IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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教師と先輩の両方は大変だろうな……


後輩の指導

 束のラボから戻ってきた一夏は、山積みになっている書類を見てため息を吐いた。

 

「これじゃあ刀奈の事を怒れなくなるな」

 

 

 楯無が書類作業から逃げ出すのを怒る立場なのだが、自分も逃げ出したくなってきたのを実感して、一夏は苦笑いを浮かべながらそう呟き、書類の山に手を伸ばして作業を始める。

 

「あっ、織斑先生。お帰りだったんですね」

 

「山田先生。まだ残っておられたのですね」

 

「私もまだ仕事が残っていますので……修学旅行前にいろいろと片付けておかなければいけない事が溜まってまして」

 

「お互い、苦労しますね」

 

「そうですね――って、相変わらず早いですね」

 

「何がです?」

 

 

 真耶に指摘されて漸く、一夏は自分が無意識のうちに作業を進めていた事に気が付いた。

 

「これくらい山田先生にも出来るのではありませんか?」

 

「私には無理ですよ~。今だって織斑先生とお話ししているだけで、作業スピードが大幅に落ちてるんですから」

 

「なら、話しかけないようにしましょうか?」

 

「それはそれで作業スピードが落ちそうなので、程よくお喋りをしながら作業しましょう」

 

「山田先生がそれで構わないのでしたら、私に異存はありません」

 

 

 まだ周りに数人の教師が残っているので、一夏は真耶に対して丁寧語を使っている。その違和感が拭えないのか、真耶は微妙に口元を引きつかせていた。

 

「あの、織斑先生」

 

「何でしょうか?」

 

「さすがに会話の内容を聞かれることは無いでしょうし、何時ものように喋っていただけませんか?」

 

「私は何時も通りですが?」

 

「いえ、教師としての織斑一夏ではなく、先輩としての織斑一夏としての何時も通りです」

 

「……そんなに気にする事か? 前に刀奈にも言われた事があるが」

 

「一夏さんは全てのIS操縦者、ならびに操縦者の卵にとって憧れの対象ですから、丁寧語で話されると何だかむず痒いんですよ。実績も立場も自分と比べ物にもならない相手が、自分なんかに申し訳ないって思っちゃうんですよ」

 

「そんなものか?」

 

 

 一夏にはその感覚が分からないのだが、真耶と楯無が言うならそうなんだろうなと納得して、とりあえず何時も通りの口調にする事にした。

 

「それで、真耶が片づけておかなければならない仕事というのは?」

 

「一組所属の子たちのデータを纏めておかなければいけないので。思ってた以上の成長を見せてくれた子もいれば、伸び悩んでる子もいますので、データを纏めて指導に役立てられればと思いまして」

 

「真耶も立派な教師だな」

 

「からかわないでくださいよ。私なんて一夏さんの足元にも及ばないんですから、こうやって目に見える形にしないと指導出来ないんですよ……一夏さんなら、その場で何が悪いのかすぐ分かるでしょうし、それをどう改善すればいいのかもその場で理解出来ますよね?」

 

「まぁある程度ならな」

 

「私が一夏さんのように出来るなんて思えないので、こうやってデータを纏めてるんです。教師としての資質がもっと高ければ、やらなくてもいい事なんですよ」

 

「そんな事はないだろ。生徒側からしても、自分の成長データが残っているというのはありがたい事だろうし、自分と同じように悩んでくれる教師の方が、生徒としては親しみやすいのではないか? 現に俺よりお前の方が、生徒からの信頼が厚いようだしな」

 

「あれはからかわれてるだけですよ~!」

 

 

 一夏の冗談に、真耶は沈鬱な表情から何時も通りに近い表情に切り替わる。それを見て一夏は真耶の頭に手を置いて、多少乱暴に頭を撫でた。

 

「な、なんですか!?」

 

「お前は昔から物事を悪くとらえがちだったからな。これで少しは気が楽になったか?」

 

「あっ……」

 

「俺みたいに恐れられるようになりたいわけじゃないだろ? ならお前はそれで良いんだ。からかわれていても、生徒たちはお前の事をバカにしたりはしないだろ? それはちゃんと教師として尊敬されている証拠だ」

 

「そう…なんですかね……」

 

「まぁ偶に蹴躓いたりして顔面を強打してる時は、本気でバカにされてるかもしれないがな」

 

「酷いですよ!? 私だってこけたくてこけてるわけじゃないんですからね!」

 

「昔からもう少し落ち着けば、代表になれたかもしれないと言われているんだから、もっと余裕をもって行動したらどうなんだ?」

 

「こればっかりは治らないんですよ……冷静さを心がけようとすればするほど、気が焦っちゃって……」

 

「落ち着こうと思うからいけないんじゃないのか? あくまで自然体でいれば、お前は実力者なんだから。下手に気負わないで、練習だとか思い込んで自然体を作り出せば、お前はもっと成長出来ると思うぞ」

 

「い、一夏さん――」

 

「じゃあ、お先に」

 

「へ? ……もう終わったんですか!?」

 

 

 自分よりはるかに多かったはずの仕事を終わらせて席を立った一夏を、真耶は驚愕の表情で見つめたのだった。




相変わらずのハイスペック教師……

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