IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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いろいろと狂ってる……


トップの考え

 一夏一人にやられた形でアジトに撤退してきたスコールたちを、一人の女性が出迎えた。

 

「随分と派手にやられたようね」

 

「一夏があそこまで前線に出てくるなんて思って無かったのよ」

 

「あの子は普段は無関心だけど、あれでかなり周囲の事を考えてる子だからねぇ……教え子たちを守る為ならあれくらいするでしょうよ」

 

「さすがは母親といった事なのかしらね? それが分かっているなら、何で出撃前に教えてくれなかったのかしら」

 

「教えるまでもなく知ってると思ったのよ。貴女も一夏のストーキングをしてたんなら知ってるはずですし」

 

 

 後半の言葉はスコールにではなく、彼女の後ろで不貞腐れているマドカに向けられたものだ。マドカは自分に掛けられた言葉だと気付き、不貞腐れた表情でそっぽを向いた。

 

「まぁいいわ。貴女たちが派手に負けてくれたお陰で、篠ノ之束の隠し玉が分かった事だし。またドイツ政府には踊ってもらおうかしらね」

 

「何でドイツが出てくるんだよ?」

 

「狙われたくせに分からなかったの? だから貴女は陰で単細胞とか言われてるのよ、オータム」

 

「誰が単細胞だ! お前こそ、後ろであれこれ言うだけで何もしないくせに!」

 

「トップが前に出てやられたらそれこそ意味がないじゃないのよ。それくらい分かりなさい」

 

 

 オータムの言葉を軽くあしらって、女性は再び視線をスコールに戻した。

 

「貴女は気が付いたはずよね?」

 

「篠ノ之束の隠し玉と思われるISの操縦者は、ドイツ政府が過去に大量に生産した試験官ベビーの一体」

 

「しかも出来損ないとして廃棄処分したはずの一体が、篠ノ之束の手に渡っている。これがどれだけドイツ政府に衝撃を与えるのか、貴女なら分かるわよね?」

 

「……もし篠ノ之束がその個体を解剖なり遺伝子検査なりをして、その結果を世間に発表すれば、ドイツ政府は非人道的だと非難される」

 

「だから私たちがその個体を処理してあげると申し出れば、ドイツ政府は私たちに協力するしかなくなる。映像もあるわけだし、私たちがドイツ政府の非人道的行動を発表しても良いと脅せば」

 

「卑劣極まりない方法だな。反吐が出るぜ」

 

「あら? 暴れる機会が増えるかもしれないんだから、戦闘バカな貴女なら歓迎してもおかしくない展開だと思うのだけど?」

 

「誰が戦闘バカだ!」

 

 

 オータムの抗議を完全に無視して、女性はさっそくドイツ政府へ交渉へ向かう準備の為に部屋に引っ込んだ。

 

「チッ!」

 

「オータム。少しは落ち着きなさい」

 

「これが落ち着いてられるかよ! というか、いつの間にアイツがトップになったんだ?」

 

「あれでもかなりの実績を積んでるからね。前トップを押しのけて今の地位にのし上がったみたいよ」

 

「ケッ、気に入らねぇぜ。というか、アイツの実績の殆どはオレたちが上げたもんだろうが! いつの間にアイツの功績になってるんだ」

 

「裏で指揮を執っていたのが彼女だから、実際に動いたのが誰であろうと功績は彼女の物になるのよ。上の考え方は私たちのとは違っているのだから」

 

「ますます気に入らねぇな。おいM! 妹の前にあのババァを始末して来いよ。テメェの母親なんだろ」

 

「私には関係ない。私が殺したいのは織斑千冬ただ一人」

 

 

 オータムにそう答えて、マドカは自分の部屋に引っ込んでしまう。

 

「ケッ、この母親にしてこの子有りって感じだな」

 

「まぁまぁ、味方が増えるのは私たちにとっても悪い話ではないでしょうし、ドイツ政府には訓練機があるわけだから、私たちにも使わせてもらえるかもしれないわよ? 何せ相手はISに乗ってるんだから」

 

「というか、例の試験官ベビーだけどよ、そいつらが自分で公表する事は出来ねぇのか? 実際、試験官ベビーだが上層部に喰いついてるヤツだっているんだろ? それを公表すれば、上の連中を纏めて吹き飛ばせるだろうし、公表しない手は無いと思うんだが」

 

「遺伝子操作で公表出来ないようにされているようよ。その点も含めて、非人道的行為だって事なんでしょうし、ただでさえ疎まれている存在である彼女が、ドイツを貶める事をするとも思えないしね」

 

 

 何となく腑に落ちない気分を味わったオータムだったが、そこでふと一つの疑問を懐いた。

 

「そう言えばオレ、あの女の名前を知らねぇな……コードネームも聞いたことがねぇ」

 

「織斑であることは分かっているけど、それ以上の事は誰も知らないみたいよ。だから『Mの母親』とか『織斑母』とか呼ばれてるわ」

 

「スコールも知らねぇとなると、本人から聞き出すしかねぇのか」

 

「そんなに知りたいのかしら?」

 

「別に知らなくても何の支障もねぇけど、一度気になるとなんかもやもやするんだよな……」

 

「なら、そんなもやもや忘れさせてあげるわよ」

 

 

 妖艶に微笑むスコールに、オータムは頬を染めて視線を逸らす。なんだか誤魔化された気もしなくは無かったが、オータムにとっても悪い話では無かったので、そのままスコールの誘いを受けたのであった。




またしてもオータムェ……

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