IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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反省はするんですけどね……


活かされない反省

 京都行の新幹線の中で、千冬は不機嫌なのを隠そうともしない表情で一夏の隣に座っている相手を睨みつけていた。

 

「おい、さっきから何を見てるんだ?」

 

「あの女だ。一夏兄の隣に座ってだらしない顔をして……裁判抜きで死刑確定だな」

 

「相変わらずぶっ飛んでる超理論だな……あの人は一夏さんに雇われて京都に行くんだから、一夏さんの隣に座ってもおかしくはないだろ」

 

「雇ったのは簪の家だろうが! 何故一夏兄の隣に座る!」

 

「当面の資金と報酬は、一夏さんが肩代わりしてるんだから、一夏さんが雇ったといっても過言ではないだろ? それにあの位置なら、簪の姿もバッチリと見えるんだし、座る位置としてはベストポジションだと思うが?」

 

 

 箒の言うように、ナターシャは一夏の顔を見ているのではなく、その方向にいる簪を見ているのであって、千冬の言うようにだらしない表情もしていない。だが一夏の事が絡むといつも以上に残念な思考回路になる千冬にとって、そのような事実は頭の中に入ってこないのだった。

 

「束さんに連絡して、今すぐあの席を消滅させよう。束さんなら新幹線にダメージを与える事無く、あの席だけを消しさせるだろうしな」

 

「そんな事をすれば、一夏さんに絶縁を叩きつけられても仕方ないだろうな」

 

「い、一夏兄と……絶縁だと?」

 

 

 箒が使う最上級の脅し文句が、一夏に絶縁されるという言葉だ。この言葉は千冬だけではなく、束にも効果があるので、どうせ覗き見しているであろう姉にも同時に釘を刺した形なのだ。

 

「一夏さんの隣に座っているのは、あくまでも簪の護衛であって一夏さんの彼女ではない。それが理解出来ない程おバカではないだろ?」

 

「それは分かってるんだが……一夏兄の隣に座っていいのは私だけだ! という思いがどうしても拭い去れなくてな……しかも簪がいる方向に一夏兄がいるから、一夏兄を見詰めてるようにしか見えなくて許せないんだ」

 

「相変わらずのブラコンぶりだな……卒業までに一夏さんを自由にするんじゃなかったのか?」

 

「そんなこと言っていない。少しでも一夏兄に迷惑を掛けないように心がけると言っただけで、一夏兄から卒業するなんて出来るわけがないだろ? それはお前だって同じなはずだ」

 

「私は別に、そこまで一夏さんにべったりというわけでは……」

 

 

 箒は自分で言っていながら、自分の言葉が事実だと思えなかった。そりゃ束や千冬程べったりではないが、自分も一夏がいなければ落ち着けないのは確かだと自覚しているからだった。

 

「兎に角、一夏さんに迷惑を掛けてこの旅行中に謹慎させられるなんて御免だからな。幾ら興味がないからといって、京都に来てまで部屋で座禅を組まされるなんてまっぴらだ」

 

「それは私だって同じだ。だが、一夏兄に近寄る虫を始末する務めが私にはあるんだ!」

 

「そんなものは存在しないし、一夏さんが選んだ相手なら、そうそう酷い相手ではないだろ。それとも、お前は一夏さんの目が節穴だと言いたいのか?」

 

「そんな事を言いたいわけではないが、一夏兄は優しいから、つい相手の嘘を信じ込んでしまう可能性だってあるかもしれないだろ?」

 

「一夏さんは相手の心の裡を覗き見る事が出来るんじゃないかってくらい鋭い人だ。そんな嘘すぐに見破るだろうし、そもそも初めから嘘だと気付くはずだろ?」

 

「うっ……」

 

 

 ぐうの音も出ない正論を叩きつけられ、千冬は何とかして箒の言い分を覆そうとするが、やはり正論には敵わず肩を落とした。

 

「分かった……とりあえずあの女の事を消す事は止めておく。だが、少しでも不可解な動きを見せたら、容赦なく消すからな」

 

「だから、お前にそんな権限無いだろ? それに、あの人はアメリカ軍所属という事になっている人だぞ? お前はアメリカが難癖をつけてくる口実を作るつもりなのか? それこそ、一夏さんに迷惑を掛ける事になるんじゃないのか?」

 

「アメリカだって、あの人の事を殺そうとしたんだろ? だったら今更難癖をつけてくるとも――」

 

「その辺りは私たちが考えている以上に複雑なんだろ。というか、大人はそういうものだって姉さんが言っていたのを聞いた事があるぞ」

 

 

 使える者は何でも使う、それが大人の汚い所であり賢い所なのだろうと、箒はその言葉を受け容れた。確かにアメリカはナターシャの事を殺そうとしたが、その事を認めたわけでも、今でも殺そうとしているわけではない。そのナターシャを千冬が殺せば、アメリカに日本へ攻め込む口実をくれてやることになりかねないと、箒は冷静に千冬を諭す。

 

「仕方ないか……これ以上一夏兄に迷惑はかけられないからな」

 

「そう反省して、何度迷惑を掛けてきたんだ、お前は?」

 

 

 昔から反省はするのだが、それが全く活かされない千冬に、箒は苦笑いを浮かべて一夏に一礼したのだった。




反省した事をすぐに忘れる残念な頭……

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