IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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成長しない人が……


何度目か分からない遣り取り

 トイレに行くために起きた千冬は、一瞬学園に一夏の気配が無いと思ったが、次の瞬間には一夏の気配を感じたので、気のせいだと思い込んでベッドに倒れ込んだ。

 

「(こんな時間に一夏兄がどこかに出かけるなどありえないしな……)」

 

 

 自分の勘違いだと信じ込むため、千冬はもう一度一夏の気配を探ったが、今度は何処にも感じる事が出来なかった。

 

「(何故だ? 一夏兄が気配を殺しているのか……? いや、こんな時間に気配を殺す理由がない……そうすると何処かに出かけたという事になるのだが、いったい何処に……)」

 

 

 考えている内に眠くなってしまったのか、千冬はそのまま眠りに落ちてしまった。

 

「……はっ!?」

 

 

 目を覚ますと、既に箒が起きていたようで、声を上げて目を覚ました千冬に驚いた視線を向けていた。

 

「随分とうなされていたようだが、何かあったのか?」

 

「一夏兄はっ!?」

 

「一夏さん? 一夏さんなら部屋にいるんじゃないのか?」

 

「部屋にっ!?」

 

 

 慌てて起き上がり気配を確認している千冬を見て、箒は何事かと首を傾げる。普段から一夏の気配には敏いはずの千冬が、ここまで一夏の所在を気にするのは、付き合いが長い箒でも数えるくらいしか見たことが無かったのだ。

 

「いる……じゃあ、私の勘違いだったのか?」

 

「だからどうしたんだ? この時間なら、一夏さんは見回りをしているか部屋にいるかのどっちかだろ」

 

「いや……夜明け前にトイレに起きたんだが、その時一夏兄の気配がなかったような気がしてな……」

 

「そうなのか? 単純に寝ぼけてたとかじゃなくて?」

 

「私もそう思って確認しようとしたら寝てしまってな……気づいたらこんな時間だったというわけだ」

 

 

 こんな時間と言っても、今は朝の五時を少し回ったくらいの時間で、普通の高校生ならまだ寝ているはずの時間だ。だが千冬や箒からしてみれば普通に起きている時間で、むしろ少し寝坊したと言っても過言ではない時間なのだ。

 

「気になるなら後で一夏さんに直接聞けばいいだろ。何処かに出かけてたのか、それともお前の勘違いだったのかは、それではっきりするだろ」

 

「聞けるなら聞くが、私の勘違いだった場合、一夏兄に変な目で見られるかもしれないだろ?」

 

「それなら割と何時も通りだから、気にする必要は無いんじゃないか?」

 

「どういう意味だ!」

 

「お前が一夏さんに対して変な行動を取るのは日常茶飯事だという事だ。そもそも、一夏さんが絡むとお前は何時も以上に変な行動が多いからな」

 

「そんな事はないだろ? 一夏兄に対してそんなに変な行動を取った覚えは……」

 

 

 少し考えただけでもかなりの回数思い当たる節が出てきた千冬は、冷や汗を掻き始めた。

 

「もしかして、私は一夏兄に変な妹だと思われているんじゃないだろうか……」

 

「いや、もしかしなくても変な妹だと思われてるだろ、普通なら……というか、今の今まで気づいていなかったのか? 普通の妹なら、実の兄に興奮したり、少し話しただけで相手の女性に威嚇などしないだろ」

 

「そうなのか? お前だって、一夏兄が他の女と話してたら気分が悪いだろ? 相手を消し去りたいと思うだろ?」

 

「そこまでは思わない。だがまぁ、親しそうにしているのを見ると、どういう関係なのだろうかと気になることはあるかもしれないが」

 

「お前の気持ちはその程度という事か。私や束さんは、一夏兄の為を思ってだな――」

 

「それが迷惑だと何で分からないんだ? 一夏さんなら自分でどうとでも出来るだろうが」

 

 

 千冬の言葉を遮って箒が告げると、千冬はそれでも認められないのか何とか反論しようと考え込む。

 

「一夏さんが親しそうに話してる相手に、別段変な相手はいなかったと思うぞ? ナターシャさんや小鳥遊さんといった、立派な大人だったり、生徒会長や本音のお姉さんとだって、怪しい雰囲気ではなかったのはお前だってみてるだろ?」

 

「だが全員少なからず、一夏兄に邪な想いを懐いているに違いない! その想いを実行に移す前に、私と束さんでそいつらを消すしか――」

 

「お前や姉さんの方がよっぽど邪だろ。そもそも、一夏さんが未だに誰とも付き合ったことが無いのは、お前たちが原因なんじゃないのか? お前や姉さんは、一夏さんを一生独身でいさせるつもりなのか?」

 

「そんなつもりは無いが……私や束さんが認めた相手じゃないと……」

 

「お前たちが認めるような相手が、いるとは思えないが? 何かにつけて難癖をつけるだろうし」

 

「じゃあどうすればいいんだ!」

 

「普通に見守ればいいだろ。一夏さんだって立派な大人なんだ。お前たちが気に掛けなくても自分で何とか出来るだろ?」

 

「そうは言われてもな……」

 

「というか、何度も言ってきたはずだが?」

 

 

 箒の言う通り、このやり取りは既に何度目か分からないくらい行われている。それでもなお一夏の事を変態的な目で見てしまうのは、千冬がそれだけ一夏の事を想っているという事なのだろうと、箒も一応は理解している。だがいくら何でもやりすぎだと、言わずにはいられないのだった。




千冬は駄目だなぁ……

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