IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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さすがにおかしいと思うマドカ


マドカの脱出

 教えられた時刻を過ぎ、マドカはゆっくりと部屋を抜け出し、昼に確認したルートでアジトを抜け出そうと動き出した。だがルートを途中まで過ぎた辺りで、マドカは何故か不気味さを感じていた。

 

「いくら会議があるとはいえ、ここまで人の気配がないのはおかしすぎる……」

 

 

 会議というからにはそれなりに地位のある人間が参加するのだろうとマドカは思っているので、下っ端連中までいなくなるのはいくらなんでもおかしいと気付く。そして、一つの考えにたどり着く。

 

「もしかして、あの女に嵌められた? 単独行動をした私を罰するために、あんな嘘を」

 

 

 そこまで考えて、マドカは慌てて首を横に振る。いくら自分たちが認めなくても、母と娘なのだ。愛情などなくとも最後の一線はそう簡単に踏み越えないだろうと、マドカは心のどこかでそう思っていた。

 

「遅かったな、M」

 

「オータム……そういう事か」

 

「お前にはいくつか聞きたい事があるんだ。大人しく質問に答えてもらおうか」

 

「断る、って言ったら?」

 

「その時がお前の最期だ」

 

「……なに?」

 

 

 オータムの背後にスコールが控えているのに気づいたマドカは、とりあえず警戒レベルを下げて問いかける。大人しくマドカが質問に答えてくれるとは思って無かったオータムは肩透かしを食らった気分になっていたが、スコールはそんなオータムを気にせずにマドカに問いかけた。

 

「この脱走劇は貴女個人で思いついたのかしら?」

 

「何が言いたいわけ?」

 

「不自然なのよね。今まで不貞腐れながらも亡国機業の一員として動いていた貴女が、このタイミングで抜け出すなんて」

 

「最初から馴れ合うつもりなんて無かったけど」

 

「それからもう一つ。貴女が亡国機業の資金をくすねられるとは到底思えないのよね。戦闘の才能なら兎も角、それ以外の才能は平均以下の貴女が」

 

「私の事をバカにしに来たわけ? だったらもう答えるつもりは無い」

 

「逃げるなら、オレがお前を殺すだけだ。大人しくスコールの質問に答えな」

 

「チッ」

 

 

 オータムから向けられる殺気に舌打ちしながら、マドカはつまらなそうに質問に答えた。

 

「あの女が、今日の午後十時以降は会議で人がいなくなるから、抜け出すならその時にしろって言ってきたんだ。当面の資金も渡すと、この金をくれた」

 

「やっぱりね……」

 

「スコール、どうするんだ?」

 

 

 オータムとしては、今すぐにでもマドカを仕留めたい気持ちでいっぱいなのだが、スコールはどうやら違う考えをしているようだと空気で感じ、オータムはスコールに判断を任せた。

 

「……行きなさい」

 

「良いのかよ?」

 

「ここでMを仕留めてもあの女の掌の上で踊るだけよ。だったら、Mを逃がしてあの女の計画を少しでも狂わせられた方が楽しいじゃない? どうせ行く当てなんて限られてるんだし、私たちが危なくなったらMを探し出して始末すればいいだけよ」

 

「そうだな……おら、さっさといけよ。無様に『お兄ちゃん』に助けを求めれば良いだろ」

 

「お前がお兄ちゃんというな! というか、私は千冬を殺しに行くだけであって、お兄ちゃんのところに行くわけじゃない!」

 

「一緒でしょ。織斑一夏が生活してるのも、織斑千冬がいる場所も」

 

 

 スコールにそういわれ、マドカはつまらなそうにそっぽを向いた。何をするにもとにかく、最終的に目指す場所はIS学園だと知られているのは、マドカにとっては面白い事ではないのだった。

 

「言っておくけど、これは貸しよ? 万が一私たちの立場が危なくなった場合、この貸しはすぐに返してもらうけど」

 

「やれるものならやってみろ。それじゃあ、私はもう行くからな」

 

 

 オータムの横をすり抜け、マドカはアジトから抜け出していく。その後姿を素直に見逃したものの、これで良かったのかと視線で尋ねてくるオータムに、スコールは肩を竦めて答えた。

 

「良いか悪いかは、あの子次第で変わるでしょうね。あの女の思惑通りなら、Mは織斑千冬を殺しに行くわけだし、ここで捕まえても、結局Mが殺されるだけで、あの女の目的が一つ叶う事には変わりないのだからね」

 

「じゃあ、やっぱりこの手で始末した方がすっきりしたじゃねぇかよ」

 

「もし、Mが違う選択をすれば、あの女の鼻を明かす事になるかもしれないでしょ? 私たちが目指すものと、あの女がしたい事は違うんだから、言いなりになるのもつまらないでしょ? だから、違う可能性を信じてMを逃がしたのよ」

 

「違う可能性って何だよ?」

 

 

 全く考える素振りも見せず聞いてきたオータムに、スコールは苦笑いを浮かべながら答えた。

 

「一夏、千冬と共に、あの女を片付けてくれるかもしれないって言う、淡い願いよ。あの女さえいなくなれば、私たちが目指す亡国機業に近づけるだろうしね」

 

「限りなくゼロに近い可能性に懸けるなんて、お前らしくないなスコール」

 

「あら? 確率は低い程叶った時嬉しいものよ」

 

 

 本気では言って無さそうな雰囲気ではあったが、オータムはそれ以上スコールに質問はしなかった。




行き先バレてますからね……

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