更識姉妹のスキンシップを見る気はない一夏は、簪たちが生徒会室に来たのと入れ替わりで生徒会室を去る。
「で、何でお前も一緒に来るんだ?」
「私も刀奈ちゃんのスキンシップを見るつもりは無いもの。それに、あの集まりだと圧倒的に地位が低いのよ、私は」
「布仏もそれなりに地位が高いのか」
「古くから更識に仕えてる家だもの」
碧と一緒に廊下を歩いていると、向こう側からずんずんと近づいてくる人影が一つ、その人影に付き合わされているのが一つ、つまり千冬と箒が近づいてきた。
「一夏兄、その女と近づきすぎ!」
「小鳥遊の事か? 別にこれくらいは普通だろ」
「一夏兄の事を厭らしい目で見てるような女、一夏兄には相応しく――あぎゃっ!?」
「くだらない事言ってないで、さっさと反省文を書いてこい。提出期限は明朝、遅れたら一分につきグラウンド半周だ」
「それは幾ら何でも……いえ、何でもないです」
一夏の眼光に、千冬は抗議を諦めて部屋へ戻っていく。二人のやり取りを無言で見ていた箒は、一夏と碧に一礼してから、千冬の後を追いかける。
「面白い子ね、織斑君の妹さんは」
「あれを『面白い』で片づけられるお前もなかなかだな」
「君の家庭事情は調べて知ってるけど、何をどうやればあそこまで妹に好かれるの?」
「俺が知るわけないだろ……あれは、束の変態性を真似たんじゃないか?」
「篠ノ之博士の? でも、篠ノ之博士の妹さんはまともみたいだったけど?」
「箒は昔からストッパー役だったからな」
「まぁ、こっちの妹さんも大変だけど、当面の頭痛の種はもう一人の妹さんとその仲間だもんね」
「それもそろそろ終わらせることが出来るかもしれないがな」
「それって――」
碧が何かを言い掛けたタイミングで、一夏の携帯が鳴る。一夏は碧に断りを入れてからその電話を取った。
「何か分かったか?」
『今の亡国機業の拠点は、韓国みたいだね。撤退してく連中を追跡したら、そこにたどり着いたよ~。それから、いっくんが蹴散らした歩兵部隊だけど、一人残らず殲滅されたみたい。これは、亡国機業の仕業で間違いないよ』
「そうか」
いくら敵とはいえ、人の命を軽んじる事を、一夏はしない。束から消されたと知らされ、彼は名も知らぬ歩兵たちに黙祷を捧げた。
『いっくんは優しすぎるよ。まぁ、それがいっくんの好いところなんだけどね~』
「くだらない感想はいらない。それで、現在のトップの居場所は?」
『それも同じ、韓国の拠点にいるみたいだよ。辛うじて束さんでも識別出来たのは、その見た目がちーちゃんにそっくりだったから』
「つまり、そういう事か」
一夏がどことなくめんどくさそうな雰囲気で呟いたのを聞いて、束も電話越しに似たような雰囲気を醸し出した。
『そういう事だよ、いっくん。現亡国機業のトップの名前は織斑千秋。いっくんとちーちゃん、そして亡国機業にいるマーちゃんの母親だよ』
「母親といわれても、あまり思うところは無いが、いつの間にマドカに愛称なんてつけたんだ?」
『彼女はただいっくんの側にいたかっただけだから、束さんは敵判定しなかったんだよ。だから、いっくんたちと同じく愛称で呼んであげようと思って』
「……亡国機業の幹部と思われる女たちのデータは?」
『オータムって単細胞の事はよく分からなかったけど、スコールって女の事はアメリカを少し調べたら分かったよ。元軍人で、公式記録では死んでる事になってる女。アメリカ軍が秘密裡に続けているサイボーグ実験の被験者の一人だよ』
「またアメリカか……」
『いっくんが面倒だと思うなら、束さんがアメリカという国をこの地球上から消し去っても良いんだよ?』
「そんなことされたら、後始末が面倒だろうが。どうせやるだけやって、事後処理は俺に押し付けるんだろ?」
『さすがいっくん! 束さんの事はお見通しだね~』
楽しそうに答えた束を、本気で殴りたいと思った一夏は、電話越しに殺気を飛ばした。
『冗談は兎も角として、亡国機業のアジトの地図データと、スコールって女のデータはいっくんのパソコンに送っておくから』
「亡国機業の件が片付いたら、覚えてろよお前」
『それはプロポーズと受け取っていいのかい?』
「良いわけあるか! というか、どういう耳をしてたら今の言葉がそう聞こえるんだ」
『束さんの耳は、都合がいいように改変されて聞こえるように出来てるんだよ~』
「死ね!」
最後にそう吐き捨てて、一夏は電話を切った。側でずっと聞いていた碧は、何となく一夏の背中をさするのだった。
「苦労してるのね、相変わらず」
「同情するな……余計悲しくなるだろ」
「何かゴメンね」
碧の言葉に余計ガックリきた一夏は、盛大にため息を吐いてから気合いを入れ直し、部屋にあるパソコンからデータを呼び出す為に急ぎ足で部屋へ戻っていったのだった。
どんな耳してるんだよぅ……