IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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一夏がいないだけで不安……


学園内の不安

 一年生が学園を離れるということは、一年一組の担任である一夏や、簪の護衛である碧、そして更識に雇われたナターシャといった実力者たちも学園を離れる事になる。今IS学園が狙われれば普段以上のダメージを負う事になるのだろうが、生徒会の二人が在校生を落ち着かせることに成功したので、学園内はそれ程不安を感じさせない雰囲気が漂っていた。

 

「とはいっても、一夏先輩のような絶対的な安心感を持たせることは出来なかったけどね」

 

「仕方ありませんよ。お嬢様は現役の国家代表とはいえ、まだ世界を制したわけではないのですから」

 

「一夏先輩は無傷で連覇、ついでに言えば第二回モンド・グロッソ決勝では『あんな』強さを見せたわけだからね」

 

「織斑先生の逆鱗に触れれば、一瞬で倒されると皆知っているわけですし、そことお嬢様を比べればやはり多少なりとも不安は残ってしまうでしょう」

 

 

 普段はむしろ、一夏の機嫌を損ねないようにとビクビクしている生徒もいるくらいなのだ。それだけ一夏という存在が学園を支配していたのだが、普段からそんな事を考えて生活している生徒はそれ程多くなかった。だから学園から一夏がいなくなるという事は、生徒たちを不安にさせるのだ。

 

「臨海学校の時はここまでじゃ無かった気がするんだけど?」

 

「あの時はまだ、亡国機業に襲われたわけではありませんでしたから。文化祭が襲撃された事は全校生徒が知っているわけですし、潜在的な恐怖は今の方が大きいわけですから、織斑先生が学園にいない今、襲われたらどうしようという不安も大きくなるわけです」

 

「学園にはそれなりのセキュリティが施されてるんだから、そこまで気にする必要は無いと思うんだけどな……やっぱり一夏先輩がいてくれた方が安心出来るのかしら」

 

「よく分からない機械で守られているよりも、織斑先生という、実力が十分に知れ渡っている人に守ってもらっている方が、安心感は大きいでしょう。それはお嬢様だって分かっているのではありませんか?」

 

 

 虚に問われ、楯無は苦笑いを浮かべながら頷く。彼女もまた、カメラやセンサーよりも一夏に守ってもらっている時の方が安心出来るのだ。

 

「その気持ちは分からなくは無いんだけどさ……だからといって一夏先輩が少し学園を空けたからといって、皆ビクビクし過ぎじゃないかしら――って思うのよね。薫子ちゃんを使って安心させようかしら?」

 

「あまり黛さんを使うのはお薦め出来ませんね。あの方はいろいろと前科がありますので」

 

「ここ最近は大人しくしてるんじゃないの? 少なくとも私は何も聞いてないわよ?」

 

「以前織斑先生の部屋を探ろうとして、織斑先生に怒られて以降、とりあえずは大人しくしてるようですが、諦めたわけではなさそうですので」

 

「その情熱を別のところに向けられれば、薫子ちゃんも立派なIS操縦者、もしくは整備士になれるだろうにね」

 

「彼女はIS関連のマスメディア志望ですから」

 

 

 薫子本人はそこまでISに興味があるわけではないが、取材の際にISの知識があった方がやりやすいだろうという理由でIS学園に進学したのだ。そのような不純な動機でも合格出来るだけの知識と技量があるのだから、少し真面目にやればもっと成績が上がるのにというのが、薫子に対しての職員室の評価だと楯無は知っているのだ。

 

「一夏先輩からの暗号メールだと、襲われるのはやっぱり向こうで、確率的には明日が一番危ないらしいけど……これを全校生徒に発表するわけにもいかないし」

 

「我が更識の不祥事を公にするわけにはいきませんから。内密に処理出来るものはそうしておかないと、後々面倒な事になるでしょうから」

 

「そっちも片付けないといけないのよね……碧さんのお陰で裏切者のリストは早々に出来たけど、まだ蜂起してないからって監視だけに留めてたのが失敗だったわね……更識の財産の殆どと人員の八割を持っていかれた」

 

「お嬢様が片手間で良いというから、監視が甘くなったのではありませんか?」

 

「だって、身内を疑うのは誰だって嫌でしょ? まさか監視してたはずの人が呑み込まれてたなんて思っても無かったし」

 

 

 それなりに信頼していた相手に裏切られた事により、楯無はますます人間不信に陥っていきそうになったが、一夏と碧がしっかりとフォローしたお陰で、今まで通りとさほど変わらない程度で収まったのだった。

 

「とりあえず今は、一夏先輩から任された学園の安全を全力で守るわよ」

 

「もちろんです。そして、これが本日処理すべき書類になります」

 

「……これ全部?」

 

「はい。今日中に目を通しておいてくださいね」

 

「虚ちゃん……私に何か恨みでもあるの?」

 

「さぁ、どうでしょう」

 

 

 満面の笑みで書類の山を手渡してきた虚に、楯無は恨みがましい視線を向けるが、あまり効果はないと分かっているのでため息を吐いてから書類の山に手を伸ばしたのだった。




手伝ってもらえないもんな……

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