分からないから何とも言えないけど、両方近接じゃ駄目だったのかな~? あの二人なら、斬撃を飛ばしたり出来るから遠距離攻撃にも使えただろうし」

 

「二人が言うには、成功率が低すぎるから使えないってさ」

 

「そうらしいね~。でも、普通の人間なら斬撃を飛ばすなんて出来ないんだから、成功率があるだけでも十分だと思うんだけどな~」

 

「あの二人の戦闘における基準は織斑先生や篠ノ之博士だからね……」

 

 

 斬撃を飛ばすだけでも十分人外なのだが、それを百パーセント成功させる相手が基準では、二人が謙遜してしまうのも仕方がないだろう。

 

「というか、かんちゃんのこの練習も、基準が高過ぎるから故だよね~。かんちゃんだって、十分国家代表としてやっていける実力があるのに、楯無様を基準にしてるから実力を発揮出来ないんだよ」

 

「そうなのかな……」

 

「そうだって」

 

「……そういって、この練習をサボりたいだけじゃないの?」

 

 

 普段の本音の行動を鑑みると、どうしても素直に受け入れられない簪は、疑いの目を本音に向ける。簪から疑いの目を向けられた本音は、心外だと言いたげな表情で答える。

 

「確かに私はサボり癖があるけど、かんちゃんの実力に関しては本気でそう思ってるんだよ~。おね~ちゃんや楯無様だって、きっと私と同じ評価だと思うし」

 

「お姉ちゃんはあんまりあてにならないけど、虚さんも同じなら信じられるかも」

 

「かんちゃんの中の楯無様って、いったいどうなってるの?」

 

 

 あれでも現役の国家代表で、次のモンド・グロッソの優勝候補筆頭なのだが、簪の中では楯無の評価は虚以下のようで、さすがの本音も本気で苦笑いを浮かべた。

 

「だってあのお姉ちゃんだよ? 虚さんの方が信用出来るに決まってるじゃん」

 

「う~ん……楯無様はかんちゃんが絡まなければ割と凄い人だと思うんだけどな……」

 

「虚さんや織斑先生に泣きついて仕事を手伝ってもらってる時点で、尊敬は出来ないよ」

 

「あの仕事量なら、手伝ってもらっても仕方ないと思うよ? というか、何でもかんでも自分でやれちゃったら、おね~ちゃんの立場が無くなっちゃうと思うんだけどな~」

 

「虚さんの立場?」

 

「ご当主様のお側付きとして、いろいろと進言したり苦言を呈したり。今のところおね~ちゃん以外にそんな事が出来る部下はいないわけだし、おね~ちゃんとしても文句は言うけど楯無様の事は認めてると思うよ~」

 

「部下も何も、家の人の殆どがお姉ちゃんを裏切って更識からいなくなっちゃったじゃん」

 

「それは楯無様の所為じゃないと思うけどな。犯罪組織に身を落としたのは、その人に隙があったからで、楯無様のカリスマとか、そういうのは関係ないって」

 

「……というか、何でこんな話になってるの?」

 

「かんちゃんが楯無様を信用してないっていうからでしょ~」

 

 

 自分から始めておいてそんな事を言った簪に、本音は割と本気でツッコミを入れたのだった。




本音が珍しく真面目だったな……

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