IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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親もなかなかクレイジー……


歪んだ愛

 アジトで次の作戦を練っていた千秋だが、日本方向から飛んできた殺気に思わず視線をそちらに向ける。

 

「どうかしたのかしら?」

 

「……何でもないわ」

 

 

 千秋の行動に首を傾げ尋ねてきたスコールにそう答えて、千秋は頭を振って集中し直す。

 

「まさかあの歩兵部隊が一夏一人に撃退されるとはね……勝てないにしてももう少し役に立つと思ってたのに」

 

「仕方ないわよ。一夏の専用機は篠ノ之束が彼のためだけにカスタマイズした、他のISとは比べ物にならないくらいの性能だもの。生身や銃火器でどうにか出来るはずも無いもの」

 

「自分で捨てておきながら、随分と一夏の事に詳しいのね」

 

「そりゃ、私を殺してくれる子だもの。それなりに調べるわよ」

 

「次女に長女を殺させ、長男に次女と自分を殺させようとするなんて、狂ってるとしか言えないわね」

 

「私はね、愛した者を殺し、殺されたいのよ。だからあの人を殺したの」

 

「姿が見えなくなったと思ってはいたけど、やはり殺してたのね」

 

 

 千秋と一緒にいたはずの男――つまり千秋の夫の姿が見えなくなったのを受けて、スコールはそうではないかと思っていたが、実際に彼女の口から聞かされると、さすがに顔を顰めずにはいられなかった。

 

「あぁ、早く千冬をマドカが殺し、そのマドカを一夏が殺し、私の許にやってきてくれないかしら」

 

「歪んだ愛情って、見るに堪えないわね」

 

「何とでも言いなさい。私は、その日を待ち焦がれて一夏と千冬を残し家を出たのだから」

 

「貴女のそんな理由で、一夏はしなくてもいい苦労をしてきたのよね? 何か思う事は無いの?」

 

 

 スコールの質問に、千秋は少し考えてから答えた。

 

「私に対する殺意を溜め込んでくれてたと思うと、ぞくぞくするわね」

 

「貴女、母親失格ね」

 

「そんなこと、貴女に言われるまでもなく知ってるわよ。息子と長女を捨て、ただ一人連れてきた次女を殺人者に仕立てようとしてるんだから」

 

「でも、そう簡単に思い通りに行くかしらね」

 

「どういう意味かしら?」

 

「私も一夏の事は調べたけど、人の思い通りに動くような子じゃないと思うわよ? 恐らく貴女の目的にも勘付いてるでしょうし、マドカを救い出して貴女だけを捕まえるつもりなんじゃない?」

 

「それじゃあ面白くないわね。いっそのことマドカは私が殺そうかしら」

 

「人を――娘を殺す事に対して何も思わないわけ?」

 

「さっき言ったでしょ。私は愛した相手を殺したいし、殺されたいの。だから、マドカに殺されるのもありだと思ってるわ。私がマドカを殺すか、マドカが私を殺すか」

 

 

 歪み切った表情で笑みを浮かべる千秋に、スコールはさすがに嫌悪感を懐かずにはいられなかった。

 

「死人である私が言うのもなんだけど、貴女、人として最低よ」

 

「そんなこと、貴女に言われるまでもなく分かってるわよ。それじゃあ、次の襲撃はお願いね」

 

「分かったわ。私たちはあくまでも亡国機業に所属している人間――つまり、貴女の手下でしかないのだから」

 

「この計画が終われば、貴女たちの自由にして良いわよ。この計画さえ終われば、私はいなくなるのだから。これで漸くあの人と同じところに行けるのね」

 

 

 

 自分で殺しておいて旦那に思いをはせる千秋を見て、スコールは何も言えなくなってしまった。

 

「おいスコール、あの女と何を話してたんだ?」

 

 

 千秋が部屋を去ってすぐ、オータムが部屋を訪ねてきた。恐らく千秋がいなくなるのを待ち焦がれていたのだろう。かなり食い気味にスコールに質問を投げかける。

 

「次の計画についてちょっとね」

 

「そんな感じじゃ無かったと思うが」

 

「そうね……あの女の歪んだ愛情に辟易してたのよ」

 

「歪んだ愛情? あの女に愛という感情があるのか?」

 

「だから歪んだって言ってるでしょ? あの女は、自分を愛してくれていた相手を殺したらしいわよ」

 

「あっ? ……あぁ、姿が見えなくなったと思ってたが、やっぱり殺してたのか」

 

「それで、娘たちに殺し合いをさせて、残った方を一夏に殺させ、最後に自分を殺させるのがあの女の目的よ」

 

「無理心中のややこしいバージョンみたいだな」

 

「面白い表現をするのね。まぁ、一夏があの女の思い通りに動くとは思えないけど」

 

 

 訳知り顔で呟くスコールを見て、オータムは少しつまらなそうに舌打ちをした。

 

「あの女もだけどよ、スコールも一夏って餓鬼の事を評価してるよな。何か関係があるのか?」

 

「私が一方的に知ってるだけよ。なんで気になるの?」

 

「別に……それで、次の襲撃予定日は何時なんだ?」

 

「Mが落ち着いて、歩兵が集まり次第かしらね。貴女が一人残らず片付けちゃった所為で、少し時間がかかりそうだけど」

 

「使えない奴らは片付けるに決まってるだろ? ただでさえ、出番が無くてむしゃくしゃしてたんだからな」

 

「次は出番があるわよ」

 

 

 オータムを慰めながら、スコールは千秋の部屋の方を見て頭を振るのだった。




親が狂ってるから、千冬もマドカもおかしいのか……

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