IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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すぐに居場所がバレてる……


脱走後のマドカ

 亡国機業のアジトから抜け出したマドカは、とりあえず拠点を決めるべくISを使わずに移動していた。

 

「抜け出したのは良かったけど、土地勘なんてあるわけないんだよな……さて、何処を拠点にすれば、アイツらに見つからずかつ千冬を仕留めやすくなるか……」

 

 

 IS学園の側に拠点を置く事は決めているが、何処を使うかまでは決めていなかった。

 

「とりあえずはPCがある場所の方が良いよな……確か、漫画喫茶とかいうのがあるから、当面はそこを転々とするしか――誰だ!」

 

 

 突如背後に現れた気配に、マドカは急いで臨戦態勢を取る。亡国機業の中では下っ端の方とはいえ、マドカは世間に出れば十分な実力者だ。まさか自分がここまで近づかれるまで気配に気づけなかったことを反省し、相手の姿を確認した。

 

「驚かせて申し訳ございません、織斑マドカ様。私は、篠ノ之束様の身の回りの世話を任されております、クロエ・クロニクルと申します」

 

「襲撃の時に邪魔してきたやつか」

 

「その節は申し訳ありませんでした。ですが、あの時の私の最優先事項は、千冬様と箒様の身の安全を確保する事でしたので、僭越ながらマドカ様の邪魔をさせていただきました」

 

「……それで、今日は何の用で私に接触してきた」

 

 

 刺々しい態度で接しても、クロエの態度は一向に変わらない。それがどことなくやりにくいと感じながらも、マドカはクロエの答えを待った。

 

「マドカ様に生活の拠点を提供したいと」

 

「誰? そんなもの好きは」

 

「我が主、篠ノ之束様にございます」

 

「……何で篠ノ之束が私に? 私は篠ノ之束のお気に入りの一人である織斑千冬を殺そうとしてるんだけど?」

 

「ご無礼を承知で申し上げますが、マドカ様では千冬様を手に掛ける事は出来ないでしょう。実力はマドカ様の方が格段に上でしょうが、千冬様の側には一夏様がいらっしゃいます。さすがのマドカ様でも、一夏様には敵わないでしょう」

 

「私は、お兄ちゃんを取り戻す為に千冬を殺すだけだ! お兄ちゃんと対立したいわけじゃない」

 

 

 マドカの答えに、クロエは小さく頷いてから淡々と続きを話す。

 

「貴女様が千冬様を除外したい理由は分かっております。ですが、血の繋がった姉を手に掛けて、果たしてその先に平和がございますでしょうか? 千冬様を排除して、一夏様がマドカ様に愛情を向けてくださるでしょうか?」

 

「それは……」

 

「我が主である束様が、マドカ様に生活拠点を提供する理由は、貴女様が何者かのマインドコントロールを受けているのではないかと疑っているからでございます」

 

「マインドコントロール?」

 

「マドカ様は純粋に、一夏様と一緒に生活したいと願っているだけのようです。それなら別に、千冬様を除外する必要は無いと思うのですが、何故排除しようと考えたのでしょうか?」

 

「………」

 

 

 クロエの質問に、マドカは答える事が出来なかった。自分でもいつの間にか「千冬を殺す」と意気込んでいたと自覚しているのだが、ではそれは何が原因だったかと問われると、その答えを持ち合わせていなかったのだ。

 

「これはあくまで推測ですが、マドカ様は亡国機業のリーダーである御母上様――織斑千秋様に洗脳されたのではないでしょうか? こちらで調べた限りですが、あの方は自分の愛した相手を殺し、愛した相手に殺されたいと願っているようですので」

 

「あの女が、私たちを愛していたと?」

 

「それは分かりません。私には母親の愛など知りようがありませんので」

 

 

 クロエの事情をある程度知っているマドカは、何も言う事が出来なかった。これが千冬だったら無神経に問い返したのかもしれないが、マドカは事情を中途半端に知っているが故に自重出来たのだった。

 

「それで、束様からの提案、受け入れてくださいますでしょうか?」

 

「私がマインドコントロールを受けていたとして、それが篠ノ之束にどう関係するの?」

 

「マインドコントロールさえ解除出来れば、マドカ様を一夏様のお側で生活させるくらいは出来るでしょう。そうすれば、束様としても万々歳な結果になると思われます」

 

「私は千冬を殺そうとしたんだよ? 一夏お兄ちゃんが許してくれたとしても、千冬が納得するとは思えない。今の私みたいに、相手を目の敵にするに決まってる」

 

「その辺りもご安心を。一夏様と束様が『しっかりと』千冬様に事情を話す事になっておりますので」

 

 

 しっかりとに力を込めたのが分かったのか、マドカはどことなく寒気を覚えた。一夏の実力はもちろんの事、束がいろいろと常識の範囲外にいる事も知っているので、具体的な事は何も聞かない方が身の安全を守れると考え、下手に追及する事はしなかった。

 

「じゃあとりあえず、案内して」

 

「かしこまりました。では、もう一歩私に近づいてくださいますか?」

 

 

 クロエの意図が分からず首を傾げながらも一歩前に足を踏み出すと、次の瞬間には別の場所に移動していたのだった。




束も大人しくしてれば優秀な科学者なのに……

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