IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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これはブラコンなのか……?


会いたかった相手

 一瞬のうちに見知らぬ場所に辿り着き、マドカは内心かなり混乱していた。だが、唯一彼女を安心させることが出来るであろう相手の声を聴き、マドカは胸が締め付けられる想いを覚えた。

 

「ほらね~。だからクーちゃんに任せておけば大丈夫って言ったんだよ~」

 

「お前の『大丈夫』は当てにならない事が多かったからな。クロエを疑っていたわけではない」

 

「またまた~」

 

「お、お兄ちゃん……」

 

 

 顔を見なくても分かる相手に、マドカはその場で泣き崩れた。

 

「あー、いっくんが妹を泣かしてる~」

 

「なら、お前も泣かせてやろうか?」

 

「ご遠慮しま~す!」

 

「どうしてここに……」

 

 

 クロエは束の遣いとして自分の前に現れたと思っていたので、転送先に一夏がいたのは完全に予想外だったので、マドカは混乱と感動が綯い交ぜになった感情で一夏に問いかける。

 

「マーちゃんの事は束さんが監視してたからね~。あの女がマーちゃんをハメて始末しようとしてたことをいっくんに報告して、抜け出した時は束さんがマーちゃんを保護する事に決めたんだよ~。ただ、いっくんは束さんの事を信用してなかったから、こうしてマーちゃんの姿を確認するためにここに来てもらったわけだよ~」

 

「監視してたって……どうやって?」

 

「ふっふ~ん! 束さんはいっくん曰く『宇宙規模のストーカー』だからね~。人一人を監視するくらい朝飯前なんだよ~。あっ、いっくんの美味しい朝ごはんが食べたいな~」

 

「お前を朝食にしてやろうか? ウサギの肉は美味いらしいからな」

 

「い、いっくん? 束さんはウサギさんじゃなくて人間だからね?」

 

 

 冗談なのか本気のか分からない一夏の雰囲気に、束だけでなくクロエとマドカも数歩一夏から距離を取った。

 

「冗談はさておき、マドカの無事も確認したし、俺はそろそろ戻る。後はお前の領分だろ」

 

「マーちゃんの脳を確認すればいいだけだしね~。あっ、その時についでにちょーっと弄って束さんの事を大好きなように――」

 

「ん?」

 

「なんでもないでーす」

 

 

 一夏が視線を向けただけで、束は大人しくなる。二人の関係性を把握したマドカは、何かされそうになったら後で一夏に言って制裁してもらうと脅せば、身の安全を確保出来ると考えたのだった。

 

「冗談はこのくらいにして、いっくん、マーちゃんの為にも、朝ごはんを作ってくれないかい? クーちゃんだって、いっくんの料理、食べたいよね?」

 

「出来る事なら、頂きたいと思っております」

 

「……束に作ると考えると面倒だが、妹と娘のような相手から頼まれると断り辛いな」

 

「おっ? クーちゃんがいっくんの娘なら、束さんといっくんは夫婦だね~」

 

「そんな冗談を考えつくのはこの頭か? ん?」

 

「いっくん!? 割れる! 割れちゃうから!!」

 

「うわぁ……」

 

 

 人を片手で――正確には握力だけで宙に浮かせる一夏を見て、マドカは「とんでもない人を敵に回すところだった」と心の中で呟いたのだった。

 

「マドカの事は束に任せて、クロエ」

 

「は、はい!」

 

「丁度いい機会だから、この間の続きをするか」

 

「よろしいのですか?」

 

「続きって……お兄ちゃん、この人に何したの?」

 

 

 邪な考えが過ったからか、マドカの一夏を見る視線には若干非難めいたものが見える。それを正確に理解したからか、一夏は苦笑い気味に答えた。

 

「何って、料理の指導だ。クロエはそれ程家事が得意なわけじゃないから、俺が時間を見つけて指導してるわけだ」

 

「なるほど……」

 

「マーちゃんはちーちゃんと同じで、いっくんが絡むと正常な思考が働かないんだね~」

 

「なっ!? 千冬と同じにしないでください! 私は、あそこまで考えなしじゃない!」

 

「それはどうかな~? まぁ、マーちゃんの事は束さんに任せて、いっくんは愛娘との料理を楽しんでね~」

 

 

 マドカを一瞬で黙らせて、束は装置がある部屋までマドカを運んでいった。それを見送ってから、一夏は隣で真っ赤になっているクロエに身体ごと向き直った。

 

「大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です……ご心配をおかけして、申し訳ございません」

 

「今のはどう考えても束の冗談が悪いから、クロエがそこまで気に病む必要は無い」

 

「はい……」

 

 

 一夏の慰めに一応答えはしたが、クロエは俯いたままだ。そんなクロエを見て、一夏はため息を吐いてから少し乱暴にクロエの頭を撫でた。

 

「な、何を……」

 

「お前が自分に自信を持てないのは知っているが、何でもかんでも自分が悪いと考えるのは良くないな。だいたいここで起こる大半は束が悪いんだから、お前がそこまで責任を感じる必要なんて無いんだ」

 

「ですが……」

 

「何なら、束が悪いってはっきり指摘してやった方が、案外アイツも嬉しいんじゃないか?」

 

「それは……」

 

「漸く顔を上げたな。俯いたままじゃ料理なんて出来ないからな。今はとりあえず余計な事は考えずに、料理に集中しろ」

 

「は、はい」

 

 

 一夏に慰められ、クロエはとりあえず料理に意識を向けるようになったのだった。




マドカもクロエも一夏に夢中と……

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