サイレント・ゼフィルスの操縦者の顔を見て、千冬と箒は攻撃の手を止めてしまった。その隙を相手が見逃すはずが無かったが、持ち前の反射神経で何とか攻撃は躱した。
「敵の前で呆けるなんて、死にたいならはっきり言ってくれればいいのに。一切の手加減なく、あの世に送ってやるよ」
「何故私と同じ顔なんだ……」
「そんなこと、お前が知る必要は無い。ここで死ぬお前――」
「千冬様!」
突如雷撃がサイレント・ゼフィルスを襲い、千冬との間に距離を作った。
「だ、誰だお前は」
「私は、篠ノ之束様の身の回りの世話をさせていただいております、クロエ・クロニクルと申します。以後お見知りおきを」
「あ、貴女が姉さんの?」
「篠ノ之箒様ですね。お姉様である束様にはお世話になっております」
「いきなり現れて攻撃してくるなんて、随分と躾けのなってない小娘だな」
「私の任務は、千冬様と箒様の御身をお守りする事ですので。お二方に危害を加えようとなさっている貴女様は、私の敵という事ですから」
「えっと……クロエさん?」
「私の事はクロエ、とお呼びください」
敵前だというのに恭しい態度で接してくるクロエにペースを乱されたが、千冬と箒はとりあえず冷静さを取り戻し状況の整理をする事にした。
「クロエはアイツが誰なのか知っているのか?」
「彼女の名前は織斑マドカ様。一夏様、千冬様の妹に当たるお方で、亡国機業の一員です」
「どういう事だ? 私と一夏兄はたった二人の兄妹のはずだぞ?」
「お二方のご両親が蒸発する前に、マドカ様はお生まれになられたのですが、千冬様は当時一歳。知らなくても仕方がないと思われます」
「一夏さんは知っているのか?」
「マドカ様は一夏様の生誕祭当日にIS学園に忍び込み、一夏様との対面を果たしております」
クロエの説明に、千冬と箒は驚きの表情を、マドカは警戒心を露わにした表情でクロエを見詰めた。
「何故お前がそこまで知っているんだ」
「私ではなく、束様が貴女様を監視しておりますので、貴女様の行動は全て把握しております。貴女様が一夏様の写真でご自身を慰めている事も――」
「余計な事を言うな!」
「随分とマセた小娘だな。私の妹という事は、最高でも中学三年生、蘭と同い年だろ? その年でもう――」
「それ以上言うな!」
完全にキレたマドカが、三人目掛けて攻撃を繰り出すが、クロエが何かを呟くとその攻撃は全て撃ち落されてしまった。
「おいM! いい加減戦線に復帰しろ! このまま捕まったら何もかも終わりだろうが」
「チッ! お前の言う事を聞くのは癪だが、確かに旗色が悪い。あの新手のIS、かなり厄介な能力を持っているぞ」
いったん引いてオータムたちと合流したマドカだったが、織斑家特有の勘でその場から飛び退いた。その一瞬後に、雷撃が落ちる。
「さすがですね。この閻魔の攻撃を察知して避けるとは」
「気配も全く感じさせないで攻撃を繰り出すなんて……」
「確実に討ち取ったと思ったのですが、やはり織斑家のDNAは伊達ではありませんね」
『二人とも聞こえる? このままじゃ壊滅に追いやられちゃうから、一時撤退よ』
クロエがもう一度攻撃を繰り出そうとしたタイミングで、マドカとオータムにスコールからの連絡が入る。どうやら向こうも旗色が悪いらしいと、二人は大人しく指示に従った。
「憶えておけ、織斑千冬。お前を殺してお兄ちゃんを私の手に――」
「私はお前に負けるわけにはいかない」
「姉妹喧嘩なんてしてる暇があるなら、さっさと撤退するぞ。このまま終わるつもりか」
オータムの言葉に舌打ちを堪えながら、マドカは最後まで千冬に鋭い視線を向けていた。
「追い掛けなくて良いのか?」
「そちらは私の仕事ではありませんので。ですが、束様がしっかりと衛星で追跡しているでしょうから、ご心配はいりません」
「まぁ、姉さんならそれくらい簡単に出来るだろうしな……ところで、そのISは姉さんが?」
「はい。私のような出来損ないの為に、束様と一夏様のお手を煩わせてしまったのです……」
「束さんと一夏兄が一緒に開発したなら、あのような攻撃が出来ても不思議ではないな……側にいた私たちですら攻撃の兆候を感じ取れなかった」
「閻魔の特性として、私が敵と判断すれば相手に攻撃する事が出来るようです。攻撃内容はあくまでも自然の猛威という感じらしいのですが、今回は落雷でした」
「毎回違うのか?」
「テストの段階では、竜巻や水柱といった攻撃もありましたので、次回何が出るかは私も分かりません。その土地土地で違うのかもしれませんし」
クロエの説明に、千冬と箒は顔を見合わせた。束だけならそのような気まぐれでISを造る事はあっても、一夏も加わっているのにそのような事があるのだろうか、という感じの表情を浮かべていたが、クロエにはその表情を読み解く力は無かったのだった。
閻魔の攻撃方法は毎回違う、という設定で