IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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意外と考えているんです


スコールの考え

 スコールの部屋にやってきたオータムは、何時もならうきうきとした表情を浮かべているのだが、今は真面目な表情を浮かべている。

 

「それで、何が気になるんだ?」

 

「脱走者とタイミングが」

 

「Mのヤツが抜け出そうとするなら、別におかしくないんじゃないか? アイツ、元々オレたちと馴染むつもりは無かったようだし、アイツの目的は姉である織斑千冬を消す事だろ? オレたちと行動を共にしてるより、一人で動いた方がやりやすいって思っても不思議では無いと思うんだが」

 

「そうね……そう考えてもおかしくはない。だから気になるのよ」

 

「何がだよ?」

 

 

 スコールの考えている事が分からず、オータムは寂しそうな表情で問いかける。オータムとして、スコールがここまで頭を悩ませている姿を見たくないのと、彼女の考えが分からないもどかしさから、どういう顔をして良いのか分からないという感じだった。

 

「もし脱走を企てたのが、前の作戦失敗の直後ならまだいいのよ。だけどもう三日も経ってる。今まで大人しくしてたMが、今日になって脱走を企てるとは考えられないのよ」

 

「資金を盗んだり、脱走ルートを確認したりしてたから、三日も経ったんじゃないのか? それに、三日ならまだ直後と言っても差し支えない日数だと思うけど」

 

「そうね。だから引っ掛かるのよ」

 

「引っ掛かる? 何にだよ」

 

「貴女、あの女の最終目的は聞いてるかしら?」

 

「あの女って……一夏って男を手に入れる事じゃねぇのか?」

 

「それだと半分正解って感じかしらね。あの女の目的は、息子である一夏に自分を殺させる事。その為に邪魔となる娘二人、千冬とマドカを殺す事よ」

 

「おいおい……」

 

 

 オータムも漸く不自然さに気付いたようで、今回の脱走計画が仕組まれたものではないかという考えに至った。

 

「M一人で亡国機業の資金をくすねるなんて、そんな芸当が出来るとは思えないもの。あの子、戦闘に関しては比類なき才能を持っているけど、それ以外は平均以下。帳簿を誤魔化すなんて出来るはずがないわ」

 

「協力者がいるって事か?」

 

「えぇ。そして、その可能性が最も高いのがあの女――織斑千秋よ」

 

「でもよ、そんなことしてアイツになんのメリットがあるんだ?」

 

「言ったでしょ、あの女の目的は自分を一夏に殺させる事と、千冬とマドカを殺す事だって。別に自分の手で殺す必要は無いんだから、私か貴女に始末させようと考えても不思議ではないでしょ?」

 

「そういう事か……胸糞悪い」

 

 

 自分が利用されていたと分かり、オータムは千秋の部屋に行く前と同じ表情に戻る。さっきまで裏切者を始末出来ると楽しそうにしていたのだが、恋人の考えを否定するだけの材料が無かったのと、考えれば確かにおかしいという事で今のオータムの頭の中は、千秋に利用されかけたという苛立ちが大半を占めているのだ。

 

「まぁ、私の考え過ぎかもしれないけど、M本人に問い詰める必要があるのは確かね。だから、いきなり殺そうとはしないように」

 

「アイツの言う事に従うって言うのか? 自分で唆しておいて始末させようとしたやつだぞ。従う必要はねぇだろうが」

 

「そうね。だから、Mに真実を聞くのよ。自分一人で計画したのか、誰かに唆されたのかを」

 

「素直に答えるとは思えねぇし、Mが嘘を吐く可能性だってあるだろ?」

 

「その辺は私たちの人を見る目に掛かってるというわけよ。Mを信じるのか、織斑千秋を信じるのか」

 

「どっちも信じられねぇがな……オレは、スコールが信じた方を信じる、それだけだ」

 

「少しは自分の頭で考えた方が良いとは思うけど……まぁ、今回はそれで良いのかもしれないわよ。それじゃあ、Mが動き出すまでさっきの続きをしましょうか」

 

「お、おい……任務の前だぜ? こっちに集中し過ぎて任務をすっぽかしたとか言われたくねぇし、もしMが本当に裏切ってたなら、容赦なく仕留めたいから今は……」

 

「そうね。貴女がそのつもりなら、私は別に構わないのよ? その火照った身体を持て余さないのなら、私はこのまま待機でもね」

 

「……スコール、最近意地悪だな」

 

 

 自分の身体が火照っているのは、隠せてると思ってたのだろう。オータムは頬を膨らましてスコールから視線を逸らした。その仕草が可愛かったのか、スコールは慈愛の目をオータムに向け、すぐに監視モニターに視線を戻した。

 

「確かに怪しい動きはしてるけど、この動きの前にMの部屋にあの女が行ってるのよね……音声までは無いけど、気になるわ」

 

「カメラの角度を気にしたような話し方をしてるから、読唇術も使えねぇしな……何かを渡してるようにも見えるが、何を渡したのかまでは見えねぇし……」

 

「ともかく、答えはMを捕まえれば分かる事だし、仕組まれたものだとしたら、そのままMを脱走させるのも面白そうだし」

 

「そうだな。とにかく、全てはあのMの反応次第って事か」

 

 

 スコールにつられて楽しくなってきたオータムは、早くマドカが動かないかとワクワクしていたのだった。




オータムは相変わらずの脳筋……

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