IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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情けなさすぎる……


バスの中で謹慎

 クラスメイトが全員バスから降りていく中、千冬は一人バスの中で謹慎していた。監視がいないから抜け出すのは難しくないのだが、もし抜け出したことが一夏にバレたら――気配でバレるので抜け出した時点でアウトなのだが、この程度の罰では済まないだろうと理解しているので、千冬は大人しくバスの座席で正座していた。

 

「ちーちゃんは相変わらずだね~」

 

「なっ、束さんっ!? 何故ここに」

 

「いっくんたちの事を衛星で観察してたら、ちーちゃんがいっくんに怒られてる場面を『たまたま』見ちゃったから、ちょっとからかいに来ただけだよ~」

 

「たまたまなわけないでしょうが!」

 

「あんまり大声を出すと、いっくんにバレちゃうよ?」

 

「私は別にバレて困ることはありませんし。それよりも束さんの方が、一夏兄に知られたらマズいんじゃないですかね?」

 

 

 千冬の切り返しに、束は面白そうな表情を浮かべる。

 

「ちーちゃんが束さんに脅しをかけてくるなんて、随分と成長したんだね~。まぁ、確かにその大きな胸は中学時代と比べてだいぶ――」

 

「何処を見てるんですか!」

 

「おっと! いっくんの攻撃に比べたら、ちーちゃんの攻撃なんて赤ちゃんのパンチ程度だよ」

 

「一夏兄と比べたら、全人類がその程度になってしまうでしょうが」

 

「まぁいっくんは別格だからね~」

 

 

 へらへら笑いながら、千冬の攻撃を躱していた束だったが、背後に気配を感じて一瞬身が竦んだ。その一瞬の隙に千冬が攻撃を仕掛け、束の顔を掠めたのだった。

 

「おっと、危ない危ない……って、いっくん!? 今日はまだ束さん、何もしてないでしょうが!」

 

「奴らの監視はどうした? こんなところで油を売ってていいと思ってるのか?」

 

「ちゃんと自動追尾してるから大丈夫! だから片手で束さんを持ち上げるのは止めてくれないかな? こめかみの辺りから人体から聞こえちゃいけない音が聞こえるんだけど」

 

「い、一夏兄? どうしてバスに戻ってきたの?」

 

「学校行事中は――まぁ、今は身内しかいないから見逃してやるか。この馬鹿ウサギの気配を感じ取ったから戻ってきただけだ」

 

「いっくんは束さんの気配に敏感だからね~。やっぱり束さんといっくんとで子供を――」

 

「肉片になりたいならそう言え。今すぐ解体してやる」

 

「いっくんは冗談が通じないんだから~」

 

 

 口ではおちゃらけている束だが、その身体が小刻みに震えてるのを見て、千冬は冗談ではなく本気で解体するつもりなのかと一夏を見て戦慄を覚えた。

 

「それで、何しに来たんだ?」

 

「ちーちゃんの暇つぶし相手になりに来ただけだよ~。箒ちゃんや周りの有象無象共がいなくなって暇だろうと思って、この束さんが話し相手になりに来たってわけ」

 

「反省中なんだから大人しくしているのが当たり前だろうが。喋ってるようでは反省していないと判断するしかなくなるから、束は結局千冬の邪魔をしに来たという事になるが?」

 

「相変わらずいっくんは融通が利かないよね~。真面目なのはいい事だけど、そんなんじゃ疲れちゃうよ?」

 

「お前らの相手をしてるだけで十分疲れてるから、お前らを片付ければ少しは落ち着けるんだがな?」

 

「い、一夏兄……目が笑ってないよ?」

 

 

 表情こそ冗談を言っている風だが、一夏の目がそのような誤解を許さない程、鋭い光を放っている。さすがに身の危険を感じた千冬と束は、素直に一夏に頭を下げた。

 

「そうそう! いっくん、アイツらが動くのは二日目の可能性が高いから、今日はそこまで警戒する必要は無さそうだよ」

 

「露骨に話題を逸らしたな……まぁ、明日の可能性が高いのは最初から分かっていたが、お前が言うならそうなんだろうな。万が一に備えてお前の方でも警戒を怠らないようにと伝えておけ」

 

「了解だよ! って、誰に?」

 

「お前の娘に」

 

「お、おーおー! クーちゃんへの伝言だったんだね~。って、何でクーちゃんが見張ってるって分かったの?」

 

「お前は他人を区別出来ないからな。見張りに最も向いてない人間だろ、お前は」

 

「だって、束さんにとって関係ない奴らは全員同じに見えるからね~。まぁ、クーちゃんへの伝言はちゃんと預かったから、そろそろその殺気をしまってくれないかな?」

 

「お前を前にするとどうしても抑えきれないんだよな……」

 

「それだけ束さんが特別って――ゴメンなさい」

 

 

 何時も通りふざけて済まそうとした束だったが、一夏に一睨みされて大人しく頭を下げる。束相手にこれだけ出来る人間が他にいるわけがないと千冬も分かっているので、この二人の関係に口を挿むことはしないのだ。

 

「兎に角そういうわけだから、束さんは急ぎラボに戻ってクーちゃんにいっくんからの伝言を届けなければ! じゃあそういうわけで!」

 

 

 音も無く消えた束に、千冬は尊敬の、一夏は呆れた視線を向けていたのだった。




束も少しは成長しなきゃ……

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