IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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真面目なのとそうじゃないのと……


二つの任務

 閻魔のフィッティングとパーソナライズが終わり、完全に閻魔がクロエの専用機になったのを確認して、一夏はIS学園に戻ろうとして、束に腕を掴まれた。

 

「何だ」

 

「せっかく来たんだし、ゆっくりしていってよ~」

 

「そんな暇は無い。そもそもここに来たのは、お前が余計な事をしないように見張る為だからな」

 

「そんなことしないよ~」

 

「簪の時は、IS選手としてだけでなく、人としての命が終わるところだったんだが?」

 

「あれは全くの他人のISだからだよ。今回は束さんの娘であるクーちゃんの機体なんだから、そんな事をするわけ無いじゃないか!」

 

「威張って言うな!」

 

「割れる!? いっくん、束さんの頭蓋から聞こえちゃいけない音が聞こえるから! ――へにょ!?」

 

 

 持ち上げていた束を床に投げ捨て、一夏はクロエへと視線を向けた。

 

「この阿呆の事は兎も角として、クロエにはいろいろと手間をかける事になるだろう」

 

「い、いえ! 一夏様のお手伝いが出来るなど、私にとっては光栄の極みでございます」

 

「そこまで想われるなんて、やっぱりいっくんは女殺しだね~! 束さんのハートも盗んでおいて、この女殺しの恋泥棒~!」

 

「どうやらお前は、一度本当に死にたいようだな?」

 

 

 一夏の気配が揺らいだような気がして、束とクロエは同時に一夏から距離を取り、そして束はその場に土下座した。

 

「悪ふざけが過ぎました!」

 

「くだらんことはこれくらいにして、クロエにしっかりと作戦を伝えておけよ」

 

「いっくんが伝えれば良いんじゃないの?」

 

「俺はいろいろとまだやる事があるんだ。お前とくだらんコントをやってる暇など、本来は無い程にな」

 

「コントって……まぁ、いっくんが事実上の経営をしてるわけだし、忙しいのも仕方ないかな。それじゃあいっくん、また京都で」

 

「なんだ、お前も来るのか?」

 

「そりゃラボごと移動しなきゃいけないし、束さんもそれなりに京都には興味があるんだよ」

 

「吹き飛ばしてどれだけの被害が出るか妄想するだけだろ」

 

「実践しても良いんだけど、そんなことしたら本気でいっくんに殺されるからね~」

 

 

 束なら本気でやりかねないと、クロエはいざという時は自分が止めなければいけないのだろうかと不安になったが、さすがの束でもそこまではしないだろうと考える事で、この問題はいったん忘れる事にしたのだった。

 

「まったく、いっくんも心配性だよね~」

 

「一夏様があそこまで心配なさっているのは、束様の事を考えてくれているからだと思いますが」

 

「それは分かってるんだけどさ~、もうちょっと束さんの事を信じてくれてもいいと思うんだよね~。ISのお披露目だって、いっくんに怒られるから地味にしたのにさ~」

 

「本来のプランが過激だっただけに、一夏様が束様の行動を厳しく見張るのも仕方ないかと……」

 

「まぁね~」

 

 

 束も一応は自覚しているので、クロエの注意を素直に受け入れて作戦の説明をするために真面目な表情に切り替える。

 

「今回私たちが京都でしなきゃいけない事は二つ」

 

「はい」

 

「まずは亡国機業が襲ってきた時の援護と、敵の捕獲。クーちゃんは援護で、束さんが捕獲担当だから、クーちゃんは敵を打ち倒す事だけに集中してね」

 

「分かりました」

 

 

 これが一つ目だろうと、クロエはもう一つの任務を聞くために黙って束を見詰める。

 

「もう一つは、いっくんとの婚前旅行を楽しむ事かな~」

 

「……はい?」

 

「海外旅行も捨てがたいけど、いっくんや束さんが外国に行くのは難しいし、何より日本語が通じないのが面倒だよね~。ISに関係している仕事をしてる連中は兎も角として、何で束さんがあいつらの言葉に合わせなきゃいけないんだよって話だよね~」

 

「……あの、束様?」

 

「なんだい、クーちゃん?」

 

 

 クロエが何かの冗談かと尋ねようとすると、束はクロエが何を気にしているのか分からないと言いたげな表情でクロエを見詰める。

 

「二つ目の任務というのは?」

 

「だから、いっくんとの婚前旅行を楽しむ事だよ! 既にクーちゃんという娘がいるけど、そんなのは全然気にしないもんね~!」

 

「そんな事を言えば、一夏様がお怒りになると思うのですが……」

 

「だから、こっちはいっくんには内緒で遂行するんだよ! さすがに一緒に行動すれば有象無象共が大騒ぎするのは束さんにも分かってるから、いっくんが京都見物している所を全て映像に残し、後から束さんとクーちゃんをその映像に合成して旅行の記録を作るんだよ!」

 

「……なんだか虚しくなってきました」

 

 

 束も一夏も、普通に旅行する事が難しいのは理解していたつもりだったが、まさかそこまでして一夏との旅行の思い出を作りたかったのかと知り、クロエは束を止める事はせずに応援する事にしたのだった。

 

「それじゃあクーちゃん、試しにその閻魔を動かしてみようか~」

 

「そ、そうですね。お願いします」

 

 

 試運転をすっかり忘れていたクロエは、束に連れられるように実験室から簡易アリーナへと移動したのだった。




束も真面目ならなぁ……

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